自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

登坂行程時間のめやす ──山越えのある行程計画のために──

 今度走ろうとするサイクリングで、峠に向かおうと考えたとき、計画コースのなかに山越えが含まれたとき、ふと不安に駆られることがある。
「このコースを一日で走り切れるだろうか」
 あるいはそもそも、
「この上り坂をこの日、上り切れるだろうか」
 といった──。

 

 今回書こうとするこの記事は、アスリート系サイクリストやスポーツライドをしている自転車乗りの方にとっては読み飛ばしていただいてよいと思います。なぜなら彼ら彼女らはそもそも走るうえで目標タイムや目標速度を設定し(それは自身の何らかの経験則にもとづいた)、実測はそれから大きく外れることもなく、さらには上回ろうと努力をするわけですから。結果おのずと全体行程時間も見えてくるはずですから。
 ──もっとも、これまで私の書いたものもすべて、アスリート系スポーツ系の方々には関心のないものばかりでしょうから、心配無用といえばそのとおりですが(笑)。
 ふだんからサイクリングや自転車での旅を楽しんでいる方で、計画を立てるときに、出かけたい場所の好奇心と相反して、不安を抱いてしまうような人と、考え方を共有できればと思っています。

 

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 不安は、得体の知れない上り坂によって作り出されることが多いです。
 多少なりサイクリング経験を積んだ人なら、ある程度の距離や坂は、時間をかければ走り切れる、ということを知っています。またその時間が、一日のなかに収まるようであれば安心します。──そう、一日で計画した旅ができるとわかれば不安はなくなるわけです。
 大雑把に時間をイメージする、ということはあると思います。おおかたそれは距離から導き出されるでしょう。正しいです。僕もそうします。僕の場合、1時間あたり12キロくらいかな、などと考えます。短い休憩や、写真を撮ったり景色を見たりして止まる時間(そうついつい立ち止まるのです)も含め、そのくらい。朝の7時から夕方の17時まで10時間走って、じゃあMAX一日120キロくらいかな、などと算段するわけです。だいたい実際にもそのくらいですね。ブレは少ないと思います。そこからさらに、途中お昼も食べたいからその場合1時間差し引いて、つまり12キロぶん減るわけなので、そうなるとMAX108キロか、などと考えます。観光立ち寄りがある行程であれば、そのぶんをどんどん差し引いていけばいいわけです。
 あくまで大雑把です。どうしてももう少し走らなくちゃならないときは(たとえば輪行駅までもう少し距離があるとか)、もう1時間余計に走るとか、経験値からほんの少しですが速く走ることもできるので、できる範囲で調整します。
 その算段がつけば、安心感はぐっとアップします。僕もそうです。「この日はスタートが9時で、帰りの列車が16時過ぎ、全体が70キロだから6時間くらいで走れるだろう、輪行パックの時間を含めて。よしよしお昼の時間も作れるぞ」とそんな感じです。

 

 一度時間付き行程表タイムテーブルを書いてみるのもおすすめです。途中の経由地を縦に列挙し、そこに距離を埋めていきます。スタート地点の時間を埋めたら、経験値から経由地に時間を入れていきましょう。休憩時間はそのぶんを加算しましょう。タイムテーブルが一日に収まれば明確な安心感になります。漠然と思い描くより具体性があって、信頼度がぐんと上がります。逆に、タイムテーブルにちょっと無理した区間をねじ込んだりすると、急に不安になってきます。でもこの部分だけだから頑張ってみようって意思にするのもいいかもしれません。なんにせよ、ざっくりでも書き出してみると具体的になって、無理する部分がある場合も含めて、全体として安心感が生まれます。
 僕は時間に縛りのある行程や、不安を感じたルートの場合、この書き出したタイムテーブルをステムに貼り付けて走っています。

 

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 でもひとつ、漠然と思い描くにせよタイムテーブルを作るにせよ、大きく混乱させるものがあります。
 上り坂です。
 さっき僕の場合、1時間あたり12キロくらいと書きました。でもあくまで平坦路での話です。1時間あたり12キロって、メーターの速度を見ていて20キロとかそれ以上で走っていて初めてその距離ですから、上り坂になっちゃうとどうなっちゃうんだろうと思います。坂を上っているさいちゅうのメーターなんて、いつだってひと桁の速度しか表示していないし、じゃあ例えばそれがだいたい7キロだったとするなら、1時間あたりの距離はいったい何キロなんだよ? っていう混乱です。
 つまり、上り坂があることによって、混乱して、算段ができなくなって、タイムテーブルを書き出せなくなってしまうのです。

 

 そこで、僕の考える上り坂の行程時間の見積もりかたです。

 

 

上り坂は標高差100メートルの所要時間で行程時間を算出する

 

 

 距離はどこへ行っちゃったの? と思われるかもしれません。距離を時間算出に使わないのですからもっともな疑問です。
 坂を上るとき、自分が標高差100メートルを何分で上っているか、これを記録してまずは経験値としてどんどんため込みましょう。GPSロガーやスマートフォンのアプリで記録したGPSログであとからひも解いてもいいでしょうし、走りながら標高を見つつ100メートルごとに通過時間を頭に入れておくだけでもいいです。その時間をためてゆき、いくつかのパターンの坂を上れば、だいたい見えてきます。そして、気づくと思います。
「標高差100メートルを上るのにかかる時間は、距離や斜度に関係なく、おおむね一定である」
 ということに。
 意外とはずれがないんです。

 

 もちろんどんな緩い坂であってもということはありません。また途中下りや平坦路を含む場合も当てはまらないです。ではどのくらいの坂なのかというと、僕の経験からすると、上っていて
「3%以上の上り坂であればだいたい当てはまる」
 といえます。

 

 ちなみに緩めの坂でもドぎつい坂でも一定になります。不思議でしょう? でもそうなんです。6%のいろは坂も、8%から10%が続く柳沢峠も、12%や14%、ときに18%のドーナツ坂が現れる過酷な過酷な明神・三国峠でも(あそこは本当に過酷でした……)。

 

 

 僕の場合、だいたい標高差100メートルを12分から13分で上るようです。
 日光第二いろは坂。ふもとの馬返で休憩をして、明智平まで上ります。馬返が標高860メートルで明智平が1270メートルくらい。獲得標高は500メートル強といったところ。100メートル当たり13分の計算で出すと1時間余り。そして実際、そんなものです。東武日光駅から金精トンネルの入口まで上ったとすると、標高540メートルから1840メートルへ、獲得標高1300メートルで169分、清滝のあたりの緩い上り2キロ、中禅寺湖畔の平坦5キロと戦場ヶ原の平坦2キロは距離から計算しておよそ45分、合わせて3時間半余りと出ると、なるほどそうだったかもと実感が湧きます。実際には途中で高いカレーを食べたりうどんをつるっといったりごろごろ昼寝をしたりするのでそれ以上かかるわけですが、走行時間の実態にかなり近い値です。
 激坂/劇坂の明神・三国峠は標高差700メートルを1時間半を割るくらいで上ったので、100メートル当たり12分ということでしょう。このときは途中止まらなかったから(止まったら二度と乗ることができないと思った……)12分だったのでしょう。なるほど勾配は関係ないな、と思いました。

 

 この経験則ができあがると、行ったところのないところもおおよそのめやすがつけられるようになります。
 たとえばヤビツ峠。ふもとの秦野市名古木ながぬき交差点が標高100メートル、峠のロータリー標高760メートルへの上りっぱなしは単純計算ができそうです。100メートル当たり13分で86分。そうか1時間半くらい見れば上れそうかなと見積もれるわけです。行かないけど。

 

 幸か不幸か、僕には速くなろうとか強くなろうという意思がないので、この時間は変わらないわけです。年齢的に衰えるほうはあると思うけど。そうなったらそのときに基準値を修正していけばいい。だって旅の行程の時間を見積もるためのめやす、、、であって、人と競うための数値ではないのですから。

 

 

 よかったら一度お試しください。