奥日光千手ヶ浜(Jul-2018)
破壊的な暑さはもはや夏という気候さえ超越している。何日も何日も、朝も夜も。逃げ出すこともできない。
高いところなら大丈夫に違いないと考えた。
僕のところから手っ取り早く行ける高いところ──奥日光を目指した。輪行ではなく、車で出かけた。輪行で行けるのは東武日光駅までで、そこはまだ標高五百数十メートル。この程度じゃ暑さから逃げることはできないと思った。駅から馬返を経ていろは坂を上るのはやめておこうと思った。
そんなわけで車でいろは坂を上り、標高千二百メートルの中禅寺湖もあとにし、千四百メートルの戦場ヶ原まで駆け上がった。
三本松園地。
今月初め、栗山から川俣温泉に出て、山王林道を裏から越えて奥日光へアプローチしたとき、ずいぶん遅い昼食に立ち寄った場所だ。ここをベースに、奥日光の涼しい一帯をサイクリングしてまわることにした。
車を止めてアスファルトの地面に足を下ろすと、しかしながら刺すような太陽光が真上から照りつけ、路面からも照り返し、暑かった。
全然涼しくない……。
◆
まずは千手ヶ浜へ行ってみることにした。
国道120号から市道1002号でアプローチする行き止まりルートは、一般車両が進入できない。入り口にはゲートがあり、専用のバスが行き来するのみ。自家用車でアプローチした人は、赤沼茶屋に置きそこから専用バスに乗る必要がある。
一般車両の入らない道だから、徒歩や自転車には天国である。入るときにはゲートの右にある細いスルー・ゲートを使う。
この市道1002号から千手ヶ浜へアプローチするルートは、奥日光のなかでも屈指のサイクリングルートだ。それは車両が規制されているからってだけじゃない。舗装されたバスの幅一台分の道路以外のあらゆるものが自然に帰し、そのやさしさも厳しさもすべて、ありのまま見せつけてくれるからだ。すべての動物が植物が命を持ち、やがて果てる。果てた命は自然が包み込んでいく。また強いものは残り、弱いものは尽きる。そのメソッドだけが長い長い時間をかけ、ゆっくりと繰り返されている。これを肌で感じる場所だ。
大地もまた命だ。今回は時間もあったので、
僕がこの千手ヶ浜を訪れるまで、ずいぶん時間を要した。知ってはいたし、いい場所だと聞いていた。かつてまだ道が林道で、一般車両が通れ、千手ヶ浜にキャンプ場があったころからの話だ。しかし僕がなかなかここに来られなかったのは、僕がピストンコースでルートを引くことを嫌っていたからだ。道を行き、目的地について、同じ道を戻ってくるという行為を否定する、無益な美学に翻弄されていたからだ。ばかばかしい話だ。
◆
戦場ヶ原の三本松園地に車を置いて千手ヶ浜へ向かうということは、行きが下り基調で帰りが上り基調になる。もっともこれは赤沼に近い市道1002号の入り口が中禅寺湖畔よりも標高が高いわけだから仕方がない。三本松園地から来ようが、輪行でいろは坂を上って来ようが同じことだ。ただ三本松園地に帰るということは、国道に合流してから戦場ヶ原への上りを少々、上らなくちゃいけないということだ。
帰り道、僕はずいぶんくたびれていた。
上りが進まない。千四百メートルの標高は多少なり気温も低い。なのにそれを感じられない。暑いというか、だるかった。きっと湿度のせいだ。僕は気温よりはるかに湿度の影響を受けやすいらしい。高湿度でなければ、多少高温の気温であっても何とかなる。千手ヶ原の森、小田代ヶ原、戦場ヶ原に重くのしかかった湿度の高い空気のせいだ。
せっかく高原地帯まで来たのに──。
そんなわけで僕は三本松園地に戻って自転車を降りた。まずはと考えていた千手ヶ浜のピストンだけでお終いにした。本当なら光徳牧場や湯元温泉とか、金精道路に向かってもいいなと考えていた。しかし千手ヶ浜からの帰り道でそれはすべて消えた。今日はせいぜい20キロばかり、もう走れない。
どこへ行っても、暑さが破壊的だ。
◆
頭を切り替えよう。
僕は今日、いろは坂を下った日光市内でオートキャンプをすることにしている。今日のサイクリングはお終い。キャンプモードに切り替えて、明るいうちから準備を始めることにしよう。
(本日のルート)
(GPSログ)