自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

西伊豆スカイライン・西天城高原道路

 西伊豆は、あえてその魅力を取り上げて掲げる必要などないと思う。

 なぜなら、まず第一に西伊豆は誰にとっても魅力的な場所となりうるのが明確だから。「ずるいよこれは、こんないい条件がそろっている時点で抜きんでてるんだから」と思わず口にしてしまうほどだから。

 そして第二に、その魅力とやらが訴えかけ琴線にふれるものが個人々々によってみな違うということ。山を縫うスカイラインの景色であったり、どこまでも青い海に抱かれながらのサイクリングであったり、道そのものの造形美であったり、そしてはるかにしかしながら大きく存在を訴える富士山であったり、誰だって西伊豆の好きなところを挙げはじめたら十人十色、それがどれも観光地により与えられる魅力なのではなくすべて、感性に訴えかけてくるものだからだ。

 どう転んだって、西伊豆は「いい」のである。



 なのでここで取り上げるのは、西伊豆をこう楽しもう、というポイントの提案だ。

 もちろん、昨今の自転車旅がロードバイクになり、日に百キロどころか150、200と走る人もいるのだから、そういうポテンシャルのある人であれば問題はない。魅力的なところを全部走ってしまえるから。

 でも僕のように一日数十キロ、坂が入る場合三割減となるようなポテンシャルしか持ち合わせていない場合、どうめぐるかを決め打ちしなきゃならない。

 なにしろ、西伊豆には鉄道がなく、そして想像以上に広いのだ。


 だからまず、山と道を取った。



 かつて、西伊豆スカイラインは伊豆スカイラインと並んで絶景有料道路の雄だった。

 伊豆スカイラインがそうであるように、有料道路時代の西伊豆スカイラインも自転車で走ることはできなかった。現在は静岡県に譲渡され、県道127号となって晴れて自転車が快走できる道になった。県道になった今も、かつての西伊豆スカイラインという名は愛称で残っている。そして誰もが親しみを込めてその名で呼ぶ。

 この道の魅力は、何を書くよりもまず走ってきてくださいと言うほうが適している。

 そしてもうひとつ、ここに行くなら西天城高原道路も外せない。

 こちらも県道であり、県道番号で言うと411号。

 西伊豆スカイラインと直線的につながっている道であるがゆえ、ここを含めて西伊豆スカイラインと呼ぶ人も多いように思う。じっさい、景観や道の造りにしても同じ道路のようだ。


 このふたつの道路、僕は南から走るのが好きだ。

 西天城高原道路の南端は風早峠、西伊豆スカイラインの北端は戸田(へだ)峠。いずれも稜線をゆく道なのでつねに坂道だ。距離は両道路合わせて18キロくらいだけど、これだけアップダウンがある道だとそう簡単じゃない。

 南から走ると、まず富士山が正面になる。雲隠れして見えないことも多いけど、見えるに越したことはない。でも、富士山が大きな要因じゃない。僕個人の感覚なんだけど、南から北へ向かうほうが目に入ってくる景観のいちいちが、僕の琴線に触れる。

 そうは言うものの、何度かこの道を走ったことのある僕が南から北へ向かったのは一度きりで、それ以外の数回は全部北から南へ向かっている。でもそのときに得られる興奮が小さいように思う。


 アプローチは修善寺駅一択だ。最寄りは中伊豆を走る伊豆箱根鉄道しかないから。その南端からスタートするしかない。

 西天城高原道路の南端に位置する風早峠へ向かうには、湯ヶ島温泉から県道59号で上っていく。修善寺からこの湯ヶ島へ向かう道は主要道として中伊豆の大動脈、国道136号と国道414号があるけれど、特に国道136号は交通量も多く走りにくいので、狩野川をはさんだ右岸の県道349号を選んだ。

 西伊豆スカイラインの北端まで走り抜いた戸田峠からは、県道18号でまた修善寺に戻ってきてもいいのだけど、同じところへ戻るよりは一度海まで下って伊豆長岡に抜けてみるルートにしてみた。戸田峠から下るときの、戸田峠の交差点から真北に抜ける道は僕も走ったことがあるのだけど、最初のトンネルこそ立派な口をあけているけれど、トンネルを抜けた先からは道も細く、折れ枝も落ちているようなラフ舗装路だけど、舗装は悪くない。車や人の往来などほぼない。確かこれは林道である。ともすると戸田峠側を道路の一部を通行止めと書いたバリケードで簡易に閉鎖しているかもしれない。「金冠山第一トンネル」と書いてあるトンネルに入っていく。走れば自転車ならじゅうぶん、そして車の来ない静かな道だ。


 湯ヶ島温泉から県道59号で風早峠を目指す。ここをまず上らなきゃ始まらない。ゆっくり、あとの力を残しつつ上ろう。そして風早峠に上りきったらそのまま走り抜けず、一度西天城高原道路をじっくり眺めよう。これから走るべきその道を。

 たぶん、ここでそんなことを言わなくたって、そうするに違いない。

(風早峠からの西天城高原道路)



地図

ルート(GPSies