自転車旅CAFE

自転車を中心とした、旅のエッセイ

自転車で坂を上るために(1)

 自転車に乗っていてつらいもののひとつが坂。そういう僕も坂はつらいし好きじゃないんです。

 とはいえ僕の自転車紀行は山だったり峠だったり、いわば坂を上って出かけているものが多くて、ギャップに思えるかもしれません。でもそこはそれ、僕が行きたいところがどうしても坂を上らなくちゃいけないところにあるから、その目的のためにつらくて嫌いな坂を上っているわけです。

 自転車に乗る人、特にスポーツライドをしているアスリート系の人びとは坂が好きな人が多いようです。坂バカという言葉もあるくらいだし、日本全国で行われるヒルクライムレースはどこも大盛況。でも僕は残念ながら坂が好きじゃないし、上手くも速くも上ることができません。

 と言いながら坂を上る僕から、もし同じような考えや体力や目的意識の方がいらっしゃれば多少意義のある内容かもしれません、坂を上るにはどうしたらいいか、僕なりの考えをお話ししてみたいと思います。



 前置きが長くなっちゃいましたが、これはあくまで僕の個人的な考えで、科学的な裏付けもありませんし、もしかしたら誰ひとり役に立つ人はいないかもしれません。あくまで僕の経験則ということでお話しします。

 まず僕のような自転車乗り──つまリスポーツライドではない、非アスリート系──で、自転車に乗ることが目的ではなく、自転車は自分の旅のための手段であるような人であれば、坂を急いで上る必要はありません。競争するわけじゃないですから、ゆっくり上ったところで怒られません。逆に速く上ったところで賞もご褒美もありません。そんな境遇ですから、「上れる」か「上れない」かといった差が出てくるのは、「慣れ」と「意識」だと思っています。

 坂はいつ上ってもつらいですが、上れば上ったぶん、「慣れ」ます。経験が積み上がるわけです。これが大きく作用します。慣れていれば坂のなかでいろいろな判断もできるようになります。それは坂の攻略方法のような戦略的組み立てと、上っているさいちゅうの疲労や息が上がったことに対する対応のような状況判断。これらが慣れによってできるようになります。いわゆる経験則、というものが自分のなかにできるわけですね。

 もうひとつの「意識」は、「自信」と言い換えてもいいと思います。坂を上るための意識は、坂を上り切れるという意識に裏打ちされているわけで、上り切れるという意識がなければ、不安のまま坂に上っていくことになります。でも上り切れると思っていれば、僕らの場合どんなに遅くてもいいのですから、淡々と上ればいいのです。

 どちらも、自身のメンタルに関するものですね。

 そうです。坂を上るにはこれがいちばん大きいです。


 じゃあこの「慣れ」と「意識」をどうやって培えばいいか。言い換えれば「経験則」と「自信」をどうやって身につければいいか。ありきたりになってしまって申し訳ないのですが、やっぱりたくさん坂を上るしかないと思います。

 ──ので、たくさん坂に出かけましょう。

 でもこれでは身もふたもないので、僕自身が上手くいったのではないかと思った方法をひとつ。

 ある坂に行ったら、その坂を何度か続けて訪れるのがいいと思います。

 2度、ではさすがに難しいかも。3度、4度と、立て続けに出かけます。

 初回よりは2度目、2度目よりは3度目のほうが「上れてる」と感じるはず。3度目にもなるとおぼろげながら道も覚えることでしょう。

 上ることがつらいのは関係ありません。つらいけど、上れてるって感じられればいいのです。

 何回行けばいいかは人によって違うと思いますが、「あ、もうこの坂は上れるな」って思えればじゅうぶんです。

 僕はよく、「自分はアスリートではないし、自転車で速く走ることを目的にはしていないから、練習なんてしない。自転車に乗りたいと思ったときに乗っているだけ」という話をするのですが、これに関しては、練習してるって言っているに近いですね。坂に慣れるという練習を。

 なのでいささか練習っぽくはあるけど、坂に慣れることを考えた場合、一度上った坂の次に別の坂に出かけるのではなく、もうここは行けると思えるまで連続して出かけるといいと思います。そして、もう行けるなって思ったら──これも慣れてきたらすぐですよ──次の坂に出かけましょう。

 坂を上ることがつらいばかりで同じ坂に出かけるのは意欲が続かなくなるので、自分の興味を引くものがあるところがいいですね。上り切った場所の眺望がいいとか、美味しいものがあるとか、お城好きならお城を目指してもいいし、街道好きなら宿場のある坂を選んでもいい。楽しみながら慣れていければいちばんです。

 あくまでも、速く上れるためのノウハウとは全く違います。あるいは僕個人にしか当てはまらないかもしれません。

 でももし、どなたかのお役に立てたら幸いです。


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