自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

自転車紀行

雲のなかと雲のうえと雲海と御釜(Aug-2019)

雲が晴れた。これまで十数メートル先の視界ですらおぼろげだった。車の速度だったなら不安でならないほどの白い世界、それが晴れた。 本当のところは奥羽山脈中覆域を覆っていた厚い雲の上に抜けただけだった。蔵王エコーライン。標高は1,300メートルを…

苔をゆく 群馬・小平座間林道(Jul-2019)

地図で見つけた道だった。そこでは県道なのか市道なのか、林道なのかそれとも登山道なのかわからなかった。わかったのは「こんなところに道がある」という事実であり、それをたどった結果、「つながっている」ことから湧いた興味だった。 道は現在のみどり市…

都夫良野・丹沢湖・西丹沢(Jul-2019)

開成(かいせい)という駅で降りた。神奈川県開成町、駅は小田急小田原線。小さな町である。町には駅がひとつだけあって、今までは小田原ゆきの急行に乗っていれば通過する駅だった。列車の窓から、動体視力の優れている日ならば駅名標を読むことができた。…

村上、塩引鮭、瀬波温泉(Jul-2019)

眠っていた。長らく。青空のもと、列車の窓から差し込む7月の強い日差しを背に受けながら、でもそれはじりじりと暑いわけでもなく、もともと気温がさほど高くない日に、列車内に冷房も入っていたから、中和されてちょうどいいくらいだった。眠るにはまさに…

村上、笹川流し、鼠ヶ関(Jul-2019)

午前2時半。車で家を出た。僕にとってふだん起きていることがない時間。外の空気に朝の独特の香りはまだない。どちらかというと夜の延長。しかしながらそれとも違う。半寝状態であてもないテレビを見続けているようなルーズさがない。一度仮眠したことでス…

白河から黒磯へ(Jun-2019)

会津田島から山を越え、白河まで下ってきた僕は、西郷(にしごう)村で気分よくラーメンを食べていた。時間もそれほど遅くなかったし、新白河から輪行して帰ろうかと思ったのだけど、もう少し走ってもいいなと思った。 天気は羽鳥湖あたりからずっと分厚い曇…

南会津から天栄村、白河へ(Jun-2019)

南会津は遠い。会津田島の駅に降り立ち、自転車を組んでもう10時だ。むしろ東北新幹線を郡山で降り、磐越西線で向かう会津若松のほうが時間距離でいうと近い。そもそも野岩鉄道が開通し、鉄道路線が首都圏と直結したのが1986年、いっぽう道路のほうは…

赤城南面千本桜

赤城山から下ってきた道の途中、ルートを引いているときに「千本桜」の文字を目にした。はじめ、別の県道でルーティングしていたのだけど、何となくその文字に惹かれ、いささか他の道より心もとない、一本の直線路に引きなおした。 確かに桜が咲けば多少なり…

利根川の原風景と赤城山(May-2019)

ああ先週も乗ったなあと高崎線から上越線へ。なにをしているんだいったい、という気にはならなくて、同じ方面同じような場所に立て続けに行くっていうことが僕にはけっこうあって、全然気にしない。むしろ先週と同じ乗り継ぎは印象が残っているし勝手がわか…

利根川源流めぐり(May-2019)

坤六(こんろく)峠という峠がある。群馬県北、県道63号水上片品線が町界で越える峠である。以前から訪れてみたいと思っていた場所で、でもなかなか行けずにいた。いろいろな踏ん切りが必要な場所だった。たとえば、その日のルート長がそれなりに長くなる…

ビワイチ(May-2019)

そもそも僕が自ら〇〇イチなどという達成目的のサイクリングを計画するということはまずなく──どこかの島に出かけたり、湖をめぐろうとか、結果的にルートが一周になることはあれど──、したがって琵琶湖を一周したいなどという発想で事が始まるのは、他人(…

箱根やまなみ林道・箱根山林道(Apr-2019)

つまらない、退屈な道。 それが箱根やまなみ林道の情報を収集していておおむね得られた情報だった。情報源の多くは自転車か、バイクか、ジムニー乗り。木々に囲まれた見晴らしのない林道は誰の目にも魅力に欠けるようだった。上りきれば360度の遠景を望む…

桜・菜の花・いすみ鉄道サイクリング(Apr-2019)

暖かい。暖かくなった。僕の待ち望んでいた春が来た。出かけるのにふさわしい。こんな日だから出かけよう。 車に自転車を無造作に積み込んだ。自転車一台だからバラしもせずそのまま、後ろの席を全部倒して。窓を開けて走るにはまだ少し肌寒い。6時台に出ら…

昇仙峡・ホッチ峠・中央本線沿線(Mar-2019)

春になると山梨に行きたくなるのか。 振り返ってみると去年も3月に早川町に出かけている。 山梨に限った話じゃないんだと思う。ようは冬のあいだ凍結や雪で山に行くことができないから、そろそろ山の風景が見たいって考え始める季節なのだ。といってもまだ…

雨の絶景ロード / 風早峠・西天城高原道路(Mar-2019)

もともと天気に恵まれていた日ではなく、雨が予報に現れている日だった。早いうちからそうだったから、あきらめてまたの機会にすることを内心考えてた。じゃあまたの機会っていったいいつなんだ? 延期とは重荷を背負い直すこと。都合を確認し、もう一度日程…

自転車車載と鷲子山上神社(Feb-2019)

本殿とは別の鳥居から階段を上がった先に金色をした大フクロウがあった。参道に覆いかぶさるように大きいもので、しかしながら僕から見たらそれは神々しくも神秘的でも神通力を感じさせるものでもなかった。金色の張りぼて。フクロウをデフォルメした何かの…

房総縦走曇天模様(Feb-2019)

房総はかつての律令国時代の安房、上総、下総の「房」と「総」を取ったもので、房総三国という呼び名もあった。いってみればそもそも千葉県全域を網羅する総称である。しかし近年、房総半島という固有名詞のほうがむしろ耳にする機会も多く、房総といえば房…

千葉里道散策から海へ(Jan-2019)

千葉市というところは県庁所在地であり政令指定都市であり、それでいながらふんだんに自然や里が残っている市だ。さいたま市だって見沼田んぼっていう自然と里を残した場所があるといえばそうだけど、規模とその深さが違う。 里をゆく道をたどって行こう。そ…

線路沿いを自転車で散策する

列車に乗って窓の外を眺めていると並行する小道に興味を覚えたりする。それは輪行しているときだけじゃなくって、鉄道旅をしているときももちろん、ただ用事があって鉄道に乗っているときも。さすがに日々の仕事で使うような通勤の電車はさておいても、窓の…

栃木県南の眺望と駅前ラーメン(Jan-2019)

好きな駅で降りるっていうのは気分がいい。 もちろん輪行サイクリングは汽車旅や駅を目的にしているわけじゃないから、毎回毎回好きな駅を選んで降りるってできるわけじゃない。駅などサイクリングのルートによって決まるのだから。 今日は、好きな駅で降り…

つくば道・八郷(Jan-2019)

参詣道づいているわけじゃなくたまたまなのだけど、つくば道に行ってみようと思った。道はふもとの北条のまちから一里、4キロで中腹の筑波山神社に至る、江戸時代の参詣道である。 さらに今日は筑波山系の縦走ルートに行ってみようと思ってた。 つくば道か…

中伊豆南下縦断(Jan-2019)

国道414号がふたつに分かれる。直進は現道・新天城トンネル、左は旧道天城隧道だ。その分岐で静かな坂道の旧道を見上げた。今日は旧道をあきらめることにする。そう決めた。天気が悪いこと、寒いこと──。行けないことはないと思う。少しだけ残念、でもお…

愛知・三重へ(その2)(Jan-2019)

(その1から続く) 僕自身がルート作成に関与しないサイクリングをするのはいつ以来だろう。今、ガーミンに表示させているルートは、今回の旅のきっかけになった、ひみよし (id:himiyoshi)さんが作ってくれたものだ。なんだか新鮮。ただ、自分で引いていな…

愛知・三重へ(その1)(Jan-2019)

(その0から続く) 午後1時。 武豊駅で僕は自転車を組む。 駅は、終着まで乗ってきた少しの客がいなくなってしまうと、僕と、迎えでも待っているのか庇の下でずっと立っているおじさんとのふたりだけになり、車通りもまったくないから、いたって静かだった…

烏山から日立へ(Dec-2018)

橋は周囲に類を見ない。町のシンボルに思えた。周囲からは浮くほどのテンプテーションさえ放つ斜張橋が高く、架かる那珂川をのぞき込むとすくみそうだ。路面でそんなに高いのだから、橋を支える真っ白な主塔は果てしなく高かった。それがまたシンボル然とし…

上総内陸から竹岡ラーメンへ - 後編(Dec-2018)

(前編から続く) 引いたルートの道がなかったから、僕らはそこにある案内標識──と呼んでいいものなのだろうか──にしたがって右に下ることにした。これから向かう養老渓谷の文字がそこに書かれていたからだ。左側なんか読めやしない。左側の字を当てようとO…

上総内陸から竹岡ラーメンへ - 前編(Dec-2018)

僕が前を走るO君の背に投げた言葉は向かい風にかき消されてしまったみたいだ。もう一度タイミングを狙って叫ぶ。「この先の橋を渡ったところで写真撮りたいんだけど」「なんすかあ?」 声の切れ端だけは届いたようで、要領は得ないんだろう、聞き返してくる…

伊豆大島三原山、あと海岸線とか(Dec-2018)

そういえば天気予報を追跡してなかった。 東京・竹芝に行った。船が取れた。そのまま乗った。 朝になって、東京都大島町の予報がくもりマークになっていることを知る。それまでの週間予報じゃずっと晴れマークだったのに。 今回は島を一周するつもりがないか…

東武矢板線跡・荒川源流(Nov-2018)

もともと車内の暖房は弱くて輪行中もずっと寒いと感じていた。でもいざ駅のホームに降り立ってみるとそれどころじゃなくて、その空気に震えが首筋から足の先へ一瞬で駆け下り、この先の一歩を踏み出すことさえためらうほどだった。冬がいよいよ来たんだと思…

身延山久遠寺とみのぶまんじゅう(Nov-2018)

高速を飛ばす。快適に。 圏央道から中央道へ。日曜日の午前中、下り線は快適に流れていた。 ◆ そもそも知人夫妻との用があった日だった。しかし知人奥さんの親戚に不幸があり、ふたりは急きょ奥さんの実家のある鳥取に帰ることになった。予定は延期すること…