自転車旅CAFE

自転車を中心とした、旅のエッセイ

赤岩の渡し

 渡し船に自転車と一緒に乗ったことがありますか?

 

 もともともう残っていることが少ない渡し船。なかなか乗る機会はないけれど、調べてみると自転車ごと乗せてもらえるものがある。

 かの、矢切の渡しもそう。自転車と一緒に渡し船に乗るのはなかなか楽しい。

 僕は矢切の渡しには乗ったことがないのだけど、利根川で運行している赤岩渡船は何度が利用したことがある。

 

 埼玉県熊谷市群馬県千代田町を結ぶこの渡し船は、渡し賃が無料だ。これはこの渡船が県道83号の役割を担っているからで、つまりは利根川に県道83号の橋が架かっていないことによる。県道の代替渡船だから無料、ということらしい。国道や県道でも大きな河川にかかる橋だけ有料道路っていうところもあるけど。

 地図を見てみると、なるほど埼玉側群馬側双方から83と番号の書かれた道路が伸びてきていて、ここで切れているのがわかる。

 

 

 この渡船は、埼玉県にある見沼代用水沿いのサイクリングロード、「緑のヘルシーロード」の終点にほど近い。そこから利根川サイクリングロードを西へ5キロほど行ったところに埼玉県側、葛和田の渡船場がある。

 僕がこの渡船を使うようになったのは、 ヘルシーロードでここまでやって来て群馬県に渡るとき、武蔵大橋を渡ることができなかったから。

 武蔵大橋は利根大堰とも呼ばれ、利根川から見沼代用水や埼玉用水のための水を得るための取水堰の上にかかった橋で、ちょうどヘルシーロードの終点にある。ヘルシーロードで来て、群馬県に渡るのであればこの橋を渡るのが最短だ。

 でも僕はこの橋が渡れなかった。

 車道は路肩のまったくない、また道幅も古い車の車幅いっはい程度の片側一車線。トラックや大型車は中央線のオレンジをまたいで走るほどの幅だ。

 なのでじゃあここばかりは歩道を走ろうと歩道で渡り始めたところ、橋の中ほど、僕は足がすくんで立ち止まってしまった。

 僕は、高所恐怖症である。

 ただ、この武蔵大橋の歩道は、重度の高所恐怖症──たとえば、こころ旅の火野正平氏のようにだ──でなくとも、軽度の高所恐怖症だってじゅうぶんに恐ろしいと思う。僕は火野正平氏ほどではないけれど、言うならば中度、くらいか……。

 このときばかりは半泣きでゆっくり、止まりながら(でも止まると余計に怖い)渡り切ったものの、二度と渡ろうという気になれず、どうしても渡る必要のあった一度は車道で渡り切り、それ以外は西に10キロ以上利根川サイクリングロードを走った、刀水(とうすい)橋を渡っていた。

 10キロ……つまり30分以上はゆうにかかる。

 あるとき、この利根川サイクリングロードから川辺へ下りたところにある渡船を知った。

 

 

 赤岩渡船は群馬県千代田町が委託されて運行している。そのため、船はつねに群馬県側にいる。埼玉県側から乗る場合、渡船場そばの小屋にある黄色い旗を掲げるのだ。この旗が上がったことを見て、千代田町側で待機している船が埼玉県側へやって来る。

 ちなみに千代田町側から乗る場合は、小屋にいる係員に声をかける。

 

(埼玉県側にある黄色い旗)

(埼玉県側、葛和田の桟橋)

 乗船時間は5分程度。

 サイクリング中のイベントとしても楽しいし、気分転換にもなる。

 

 先日、久しぶりに赤岩渡船に乗った。ひどく風の強い日で、われながらよくこんな日にサイクリングしているなと思った。利根川の土手の上を走っていても時速10キロ出るか出ないか。危なっかしくよれよれとゆく。向かい風ならまだよくて、風向きが横からに変わったりしたらたちまち土手下に突き落とされそうなひどい風だった。

 赤岩渡船は、運行していた。

 

「欠航にしてもおかしくねえ」

 と渡船のオジサンは言った。

「風が強くてどうにもなりません、今日は」

 と僕が笑うと、

「わかって走ってんだろうが。まあ物好きだ」

 とオジサンは苦笑いした。

 この渡船は交通の便が至極悪い。双方バスでアプローチできるけれど、本数は多くない。ここまで歩いてやってきて、向こう側でも歩いてどこかに行く人ってどれだけいるだろう。車で来る人、二輪で来る人は車やバイクと一緒には乗れないから(当たり前だ)、単純往復でもしない限り利用することはないはず。したがって利用者は、この船を観光目的としてきちんと時間を調べてバスでやって来た人と、ここまで自由にやって来ることのできる自転車乗りばかりだ。

 じっさいそうらしい。

 オジサンたちはたくさんの自転車乗りを運んでいる。

 

 

 さてこの強風の日、川ではウィンドサーフインを楽しむ人がたくさん出ていたけれど、風にあおられて転倒する人が続出していた。

川面は激しく波打ち、船は大きく揺れた。それもわずか5分。

 渡船を下りた僕はあきらかに船酔いしていることを実感した。