自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

クロモリ自転車と木製バット

 ああしかしこの前の週末サイクリングはいったいどうしてしまったというのでしょう。走ることができなくて嫌な疲ればかりがたまってしまって。サイクリング自体は楽しかったのに、走ることを途中で断念せざるを得なくて行程を切り上げてしまうことになり、本当にどうしたというのでしょう。

 

 

 あるいはニワトリが先かタマゴが先かを論ずることになってしまうかもしれないけれど、あの日僕は疲れていた。走りがなっていなくて疲れたのか、それとも疲れて走って走りがなっていなかったゆえなのか。
 しろひ君という若者と一緒に走ったから、ふだんの僕のペースではなかったのかもしれない。それゆえに早いうちから疲労が蓄積して思うように走れなかったというのがひとつ。
 もうひとつは、この日早々に二の腕の疲労を感じたこと。これはまぎれもなく、ふだんしない筋トレを思いつきでやってしまったせい。いや何がいけないって、ちまたのごく一部層で話題になっていたNHKの「みんなで筋肉体操」という番組がまとめ再放送され、これをすべて録画したうえ、これは5分番組ながら相当きついよとちまたで評判の内容を、放送された8本すべて通しで再生して付き合ってしまったからだ。もちろん筋力のない僕にできっこないから休み休みサボりサボりなれど、この8本分の負荷たるや破壊的だ。
 その場はいいのだ。サボりながら乗り切ったから。翌朝、痛い……。筋肉痛が出始めてる。その夕方、いやこれかなり痛いぞむしろ朝よりつらいぞ。翌々朝、痛い痛いどうにもならない。腕の力のない僕が腕立て伏せでやられた二の腕をはじめ、各所にきしみが出ている。ああ機械ならCRC5-56でも一発吹いておけば直るだろうにと思う。果ては筋肉痛で肩を後ろにまわせなくなってコートが羽織れなくなった。こうしてまるまる一週間僕は筋肉痛に泣かされなくちゃならなくなった。
 おまけに風邪を引いた。不摂生したつもりなどないのだけど。週のなかば、後輩で自転車仲間のO君と夜ラーメン食べてこうよって連絡を取り合って仕事帰りに北千住で待ち合わせした日、実は今8度少々の熱があってという話を皮切りに彼の取り調べを受けることになり、かくかくしかじか話したのち、「筋トレは風邪引くんす。よく知られてることだし自分も必ず引きました。何度も、毎回」といい、いったいなにやってんすかと叱られた。なるほどさくっとその場で検索してみただけでも筋トレによる免疫力低下とか、たくさん出てくる。「引かないようにする方法はないわけ?」と聞くと、「食うんスよ、とにかく。あるいはプロテインをたくさん飲んでください。俺は筋トレするときはプロテイン準備してからやりますから」といった。基本僕はそんなに食べないので、ならばプロテインでカバーすることになるのだろうけど、そんな用意などしてないから、O君の理論にもとづくなら僕は完全にNGな筋トレをしたなってとこだ。「とにかく熱いラーメン食って、さっさと帰って解熱剤飲んで寝てください」というので、そうした。

 

 

 風邪はともかく、筋肉痛の痛みはほぼ消えつつも二の腕を筆頭に各所にだるさが残っていた。そんなきつかったんか? いやいやそこまで僕の筋力が衰え細っていたのか? まあせいぜいそんなとこだ。慣れない筋トレなんざするからだ。
 さあ走ろう。寒いけど──。
 千葉駅前を出発して房総半島内陸部へと入っていった。
 ほどなくして、だ。それほど距離のいっていないうちに、である。
 ──二の腕、つらいなあ。
 腕が身体を支えていられなくなって、ついつい肘を曲げていられなくなる。上ハンを持ち、伸びきった腕で上体は起こされ、乗らされているポジションになる。

 

 やがて、疲れが出てきた。

 

 

 どうもクロモリの自転車にはスウィートスポットがあるように思っている。バットでいうなら「打点」なり「真芯」。クロモリ自転車もここでとらえないと上手く走ってくれない気がしているんだ。
 もちろんどんなバットにだって打点や真芯はあるのだけど、たとえば金属バットと木製バット、両者を比べるとそれらは木製バットで狭く、かつ外したときにまったく打ち返せない。
 いやはや自転車に似ている。まるでカーボンは金属バットでクロモリは木製バットってか。

 

 僕が今乗っているクロモリの自転車は、そのなかでもスウィートスポットが狭く作られているように思っていて、きちんとはまると走れるのだけど、だらだら雑に乗っていると走ってくれない。ただ走ってくれないだけじゃなくてとっても疲れるように思う。自転車がやってきた週末、勇んで群馬の三境林道から栃木の細尾峠へ出かけたとき、坂は上れないわ平地は走らないわ、おまけに疲れるわ、「俺なんかハズレの自転車に大枚つぎ込んじゃったか?」などと涙が出そうになったのだけど、それはひたすらスウィートスポットを外しきっていたからかもしれない。
 この自転車は、ある程度しっかり前傾を取っていないとそれを外してしまうように感じている。その乗りかたで初めてはまるように感じている。だから筋肉痛の名残がある二の腕がはやばやとだるくなり、腕が伸びきって走るようすはスウィートスポットを外れてしまい、おかげでこの日のサイクリングは疲れもひどく溜まったんじゃないかなどと反省している。
 そう思うのだ。木製バットを振るように自転車に乗れと。

 

 ──いや待てよ、ただただ自分のポテンシャルが低いからじゃないのか? カッコつけて自転車のせいなんかにしてるけどさ。

 

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