自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

線路沿いを自転車で散策する

 列車に乗って窓の外を眺めていると並行する小道に興味を覚えたりする。それは輪行しているときだけじゃなくって、鉄道旅をしているときももちろん、ただ用事があって鉄道に乗っているときも。さすがに日々の仕事で使うような通勤の電車はさておいても、窓の外の景色を見て、そのなかを通っている道を見つけると惹きつけられるんだ。
 都市部でもなければ、線路沿いに国道や県道のような大きな道が並んでいることは少なくて、どちらかというと里道のような小道。センターラインやガードレールなんてあまりなくて、車が走っているようすもそんなに見られない。人だって歩いていたりすることも少ない。そういう道を見つけると、
「自転車で走りたいなあ」
 って思う。

 

 鉄道で旅をすることって、僕の場合車窓を眺めて楽しんでいるんだと思う。かたや自転車で旅をしているときは、そこに鉄道線路があるとなんだかうれしくなる。踏切が鳴って、列車がやってきたりすると、ずいぶん得した気分になる。内から見ること、外から見ること、その両方を楽しんでいるんだ。どちらか一方に飽き足らず。

 

 

 鉄道沿いの小道って、どこまでも線路に沿って行けるわけじゃなくって、むしろつながらずに切れてしまうことが多い。あるいは曲がってどこかの路地に入りこんでしまったり──ときに人の家の庭先につながって終わったりもする──、少し離れたところを並行する幹線道路に吸収されてしまったり。
 はかない。
 それだけに、そういう場所を走ろうって思うとルートを作るのが難しい。

 

 サイクリングの醍醐味って、特にスポーツ自転車で走る場合、「快走」っていうのが挙げられると思う。むしろ大部分を占めているかもしれない。スピードに乗って、風を受けながら、自分の力でふだん肌で感じることのない移動速度を楽しむ。僕だって自転車に乗るとき、それを楽しみにしていることは間違いない。
 でも鉄道線路沿いを走るとなれば、それはいったん置いておこう。
 小道はどうしたって曲がりくねっているし、突き当たりや一時停止も多い。信号こそないけどね。小さな誰もいないような駅を見つければ、寄ってしばらくそこにいたくなるし、踏切が鳴りだせば、数少ない本数の列車を眺めて見送りたくなる。
 ふだん、時間あたり10キロから12キロくらいでコースタイムを考える僕も、線路沿いが現れればそれを破棄する。何キロにすればいいんだっけ? いつもわからなくなる。立ち止まってばかり、走ってもスピードに乗ろうって気分になりにくいのか、どうも計算しにくいんだよね。

 

 

 総武本線沿いを走った。
 もう何年も前、家から海を見に行こうと思って片貝の海を目指した。まだGPSマップも持っていなくて紙の地図だけが頼りだったから、国道と県道で走っていった。ルートもきっちりしたものじゃなくておおよそのイメージで、おもに青看標識だけを追って走った。八街やちまたから成東なるとうに向かう道で、県道は線路に並行して続いた。確か稲が懸命に背丈を伸ばそうとする時季だった。佐倉から先の総武本線って、東京都心を走る同じ名前の路線とはもはや別物で、単線の、1時間に1本2本しか走らない、のどかなローカル線だった。線路風景は片持ちポールの華奢な架線柱が並んでいた。少し距離を置いた県道から僕はその風景を眺めて走った。列車が一本やってきた。踏切はどこかで鳴っていたかもしれない、でも気づかなかった。そのくらい線路からは離れている。青々とした水田のなかを、横須賀線の色をした113系が4両編成で走っていった。
 無事海までたどり着いて、帰りは成東の駅に戻って輪行した。窓の外を眺めていると、さっき走ってきた県道が遠くに見えた。と同時に線路に並行する小道が見えた。しばらく線路に沿って並行している。今度はこの道を走ってみたいなと思った。
 そして今、僕の手元にはガーミンのGPSマップがある。線路沿いの道をつなぎつつ走ることができるルートも調べてきた。僕は成東駅にいた。そこから、かつて車窓に眺めた線路沿いを走った。はっきり記憶と重なるわけじゃない。でもきっとこの道だ。
 高規格の県道は少し離れた場所で並行しているから、線路沿いの道をわざわざ選ぶ車は少ない。思った通りののどかさと、線路沿いという僕にはたまらないセットがそこにはあった。踏切があるたびに立ち止まって、眺めて、写真を撮った。線路とのあいだに柵も何もない。道路わきに線路が並んでいるだけ。どうなんだよこれってすげえな、って思う。
 さっきまで赤を示していた閉塞信号機が黄色に変わっているのに気づいた。もしやと思う。するとその予想通り、さっき止まって写真を撮った後方の踏切が鳴り始めた。僕は止まる。自転車を投げ出し列車が来るのを待った。ヘッドライトが見え、やがて近づいてくる。僕はカメラを構えた。かつて見た113系は、ステンレスボディに黄と青の帯を巻いた209系に代わっていた。
 僕はじゅうぶんに満足して、ひと駅目の日向ひゅうがから輪行した。駅もいい。小ぶりな最小限の駅舎に、千葉に来ると多くなる歩道橋のような屋根のない跨線橋。もうひと駅走って八街から乗ってもいいけれど、八街駅はすっかり都市化してしまった。やっぱりここだ。自販機でコーヒーを買って、列車を待った。

 

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 翌日、なんとなく満たされたくって、少しの時間でまた線路を見に行った。
 家から近所の中川、古利根川という地元の川に沿ってサイクリングしながら、線路沿いに出てみる。踏切や、川の鉄橋で、電車が走っていくのを眺めていた。自転車で、電車を見に来るなんて、なんだか小学生みたいだなって思った。東武野田線が走っていった。

 

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