ルートという物語をときには完全享受してみよう
国道を、全線走ってみようと思った。
──いや、今に始まったことじゃないし、国道県道含めて何度かやったことがある。
また、あらためて思った。
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もともと僕は自転車で走ることと同じくらいルートを作ることが好きで、いい過ぎかもしれないけれど、作ったルートを楽しむために自転車で走っている。あるいは鉄道で旅をしたり車を走らせたりしている。
ルートは事前に決めていくことが多いけど、それが状況やそのときの気分で変わる(あるいは、変える)こともある。事前に決めたルートをじっさいに旅してみて感受できるさまざまなものが楽しいのだけれど、予定を変えたときも、そうなったらそうなったでまた楽しめることが多い。
何度か、書いたかと思う。この場も含めて。僕はルートの持つ物語が好きで、そのために物語になりうるよう、ルートを引く。
──かつてこんなこともいっていた。
スタンスは変わっていない。小説を書くように、ルートを引く。そして自転車で出かけて、その出来を──物語を自分自身で受け止める。旅に、僕はたぶんそういうものを求めている。
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国道を全線走るということは、そこに自分が作る物語はない。僕が関与する余地がないのだから。起点と終点、あるいは途中の区間だけであってもそれは
その決められたルートから、物語をどう見いだすか。
享受するルートは無機質であれば無機質であるほうがいい。人や組織が旅を意識して作ったルートには、すでに意図する物語がある。誰それが引いたルートであれ、なんとか協会が推奨するサイクリングコースであれ、そして芭蕉が歩いた奥の細道全ルートであれ。
その点、国道や県道は無機質だ。便宜上あるいは管理上、同じ番号を付与し、それが一本の道になっているにすぎない。「これは素晴らしい観光ルートです。あなたにとって魅力的な旅をもたらすでしょう」などといわない。ただそこにつながった一本の道があるだけだ。
そんなわけで、国道を(あるいは県道を)、全線走ってみたいって思っている。自分も含めた、誰からの演出も受けないルートを。
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ずっと前から興味を持っている道がある。ひとつは国道352号。自転車乗りのあいだでは「樹海ライン」の名でも知られ、尾瀬へのアプローチともなる福島県の桧枝岐村を通る大秘境道路だ。その道は福島県の会津高原駅から新潟県の小出駅まで140キロもあり、どう楽しみどう走るか──もっというと走り切れるのか、あるいは泊まってなら行けるのか──、いい意味でも悪い意味でも悩ましい。脚に覚えがあればそれこそ一日で走ってしまう人もいるけれど。
しかしこの国道352号、栃木県の
そしてこの栃木県上三川町はじつは国道352号の終点で、起点は新潟県の柏崎市にある。
「柏崎から上三川か──」
そう、思う。そして想像するだけでドキドキしてくる。これ、走るなら全線、走ってみたいな。
たとえば国道292号って道がある。志賀草津道路という名で知られていて、日本の国道最高地点を通り、またその峠の名、「渋峠」はあまりにも有名だ。
でもこの道でスポットが当たるのはいつも長野原から湯田中の渋峠を含む区間で、それ以外はあまり知られていない。起点こそその長野原ながら終点は新潟県の上越市である。湯田中まで下ってきた道はさらに信州中野へ出て、それから飯山街道に乗って県境を越える。渋峠を越えて日本屈指の絶景道路を走り終えた国道は、じっさいのところどんな物語を見せてくれるのか。新潟県へ向けて、たいして有名でもない峠を越え、じつに中途半端な場所で地味に国道18号に吸収されるエンディングっていったいどんなものなのか。そういう物語を見てみたい。
こういった部分的に知っているものの、でも全ルーティングを見るとびっくりするような国道や県道が、じっさいにはたくさんある。特に300番台を越えるとそうで、えっこの道ってこんなところを通ってたの? この国道のこの区間とあの区間が頭でつなげられない、とか、そんな驚き。国道400号や401号しかり、
手はじめに、どこへ行こうかな。