自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

2017-01-01から1年間の記事一覧

花巻・遠野(Sep-2017)

宮沢賢治に傾倒したことがあったわけでもなかった。だいたいイーハトーブって言葉が賢治によって作られたものと知ったのがわりと最近で、この岩手の内陸地域で主に観光目的で使っている、何らかの意味のある言葉なのだろうと勝手に思い込んでいたし、その意…

盛岡・雫石(Sep-2017)

台風が来るというのだ。 上陸するというのだ。 進路は北西に向いていて、中国大陸へ向かうと言っていた予報が、木曜日になって「朝鮮半島で進路を東に変え、日本列島へ向かう模様」と告げた。 もともと日光か那須あたりでオートキャンプをしつつ、自転車を持…

シェイクダウン日光詣(Sep-017)

S君の真新しいキャノンデールはまぶしくて、ほれぼれする恰好よさで、好天のもと、輝きを放っていた。ずっと関東平野の坂のない道を北上してきて、最初に現れた坂は太平山への林道で、一本道だから思う存分走っていいよって言うと、彼はクイックイッと軽快…

天空の高原とダート/地蔵峠・こまくさ峠・車坂峠-その2(Sep-2017)

(その1からつづく) 群馬県嬬恋村から地蔵峠に達した県道94号はここ地蔵峠でピークを迎え、長野県東御市に向かって下っていく。しかし僕の引いたルートはここで終わりではなく、さらなる上り坂に臨むことになっていた。地蔵峠から東に分ける湯ノ丸高峰林…

林道 桟敷山線

群馬県嬬恋村から地蔵峠に向かう県道94号を上っていたとき、見慣れた山吹色の標識が目に入った。──林道である。 それは、徐々にきつくなってきた上り坂はマイペースで進みたいというセルフ・マネジメントを裏切ってまでも気になる、林道の入り口だった。僕…

天空の高原とダート/地蔵峠・こまくさ峠・車坂峠-その1(Sep-2017)

もう20年かそれ以上前になる。スキーをやっていた。当時はそれこそ大人のたしなみじゃないけれど、誰もがやっていた。そういう時代で、選べるほど趣味やレジャーが多様じゃなかった。だから冬になると休みを見つけてスキー場へ出かけていた。 あるとき僕は…

211系で最後の18きっぷ

今季の18きっぷ最後の旅は、吾妻線に出向いた。自転車を輪行し、終点の長野原草津口まで乗った列車は、銀色の211系だった。 吾妻線に乗ったのも久しぶりだったけど、高崎にやってきたのも久しぶりだった。輪行で下り始発の高崎線に乗ると、すぐさま信越…

むかしのライトにしています

一時期自転車のヘッドライトを小ぶりのライトにしていた。 はやりのUSBから充電するタイプで、小さいわりにかなり明るい。充電も、パソコンを使っているさいちゅうに思い出したら挿しておけばいいから気楽だった。 ある日、走っているときにライトが消え…

篠ノ井線に沿って(Aug-2017)

篠ノ井線に沿って自転車で走ろうって思って、ルートを松本から引いた時点でもうこの路線のことを知らないということが明らかだった。よくよく考えればわかるのだけど、中央本線は松本の手前、塩尻で進路を南西に変えて名古屋へ向かうわけだから、松本がすで…

筋膜リリースとストレッチポール

僕はつねづねちょうけい靭帯炎に悩まされていて、どういうときにか特定できないのだけどひざの外側が痛くてどうしようもなくなることがある。 ストレッチしたり歩き方から変えてみたり、まあいろいろとやってみているのだけど、効果のあるものもあれば怪しい…

GPSiesでルート作成(ルートラボにかえて)

ルートを引くときに、すっかりルートラボを使わなくなってしまった。 やっぱりプラグイン・Silverlightが前提であることは大きくて、これが動くブラウザなんていよいよインターネット・エクスプローラしかなくなってしまったから。 ルートラボにはJavascript…

静かな那須めぐり(Aug-2017)

確かに5台よりは多かったと思うが、10台より少なかったように思う。すれ違う車に追い越して行った車を足しても、間違いなく20台には満たなかった。もちろん自転車とすれ違うこともない。歩く人もいない。ときに強烈な斜度も現れるこの一本道の坂道は、…

長い休みと長い雨

今やっている仕事の関係で、いわゆるお盆休み週がまるまる休みになった。 ただそれは逆に言うと、ほかに振り替えようもない、無条件の休みだった。 長い休みだ。 なかなかある機会でもないから自転車を持ってどこかへ出かけようかと考えた。思うところはいろ…

南伊豆海岸線ルートの夏休み(Aug-2017)

電車は横浜駅を出発した。窓に叩きつける強い雨が不安にさせる。今日もまた天気に恵まれていない。 もともとは志賀草津道路、渋峠へ向かおうと思っていたのだ。列車の時間もきちんと調べ、標高二千メートル超の気温も考えて荷物も用意した。週間予報では初め…

国鉄日中線に沿って(Aug-2017)

童話の世界と見まごうほど、あざやかな黄緑色の芝生のなかに熱塩駅が建っている風景があった。残っていた、という言いかたじゃ不自然なほど、今も列車を待っているように建っていた。駅はまだ営業しているように映るほど。「ヒマワリの花壇の向こうに清水が…

青い夏の伊豆(Jul-2017)

思い出してみれば僕が伊豆を訪れるのはいつも決まって冬か春だった。そのひとつの理由は僕が寒がりであること。寒い冬や春は暖かいところに行きたいと思って行き先を選ぶことが多いから。もうひとつは18きっぷが使えるから。伊豆は在来線普通列車で出かけ…

成田鉄道多古線を走る(Jul-2017)

成田鉄道の存在を知ったのはつい先月だった。図書館で手にした資料にその名があり、鉄道には成田から多古を経て八日市場に向かう路線と、途中の三里塚から八街へ向かう路線のふたつがあった。機関車が引く客車列車とガソリン動車が走り、国鉄同様の狭軌10…

緑ゆたかな風景と望郷ライン(Jul-2017)

こんなに素朴で、懐かしくって、それでも生活の時間はふつうに流れていて、そんなふだん着のままのような風景がどこをどう走っても見られるような場所だなんて思ってなかった。 利根沼田望郷ラインを走ろうと、それほど深い考えもなく引いたルートにはそんな…

Claris(クラリス)にしてみて

二週間がたった。 二週間なのでたいしてたったわけじゃないし、そんなに乗ったわけじゃないけど、調整もしつつなじみが出てきた感じ。 もともとそれまで8速のSORA3300系を使っていたのだから、そう大きな変化はない。クランクセットもスプロケット…

米と水を俯瞰する - 魚沼スカイライン

やはり出かけたのは夏だった。そのときも夏がいいと思ったに違いない。記録を探すともう5年前の2012年のこと。 そもそもこの道を目的に出かけたわけじゃなかった。へぎそばを食べに行こうと思ったのだ。それまでは魚沼盆地でばかり食べていたへぎそば、…

木の橋を渡る

そもそも自転車に乗っていて、橋というのはどちらかというと苦手な構造物なのだ。それは僕が高所恐怖症ゆえで、埼玉県の利根川にかかる武蔵大橋(利根大堰)の歩道を足がすくんでしまって渡ることができなかったり、奥秩父の滝沢ダムとともににできた大絶景…

富士と水と桃と/山梨県東部・峡東/桃の巻 (Jul-2017)

(前篇:富士と水と桃と/山梨県東部・峡東/水の巻 より) 旧御坂峠にたどり着き、天下茶屋に腰を落ち着けた僕らは、ここまで上ってきた御坂みち旧道の県道708号のよさを話していたかった。かつて太宰が逗留した建物がそのままに、その座敷の片隅で御坂山系…

富士と水と桃と/山梨県東部・峡東/水の巻 (Jul-2017)

あやうく道志みちからの山伏峠越え、さらには山中湖河口湖をめぐったあとの御坂峠越え、そんなサイクリングになるところだった。橋本駅からのルートを引いてみると距離が120キロ、そのコースプロフィールは上りと下りしかない、全線が山岳ルートのような…

Claris(クラリス)が来たよ

ガタガタになってしまった後ろ変速を刷新するために意を決し、クラリスの変速周辺一式を注文した(→Claris(クラリス)にしたよ )。今回はどうしても時間が取れず、自転車屋さんにその交換をお願いしていたのだけど、晴れて僕の自転車はクラリスになって帰…

輪行していると……

駅で自転車をパックしたり、あるいは袋から出して組み立てたりしているときに話しかけられることがある。 こんなふうに入ってるんだ、とか、あとは車輪をつけたときにおっ!とかね。こんなに簡単につくんだねって。 むかし乗ってたんだよ、っていう人もなか…

Claris(クラリス)にしたよ

もともと5600系105で組まれていた僕の自転車だったけど、ここでも書いてきた流れの通り、3300系SORAにごっそり組み換えをした。 そんなわけで今、8速の自転車に乗っている。 3300系SORAというと、とにかく評判のよろしくない「爪型…

もう18きっぷの季節

もう、というのは別に年を取ったから月日の経過が早くって、とかそんなことを言うんじゃなくて、ただ単に夏の18きっぷの計画をひとつも考えずに発売の時期を迎えてしまった、ということ。 梅雨に入ってからも──それなりにムシムシする日はあるけれど──極端…

安倍峠 - 静岡・山梨県境

僕が行きそびれてしまった場所だ。 行きたいと思った。しかしアプローチが簡単じゃない。JR身延線の身延駅、そこへ行くには半日輪行だ。 だから、いつにしよう、そのうちに、といつも後まわしにばかりしていたのだ。 道路は林道豊岡梅ヶ島線という。山梨と…

奥武蔵グリーンライン(Jun-2017)

奥武蔵グリーンラインは森の四季を楽しむ道だ。 埼玉県の西部、比企から秩父にかけた山々の稜線をゆく林道は──ときに尾根からの関東平野が望めることもあるけれど──木々のあいだを縫う。森は、いつのまにか初夏の色を終え、盛夏に移ろうとしていた。まだじり…

西伊豆スカイライン・西天城高原道路

西伊豆は、あえてその魅力を取り上げて掲げる必要などないと思う。 なぜなら、まず第一に西伊豆は誰にとっても魅力的な場所となりうるのが明確だから。「ずるいよこれは、こんないい条件がそろっている時点で抜きんでてるんだから」と思わず口にしてしまうほ…