自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

中伊豆南下縦断(Jan-2019)

 国道414号がふたつに分かれる。直進は現道・新天城トンネル、左は旧道天城隧道だ。その分岐で静かな坂道の旧道を見上げた。今日は旧道をあきらめることにする。そう決めた。天気が悪いこと、寒いこと──。行けないことはないと思う。少しだけ残念、でもおっくう。僕はペダルに足をかけ、「さ、行こうか」とO君に声をかけた。

 

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「お正月は行かないんスか? 三が日以外なら時間取れるんスけど」
 かつて仕事で後輩だったO君からLINEが入ってきたのは年の瀬だった。僕は予定を確認するまでもなく、「行くなら6日かな」と返した。もうそのときに年明け3日4日での愛知・三重旅の予定をほぼ固めていたし、4日の帰路は日付の変わった5日午前になることが間違いなかったから、5日の考えはない。
「伊豆のどこかに行こうと思うんだけど、ついてくる?」
 僕の手元にある18きっぷには2箇所、入鋏印が押されていた。3日4日の愛知・三重旅で2箇所押印される。残りの1箇所を6日に充てよう、とこの話の前から考えていたところだった。
「伊豆っすか? もう決まってるみたいな」
「そう。もう決めてんの。寒いから」
 じっさいは寒いのと、18きっぷを使ってメリットが出るところっていうことだけど、いちいちそんなことをLINEで打つのも面倒。O君は行きます行きますと返してきた。

 

 朝まだ真っ暗な北千住駅、地下鉄日比谷線の車内で合流し、今日の行きの輪行を話す。仲御徒町駅から御徒町駅へ歩いて京浜東北線に乗り換え、ここが6分。それから東京駅、1分。
「それって自転車持ってたらめちゃタイトじゃないですか」
「そうだよ、東京駅は乗り継ぎ確率80%くらい。今まで乗り継げなかったことが3回あるから。東京駅の階段で人の後ろになっちゃうともう無理、京浜東北線には扉を決めて乗るんだ」
「あり得ないっすねえ」
「あり得ないよ。乗換案内のサービスはどこのを使ってもこの乗り継ぎ出ないから。乗れなかったらあきらめて1本次ね。実質2、30分遅くなる」
日比谷線ってJRとは上野と秋葉原が乗換駅になってるじゃないすか、どっちかの駅じゃ駄目なんすか?」
「いちばん距離が近いのが仲御徒町から外を歩くの。上野で乗り換えすると駅が広すぎてこの京浜東北には間に合わないんだよ。たぶん秋葉原も無理じゃね? 一度総武線のホーム経由するし」
「異常詳しいっすね」
「年に数え切れないほどこの乗り継ぎ使ってるから。乗り継ぎ失敗もあるし余計覚えてるわけ」
 御徒町の駅で改札を入るときの話になって、18きっぷのことをいった。僕は有人改札を通る必要があるから。
「こんなきっぷあるんすか? 全国乗り放題? いいなあ。次出るとき教えてくださいよ」
 かくして、明け方眠りについたばかりであろうひと気のない、ゴミと薄汚れた空気の漂う御徒町の路地を速足で歩き、ホームへの階段を上ったところにちょうど入ってきた京浜東北に乗り、東京駅では地下通路の人をかわしながら発車ベルの鳴り始めた東海道線ホームへ上った。なんとか熱海ゆきまで無事に乗り継いで初めて、ふたりで安堵した。
 そういえばこの乗り継ぎ、4日前(愛知に行くとき)もそうだったな、と心のうちで笑った。

 

 5つのルートを用意していた。天気と風によって、東海道線のなかで決めようと前日まで話していた。裏を返せばそれだけ天気予報があいまいだったってことだ。
「予報はどこも晴れっすね」
「風で決めよう」
「北東風が多いっすね。うわ、ウェザーニューズは風速8メートルとか書いてる」
「じゃあ、2か5だな」
 僕は候補のなかから、北から南へ向かうルートを挙げた。逆は向かい風になるからきつい。本当かどうかわからないけど8メートルなんて吹かれたら大変だ。
「2は東伊豆ですか」
「途中、細野高原っていう絶景のロケーションがあるんだけど、この時期は寒いなあ」
「出た、寒い」
 と彼は笑う。「どんだけ寒いんスか」
「仕方ない、寒いもんは寒いんだから。木のない吹きっさらしの大地だから、風が強いと行くのも大変かも」
「そこを省いちゃだめなんですか?」
「そうすると伊東から下田までただひたすら国道135号を走るだけになるからなあ。面白味にも欠けるし、車も多いし」
「なるほど」
 O君はルートをもうひとつのほうに切り替えて見ている。「じゃあ5すか?」
「そうだね。それでいいよ。中伊豆を南下して、旧天城峠を越えよう。カワバタの伊豆の踊子だね」
「ふうん……」
 彼は文学にはまったく関心を示さない。
「あと石川さゆり。当時火がつき始めたカラオケブームにシロウトには歌いこなせない曲を出して一石投じようと、制作陣がふもとの湯ヶ島温泉に缶詰めになって作り上げたって難解曲。歌えるのは石川さゆりしかいねえだろって」
「へえ……」
 演歌にもまったく関心がないらしい。まあこれは僕も同じだけど。
「じゃあ5で決まりね」
「オッケーす」
「ということで、熱海駅3分乗り継ぎ」
「またっすかあ?」
熱海駅に近づいたら、階段に近い車両へ少し移動しよう」
「はいはい」

 

(本日のルート)

 

 

「天気予報、晴れだっていったよな」
 と、三島の駅前で自転車を組み上げながら僕はいった。重く分厚い雲どころか、ハンドルに付けたガーミンに細かな水滴が落ちてくる。
「どうなってんすかねえ。でも雨は嫌っす。晴れるかなあ」
「日が出ないと寒くてかなわないな」
 身体が濡れるほどじゃない。本当に細かな雨粒が、ほんの少しずつ。でも寒いしいい傾向じゃなことは間違いない。気分の盛り上がらないまま、何となくだらだらと、三島駅前を出発した。
 三島の市街地を南下していく。正月最後になる日曜日は、もうふだんの日曜日のようだった。乗用車と一緒にトラックやバンなんかの商用車も走っている。
 5キロ足らずで中伊豆を貫く狩野川沿いに出た。今日はここから狩野川沿いを走って行こうと思う。この時間ならまだ一般道路も走りにくいってことはないけど、日中になればいつも車交通と合いまみえることになる。せっかくの機会だし、狩野川サイクリングロードは使えるかどうかを試してみようと、組みこんできた。
 川沿いは、多くのそれが同じであるように、距離がかさむ。どうしても蛇行があって、道路と同じようにはいかないから。狩野川は大きく湾曲する箇所もいくつかあって、距離増っていう点では思いのほか増してしまう。
 湾曲するから進む方向もあっちこっち変わる。
「あれ、今から上る山っすか? 真っ白で雲に隠れてますけど」
 とO君がいう。
「いやあれは箱根。箱根は霧が出やすい場所だからねえ。あの中も真っ白じゃないか?」
「ならよかった」
 

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 真っ赤なアーチ橋の修善寺橋まで来ると、サイクリングロードは終わった。ここ修善寺まで、国道にせよ県道にせよ車と入り乱れた交通で走りにくさを感じる道がほとんどゆえ、それを逃れて走ることができるのは有効だと思えた。距離が増えることと、右岸左岸を切り替えないとうまくつなげなくて、これが初めてだと難解なのがネックだ。じっさいそういうのが面倒で──そう、サイクリングロードの対岸との行き来は面倒だし、続くと嫌気がさす──、僕らは左岸だけを走った。結果、交通量が多く路肩のない狭い二車線路なんかもあって、車との混合を避けるなら、きちんと右岸左岸を把握した方がよさそうだ。
 修善寺から湯ヶ島温泉までは右岸の県道349号を走った。土曜日だと、メインになる左岸の国道136号・414号が観光乗用車でいっぱいになるのを避けて、地元車が、大型やダンプも含めて多く走るのだけど、日曜日だからかそれも少なかった。
 相変わらず天気は良くならない。始終ごく小さな雨が、まったく濡れるほどではないけれど落ちてくる。もちろん太陽も出ないし、暖かくもならない。
 湯ヶ島温泉に入って、県道が国道に吸収されるように合流し、いよいよ天城越えへの坂道が始まった。最後のコンビニになる、湯ヶ島温泉セブンイレブンに立ち寄っておく。
 セブンイレブンは混んでいた。そのあと、僕もいつも通過してしまって行ったことのなかった浄蓮の滝にも寄ってみたが、ここもけっこうな人出だった。この寒い、天気も悪いなか、みんな前向きだなあと思った。あまり苦にならないのだろうか。それをぼそっといったら、車だったら雨関係ないしそんなもんじゃないすか、とO君がいった。
 浄蓮の滝は、これだけ人が訪れるだけあって、見ごたえのある滝だった。ただ、滝までの遊歩道を行って帰ってきただけで寒くなってしまった。身体を温めようと道の駅の建物のなかに入った。館内では石川さゆりがそれだけリピートで流れていた。僕は猪まんの文字につられて、思わず買う。O君もつられてしまったのか、買って、ふたりでテーブルについて食べた。中華まんは温まるかもと思ったけど、そうでもなかった。それと猪まん、僕にはさほど美味しいと思えなかった。

 

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「旧道は、今日はやめておいた方がいいかもしれないなあ」
 猪まんの包み紙をたたみながら僕はいった。
「天気、まったくですね。予報のサイトなんてみんな晴マークですよ。どこも訂正とかしないんだなあ」
 とO君はお茶をすすりながらスマートフォンをチェックしている。「寒いし、これ雨がどうなるかもわからないし、やめていいんじゃないですか?」
「旧道の良さがわかんないからそういうんだ」
 と僕は笑って諭した。が、寒いこの天気のなか強行しても、楽しみは半減するのも理解してた。まあまた今度にするか、と僕はいった。今度はいつだってのはあるけれど。
 そしていざ天城越えを目指して上った。雨が顔にあたって、それが雨じゃなく小あられのように感じた。やれやれ、と思った。上るにつれ、ガスがかかって白んできたのがわかった。

 

 

 河津のループ橋は、僕の嫌いな部類であるのは間違いない。好き好んでこんな宙に浮いた高いところを走りたくない。だけどこれしか道がないのだから仕方がない。
「これ、すごいっすねえ」
 とO君は喜んでいる。手前で止まって一緒に全景を眺めてみた。「あの下のところまで下りるってことですね」
 立ち止まって、峠を越えたこちら河津側のほうが若干暖かいんじゃないかって感じた。多少なりとも、これなら助かるなと思った。下りは身体が冷えるし、さっさと下ろうと僕はいった。
 高所恐怖症の僕は忌み嫌う場所ながら、それにレベルがあることに気づいた。奥秩父の中津川にできた滝沢ダム、そこにかけられた国道140号のループ橋雷電廿六木橋らいでんとどろきばしに比べたら全然恐怖心が薄い。橋の欄干の高さゆえかもしれないし、広がる周囲の風景と高度のせいかもしれないけど、背中に冷たい嫌な汗をかきながら下るってことはなくて済んだ。
 下りきると一度国道414号を離れ、河津七滝ななだるへ向かった。滝を見にいこうと思ったわけじゃなく、昼食にしようと思ったから。13時を回っていたし。
 ドラマ「孤独のグルメ」で扱われた、わさび丼の店に寄ってみる。先客はひと組。このドラマで取り上げられた店はどこも混んでばかりだけど、ここはそうじゃなかった。東京から距離があるからかもしれない。
 ここはドラマにならってわさび丼を頼んだ。すると最初にお盆で鮫皮おろしと生わさびが持ってこられた。
「これ、全部すり切ってください。あとでどんぶりが来ますから、すったこれを乗せて食べてくださいね。特にこの首の部分が辛くておいしいですから、ここまできっちりすってください」
 とおばちゃんはいう。わかった、よしとふたりしてわさびをすり始めた。
 数分すっただろう。僕もO君も4分の1かせいぜい3分の1しか進んでいない。すりおろしたわさびの量も大したもんじゃない。それと、すりおろす右手の疲労が半端ない。これはしんどいと、僕はその手を左手に替えてみたのだけど、今度はまったくすることができない。早々にあきらめて、手を右手に戻す。
「いやこれマジきついっすよ」
 とO君がぼやく。わかる。同感だ。まだこんなにある、と気の遠くなることをO君はいった。
 結局どんぶりは僕らがすりおろし終える前に来てしまった。あわせてわさび漬けやみそ、きゃらぶきなんかが乗った小皿が添えられた。それからまたさらに数分。ようやく生わさびをすり終えた。
  O君はまだすり続けている。僕は、先に食べるよといって、すりおろした生わさびをどんぶりの中央に乗せた。すったわさびの量はいくらでもなかった。混ぜるんじゃなくて崩すようにしながら召し上がってくださいとおばちゃんはいってた。僕はその通りに口に運ぶ。量のせいなのか、すりおろし方がいけなかったのか、それほど辛さを感じない。どちらかというと辛いものが得意ではないほうの僕が、そう思う。つんと来るわけでもないし、これをいっぺんに食べたら明らかにご飯を残してしまう。小皿の添え物を交えながら食べ進めていった。そのなかのわさび漬けがいちばんだった。つんと抜け辛味があった。これならわさび漬けと白ご飯単品でいいじゃないか、なんて思った。まあこんなものか、今日の食は、と内心思った。

 

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 わさび丼を食べ終えてしばらくくつろいでいると、近くで燃えているストーブの火が妙に恋しく感じられた。僕らのあとから入ってきた三組ほどの客は、冷たい空気を店内に持ち込んできた。勘定を済ませて外に出ると、明らかに空気が変わっていた。ひどく寒かった。天城峠を越えて河津に抜けてから明るくなったと感じた空は、三島や修善寺にいたときと同様の重たい鉛空に変わっていた。小あられが混じったかと思った雨は、小さな雪に変わって見えた。
「着るもの着込んで、一気に行ってしまおう」
 と僕はいった。
「下り一辺倒ですか?」
「いや、ここからしばらく下るんだけど、そこからまた200メートルちょいまで上って、あとはゼロメートルまで下り。上りはがっつり来る上りじゃないから、着られるものは着込んじゃったほうがいいと思う」
「そうはいっても、着るものないす」
 とO君はいった。パールイズミの防風素材のウェアを着ている彼は、それでウィンドブレーカーを省略したのか。僕はウィンドブレーカーを羽織る。

 

 河津ループ橋を上に見上げ、下りてきた国道414号に戻った。しばらく下る。顔に当たるのは雨なのか雪なのかみぞれなのかよくわからなかった。下りもあってとにかく寒くて、身体が硬直しているのがわかる。あれ? ここ伊豆だよな、あったかい伊豆だよな──このとき今日はじめて、そう思った。
 下り途中で右から県道115号が合流してくる。この県道、路線名を湯ヶ野松崎線という。湯ヶ野は今走っている河津町のこのあたり。松崎は西伊豆海岸線の松崎町だ。つまりここに中伊豆と西伊豆を結ぶ県道が一本、走っているということである。しかし青看(案内標識)はない。なぜならこの道は分断県道で、松崎に抜けることができないから。松崎側はバサラ峠を越える主たる県道の15号、その松崎の道の駅付近で分岐する。しかしながら伊豆の中央山塊を越える箇所が未成なのだ。とはいえまったくつながっていないかというとそうではなく、大鍋越という峠を越えて、林道が河津と松崎からの両115号を結んでいる。この林道が県道115号のそのもののルートなのか、つまり整備舗装されれば県道115号として供用されるのか、あるいは115号は別計画ルートがあるのかは知らない。ただいずれにしてもかねてから存在している県道が、つながることもなくそのままなのだから、これから先も分断県道のままなのだろうと思う。ツーリングマップルで見て未舗装区間が目測ざっと4キロ、厳しいつづら折りを1.5倍で見立てて6キロ前後の未舗装ながら、越えて松崎に抜けてみたい気持ちもある。いつか。林道は、「大鍋林道」という。
 そこからほどなくして下佐ヶ野の交差点。ここで下田方面は右折する。下田街道こと国道414号は中伊豆縦貫道路でありながら、ここ下佐ヶ野で直進方向を河津の海に抜ける県道14号に譲る。中伊豆縦貫の下田街道の名にかけて、国道414号が右曲がりながらの道なりを取り、県道14号が左折の形状を取ればいいのに、などと思うけど、実交通の大半が河津へ抜けるからなのだろう、仕方がない。しかも青看標識には右折の国道414号には「西伊豆」としか書かれていない。下田へ行くには河津の海岸に出て、白浜を回る海沿いルートを提案しているのだ、直進県道14号に「下田 河津市街」と書かれている。
 僕は交差点角にあるセブンイレブンを指して、
「コンビニ大丈夫?」
 とO君に聞く。ここを過ぎると下田の市街地までない。
「大丈夫っす。寒いし、一気に行っちゃいましょう」
 という。オッケーといって右折した。案の定、僕らと一緒に右折する車はほとんどいなかった。

 

 すっかり主要道から格を落とされた国道414号下田街道の、この下佐ヶ野から稲梓までの区間が好きだ。国道なので整備舗装はされているものの、やがて深い森のなかに入り、道は中央線すら消える。交通量はほとんどないので、ときおり現れる車に気をつけていればいい。森の木々のすき間から、下佐ヶ野で分けた県道14号が眺めおろせる。河津川に沿う県道は、直線的に、まちを携えながら下っていく。さらに中心地に向かえば、早咲きで全国的にも名が知られるようになった河津桜の並木が延々と続く。
 いっぽう僕らが進路を取った国道414号はぐんぐん高度を上げていく。途中、木々の開けた場所から今度は一気に海まで望んだ。足を止め、その景色を眺めてみる。河津のフラットな風景を、バードビューで見ているようだ。そして海。天気は良くないがそこにぽんと浮かぶ三角形、利島がよく見えた。

 

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 天気の悪いまま──よくなることはなかったが、ひどくなることもまったくなかった──、下田港まで走り切った。ペリー上陸の港は穏やかだった。寒いだけで、風はなかった。河津で感じた小雪交じりはすっかり雨に戻った。天気が悪く、人もいない。寒い寒いとふたりしていい、下田港見物もそこそこに、一度通り越した伊豆急下田の駅へ向かった。伊豆半島縦断旅もこれでお終い。
 駅に戻って自転車をばらして輪行袋にしまった。スマートフォンで列車の時刻を調べる。O君も調べているからてっきり同じものを調べているのかと思った。
「これ、見てくださいよ。天気予報。いまだに晴マーク出してますよ。しかもいろんな天気サイトみんな」
 ほんとだ、一度も太陽なんか見なかったのにねえ、と僕は笑った。

 

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