自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

2018夏・東北/Day1#2米沢-秋田(Aug-2018)

Day1#1からつづく

 

 今日の予定は輪行で秋田まで移動すること。あす一日、JR五能線に沿った日本海沿いを自転車旅するつもり。そのために秋田のホテルを取っていた。一週間前から天気予報を何度も見返し、秋田県から青森県への日本海沿いの町々は好天との確信を得た。
 しかしまさか、秋田へ向かう奥羽本線の道が閉ざされているとは、想像もしなかった。

 

 先週の大雨で、真室川から院内までのあいだが不通になっているらしい。同時に陸羽西線も新庄から不通だそう。鉄道が、まさか通じないとは想像もしていないから、情報収集していなかった。日本の鉄道は時間通り、確実に走っていることを当たり前に、疑問を持たずにいた。
 計画は、秋田までの普通列車の乗り継ぎを調べてきただけだ。初めて不通の情報を知ったのは、米沢駅での電光掲示でだ。それが身に降りかかる現実とは認識できなかった。それを助長するみたいに、山形ゆきの列車は不通区間などおかまいなしに、平常通り運転されるよう。
 とりあえず山形ゆきに乗ろうと、改札口でまだサラ・・の18きっぷにスタンプを入れてもらう。
「今日、秋田へ行きたいのですが──」
「途中代行バスになりますね。時間はホームページで見てください」
 改札口の係員は平板な口調でいった。JR幹線が不通であってもさして重大ではないようなふうにも聞こえる。あるいは誰もが何日も前からわかっていて当然のこと、旅程の変更や代替経路くらい調べてから来るものだからいちいち心配などしないのか、そんなふうでもある。
 僕は山形ゆきの列車に腰を落ち着けると、JRのページを探した。このとき初めて、山形県の管轄はJR東日本の仙台支社であることも知った。

 

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 新庄ゆきの列車のなかで、いよいよこの先どうするかを考えた。
 代行バスは新庄から湯沢のあいだを走っていて、この列車から乗り継げるバスは15時50分だった。そのバスで行くと湯沢着17時20分で、もともと新庄から乗る予定だった普通列車の一本あとになる。
 しかしこの列車が新庄に到着するのが14時42分で、1時間以上待つのだ。それだけ待って一本あとの列車になってしまうっていうのもどうなのだと悔しく思った。
 不通区間真室川と院内のあいだ。新庄から秋田への普通列車は院内で折り返し運転をしているらしい。実は平常時のこの列車も新庄で1時間待ちなのだ。
 ──院内まで走ったら、追いつけないかな。
 グーグルマップで両駅間の距離を調べてみると38キロ余りだった。平常時の1時間差を自転車で埋められるか。
 ──38キロ2時間少々、あるいは2時間半か。前後の輪行解除と輪行パックを含めて、プラスアルファ。調べるすべがないけど、標高差次第でもずいぶん所要時間が変わる。
 僕が乗る予定だった新庄発秋田ゆきの普通列車の、院内駅の発車時刻は16時24分。2時間弱。
 ──本気で踏んだら行けるかな。いや無理だよな、今まで経験上、そんなスピードで走れたことがない。
 その次の列車は、これが代行バスから乗り継げる列車なのだけど、院内ではなく湯沢発だった。湯沢を17時30分に出る。さらにグーグルマップで調べてみた。2時間弱後の院内発に乗れなかった場合の保険になるかどうかとして。結果、これは56キロだった。平坦での仮定で3時間強。またぎりぎり、僕の脚では追いつけなさそうな時間だ。
 なんだかすべての選択肢が悔しい。

 

「行き違い列車遅れのため、この列車も発車が遅れます」
 そう車内放送が入った。そして一度ではなく、何度もあった。行き違い列車は普通列車であったり、新幹線つばさであったりした。何本かの行き違い待ちで、遅延が20分近くに膨らんでいた。
 さらに被害箇所通過で徐行運転になる区間もあった。
 結局、新庄駅に着いたのは15時を大きく回っていた。
 院内や湯沢への自走は、無理だ。もう、ここでバスを待つほかない。

 

 

 新庄駅改札前。酒田ゆきの、陸羽西線代行バスを案内している係員に、秋田に行きたいことを伝えた。
「湯沢ゆきの代行バスにお乗りいただくことになります。15時50分発で東口からなんですが、あちらは待合所もなく暑いので、ここでお待ちいただければバスが来次第ご案内します」
「自転車を持っているのですが、大丈夫でしょうか」
「トランクに入れますね。大丈夫です」
 15時30分に、東京からの新幹線つばさが着く。15時50分とは、これに合わせた時間だったのか、と気づいた。
 新庄駅で、たいしてすることもなく、少し歩き回っていたのだけど、それも飽きて結局改札口の前で人の行き来を見ていた。
「当駅15時30分到着予定のつばさですが、途中20分遅れて運行しております。到着まで今しばらくお待ちください」
 と放送が入った。15時30分に近くなると、構内に徐々に人が増え始めた。なるほど、地方都市の駅で多く見られる光景だ。新幹線や特急列車が着くころ、駅に車で迎えに来る。駅前は車でいっぱいになり、乗客は迎えに来た身内と一緒に帰っていくのだ。お祭りかバーゲンセールか何かのようににぎわい、過ぎ去るとこうも何もないかと静まり返る。

 

 15時45分になってもバスが案内されない。新幹線つばさの遅延は30分に広がっていた。これを待つのだろうか。待つんだろうきっと。新幹線に合わせた代行バスの運行であれば、その乗客を乗せないことには意味がない。
 しかし代行バスの出発が遅れれば、湯沢駅17時30分発の秋田ゆきにさえ乗れなくなってしまうんじゃないか。こんな状況で秋田にたどり着けるのか。むしろ陸羽西線代行バスで酒田に出て、羽越本線で秋田に向かった方がいいんだろうか。あやうさを感じ、そしていろんなことを考え始めた。
「それでは湯沢ゆき代行バスにご乗車のお客様、ご案内いたします」
 駅係員は、新幹線つばさの到着を待たずに案内を始めた。僕はあとに続いた。
 もうひとつ、僕は気にかけていることがあった。駅係員は自転車をトランクに入れればいいといったものの、果たしてそれがかなうのか、ドライバーは入れてくれるのか。僕は気にしながら駅東口へ向かった。

 

 東口のロータリーには大型バスが何台も止まっていた。ここにもJRの係員がいて、順次前のバスから乗るように案内していた。先頭に止ったバスまで行った。大きな荷物をトランクに収める乗客の列に並んだ。ドライバーは僕の自転車を見るなり、「自転車?」と聞く。僕ははい、と答えた。それから手慣れたようにまだ開けていないほうのトランクを開け、僕の自転車を手に取って収めた。
 バスはすでに半分以上の座席が埋まっていた。新幹線つばさはおそらくまだ到着していない。僕は空いている席に座った。15時55分。あとは湯沢駅17時30分発に乗ることができるか。もともとは15時50分に出て17時20分に着く代行バスのダイヤだ。
 遅れている新幹線つばさを待つのだろうか──。

 

 かなり長い時間やきもきさせられた気がした。でもわずかだったようだ。どれだけ長く感じただろう。16時ちょうど、バスは出発した。おそらく、新幹線つばさの乗客は待たなかった。何台も止まっていた後続のバスに任せるのだろう。

 

 

 バスは17時20分、もともとの予定通り、湯沢駅に到着した。
 僕は秋田ゆきの普通列車に乗り継ぐ。
 不通区間代行バス、これが当たり前のように運用されていた。もう昔からずっと、この手はずで物事が進んでいるように。JR側も乗客側も、その当たり前に乗っかるように応対し、行動していた。まるで僕だけが異常事態に慌てふためいているように感じた。
 あす、奥羽本線は復旧開通するという。
 一日違いでこの事態に巻き込まれた。不測は僕に降りかかった面倒だったのか、結果的になかなかない経験ができたということか。いずれにしても僕は明日からまた予定通りの行程に戻ることができる。それにまず感謝。

 

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(Day2へつづく)