自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

行けるの? それとも行けないの?

 地図を見ていると思わずゾクッとする道がある。
 サイクリングのルートを作っているときなんかに見つけてしまうと、ルートを引くよりもその道の情報をほうぼう探してしまい、いつまでたってもルートを作り終えないなんてことになる。あるいは目的地探しにツーリングマップルや全国道路地図なんかを眺めていて見つけると、この道こそ目的地になりえないだろうかなんて、本来やらなきゃならないことがおざなりになってしまう。

 

 たいていは、行けるのか、行けないのか、はっきりしない道である。あるいは通れるのか通れないのかといい換えてもいい。

 

 面白半分ながら、今僕が気になっている道を挙げてみる。

 

福島県道329号

 大内宿はいまや全国屈指の観光地だ。阿賀川に沿った湯野上温泉から、車なら国道121号を離れ、鉄道利用なら湯野上温泉駅からバスで目指す、旧会津西街道(日光街道)の山あいのひらけた地にある小さな宿場集落である。この現在の会津西街道国道121号から分かれて小野川沿いに旧街道大内宿を目指すのが県道329号である。
 ひとしきり坂を上ると県道131号に合流する。これがかつての会津西街道(日光街道)であり、大内宿もこの街道に沿って宿場町を形成している。
 県329は県131に吸収されてしまったわけではない。いったんは合流するものの、大内宿のすぐ直前で西に向けて分岐するのだ。一度でも大内宿に行ったことのある人なら「そんなところから県道が分かれて出ていたっけ?」と思うに違いない。じっさい誰もがそうだ。ここに関していえば、誰にも気づかれない県道としてもかなり上位ランクインするに違いない。
 さてこの県329だが、路線名を「湯野上会津高田線」という。湯野上は当然、大内宿を目指すときに分岐してきた湯野上温泉だが、会津高田とは……。こちらはJR只見線が通る会津美里町にある。こちらから地図を見てみれば、会津高田駅から延びる国道401号、その宮川に沿った途中から、県329が分岐しているのが見えるだろう。南方に道を伸ばし、たどっていくと東尾岐ひがしおまた の集落で大内宿方向に道を向けたままちょん切れている。
 これはまぎれもなく分断県道だ。
 そしてグーグルマップではその区間に道はないが、OSM(OpenStreetMap)でははっきり白い道路が描かれているじゃないか。しかも登山道やシングルトラックレベルではなく、しっかりした車道レベルでの記載!
 急に行ってみたい熱が出る。行けるのか? 行けないのか? ちなみに他の地図も見てみたけれど、Esriには記載さていない。マピオンではか細い線でつながれていた。
 そしてGPSiesでルートが引けるのかどうかをやってみる。引ける! 車や自転車を選択していると無理だけど、徒歩でのルートにすると引くことができるのだ。

▼グーグルマップでは道がない
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▼OSMにははっきりと道が見える
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▼GPSiesで徒歩モードにするとルートも引くことができる
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 魅力的だ。━━でも、熊の多い地域だよなあ確か。

 

神奈川県道731号

 ここもまた分断県道である。路線名は矢倉沢仙石原線。矢倉沢━━聞いたことあるな、とピンと来た人はいろいろな坂に上りに行っている人に違いない。かの足柄峠に向かう道すがらだ。
 かたや仙石原は説明もいらない、箱根のススキ野原だ。足柄峠からそんな道があったっけ? そう思ってふつうだ。ほぼ登山道と化した道が峠から南方向に伸びている。これが県731だ。
 OSMだと足柄峠と仙石原それぞれから手を伸ばす県731の姿が見て取れる。そして分断区間は点線の登山道としてきちんと描かれている。トレッキングの名所でもある金時山を経由している。登山道レベルでの記載ながら、その道にはきちんと「矢倉沢仙石原線」の文字が記載されている。未成県道として扱っている。
 グーグルマップでは南北双方から延びる県道の記載がある。県道番号もちゃんと付記されている。しかしながら未成区間の登山道は描かれていない。
 ちなみにマピオンでは、道路こそ描かれているものの県道番号の表記はない。

▼OSMは登山道区間にも県道名称を表記している

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▼グーグルマップは県道番号が見える
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▼この青看の何も書かれていない先が県731、道はバイクラックの先

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 ただこの県731は、いよいよ全通させるため、現存の明神林道を利用して新たな別ルートで矢倉沢仙石原線となるみたいだ。そうなるとこの道は廃道になってしまうだろうか。終着点にはハイカー向けの駐車場があるくらいだから、市道に格下げして残すかな。いずれにしても現在のこの道を自転車で走ることはできないだろう。

 

 

 行けるか行けないか──、その判断を下すに今時点でいちばんわかりいいのは、グーグルのストリートビューで撮られているかだ。プリウスやフィットの屋根上に、まるで宇宙とでも交信するんじゃないかって奇妙な形の360度カメラを搭載した車で写真を撮ってまわる。そんな車でまわっているわけだから、通れないわけはない。もっとも撮影後に何らかの通行障害が発生して通れなくなっていることはあるかもしれないけど。
 あとよく参考にするのが走行動画。ジムニーに乗っている方やオフロードバイク乗りの方がよくユーチューブに上げていたりする。それらの車両が通れるのであれば、自転車はまず問題にならないんだけど、路面状況を確認したりはする。ジムニーやオフロードバイクが通過できても、それはもともとがオフ向けに造られているわけで、細めのタイヤを履いた自転車で通過できるかどうかはまた別の話だ。とはいっても僕など23Cのタイヤでけっこうなダートを走って行っちゃうのだけど。

 

 本当、眺めるのって楽しいよね。それが思いもかけずどこかとつながっていたり、分断国道・分断県道の一部だったりすると、その道が思い描いていた交通インフラなんかを勝手に想像して妄想に発展して、道やその設計者の思想に予想外の愛情を覚えて傾倒してしまったりする。まあじっさいには危険であったり、道など本当はなかったりして行くことのできない道のほうが多いんだけどね。