時刻表とミニマムパッキング
8月、東北旅行に出かけたとき、輪行で移動しようと考えていたJR奥羽本線が不通になっていた。前週の大雨で真室川と院内のあいだで運転ができなくなっていたのだった。
僕はそんなことなど知らず、のこのこと計画ひとつで米沢駅にやってきて、輪行の用意をした。その日、秋田まで移動して宿泊する予定でいた。
結果からいうと、不通区間の前後、新庄と湯沢のあいだに代行バスが運転され、事なきを得たものの、代案をひとつも挙げられずにいた。
米沢駅での出発までの時間、それから普通列車の山形ゆきに乗り、さらに普通列車の新庄ゆきに乗り継いだ時間、あてどもなくスマートフォンを操作するばかりで、決定打が得られなかったのだ。
時刻表があれば、と思った。
自転車旅の場合、ミニマムパッキングを心掛ける。
もっとも旅というほどでなく、日帰りやそのあたりを少し走ろうってときでも、そうしている。つねにミニマム。まあ、そうしているというより、だいたい荷物のパターンができあがっている。宿泊をともなったから、持ち物リストを作って、必要なものを確認しながらパッキングした。
当然、そのなかに時刻表は入っていなかった。
そんな
むかしはよく、時刻表の必要なページのコピーを取って、持っていくことをしていた。今回はそれすらしなかった。
だって今、スマートフォンがあればなんだって調べられるもんね。
◆
まず僕は代替ルートを思い浮かべることができなかった。路線図が頭に入っていなかったからだ。東北地方には縦筋に西から羽越本線、秋田から内陸に入る奥羽本線、盛岡から仙台に貫く東北本線があることはわかっていた。しかし横方向、
それに加えて、奥羽本線の普通列車に乗っているときの電波状況がきわめて悪かった。
回線の問題かサーバの問題かはあるけれど、おそらく回線だった。トンネルに入ってしまえばもちろん圏外だし、アンテナがフルに立っているときでも、サイトにかかわらず返答に1分以上かかったりするのが常だった。
時刻表があれば、米坂線で坂町に出る方法は、検討のうえ消去することができた。さすがに道のりが長すぎた。
新庄から陸羽西線で余目経由酒田に出られることもわかった。ただしこちらも不通区間があった。新庄から酒田への代行バスが運転されていた。でも代行バスが運行されるなら、奥羽本線の代行バスで湯沢に出てしまったほうが距離的に優位だし、陸羽西線の代行バスは運転されるけど奥羽本線の代行バスが運転されないというアンバランスはないだろうと思った。あとは代行バスの待ち時間で、湯沢ゆきより酒田ゆきのほうが断然早く出るのなら、それもありだったかもしれない。羽越本線のページを指で挟みながら、代行バスの時間を確認すれば、きっとその答えをぱっと導けただろう。
万が一代行バスが共倒れになっちゃったときの他の手段が考えられなかった。東北・奥羽間の肋骨路線に、仙台山形間の仙山線、小牛田新庄間の陸羽東線、北上横手間の北上線などが、ありそうだとはわかっていたけど、どこに路線があるのかという実際のところは思い描けなかった。時刻表があれば巻頭の路線図で一目瞭然だった。
家に帰ってシミュレーション的に時刻表を見てみた。それらが手に取るようにわかる。運転時刻も一覧できるから、運転密度もわかるしどのくらいの時間がかかるのかも想像がつく。やっぱり時刻表はすごいわ。
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でも、逆の考え方もできる。
結果論でいえば、僕は夜、秋田のホテルにいた。以降の旅程への影響もまったくなし。
とすると、時刻表なんてなくてもどうにでもなるんだ、といえる。
むかしやっていたように、時刻表の必要な箇所を印刷して持っていったところで、おそらく僕は米坂線や羽越本線、陸羽西線も陸羽東線も、東北・秋田新幹線も印刷しなかっただろう。まして路線図も。
となると必要な箇所の印刷では用をなさない。
こればかりは時刻表を「持つ」か「持たない」か、の二択になるんだろう。そしてミニマムパッキングを想定するなら、「持たない」一択だな。
スマホに入れる時刻表がありますよ、と交通新聞社のアカウントをフォローしていると年じゅういってくるけど、あれはやっぱり違うなあ。