自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

小説

緑のもみじロード(Nov-2019)

風邪を引くのは悪くない。むしろ年に一度や二度は風邪を引くべきだ。そのほうが体は強くなるし定期的に抵抗力がアップデートされる。これは持論である。だから風邪を引くことはかまわない。 しかしよりによってだ。今日は木曜日である。 午後に入ったころか…

京王線と銀杏甲州街道

京王線は都会派だと思う。 首都圏郊外のベッドタウンに暮らし、そこで生涯を終えるであろう僕にとって、目に入る光景がまざまざとそう実感させた。 新宿駅の地下ホームを出た京王線電車が、今地上に上がり、昼の光を受けた。じつにごちゃっとした景色が目に…

秋深し会津旅2Days - 5(Nov-2019)

(その4から続く) 「ああなるほど炭酸水だ」 ほのかな甘みと酸味を感じるのはそれが炭酸のせいなのかあるいは何かの成分によるものなのかわからなかった。僕の味覚は大したことないし怪しいから仕方がない。それでもきめの細やかなしかしそれなりに強さを…

秋深し会津旅2Days - 4(Nov-2019)

(その3から続く) 午前6時30分。 外は霧に覆われていた。それもあたり一面重苦しい灰色で、先はほとんど見えず、スキー場で厚い雲に巻かれてしまったときのようだ。目の前の国道を走る車のヘッドライトが直前にならないと見えてこない。そんな状況だか…

秋深し会津旅2Days - 3(Nov-2019)

(その2から続く) そこが食堂だと知らなければ存在に気づかなかったろう。暖簾(のれん)が出ていなければ食堂とはわからなかったろう。 福島県金山町、会津川口駅前。 実は僕はここに来ている。何年も前の夏のことだ。 その日、僕は六十里越の国道252…

秋深し会津旅2Days - 2(Nov-2019)

(その1から続く) 駅の改札をそのまま出てきた人もそれなりにいたのだけど、知らぬ間にみないなくなってしまった。もっとも降車客の行く末を観察していたわけでもなく、僕は僕で輪行してきた自転車の組み上げを離れたところでやっていたのだから、それがわ…

秋深し会津旅2Days - 1(Nov-2019)

なんだか一日で帰ってしまうのがもったいないですね、泊まれば六十里越にも行けそうな場所ですし──。 準備に頭を巡らせていた仕事からの帰り道だった。帰りの通勤電車は三連休を前にした金曜日のせいかいつもより華やいだ雰囲気で充ちていた。19時過ぎの電…