自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

湯田中自転車紀行(5)/番外編:輪行旅のたのしみ

 自転車の旅を終え、解体した自転車を袋に詰めた。あとは帰るだけ──。

 ほくほく線十日町駅から2両編成の列車に乗った。高性能の電車は軽快に飛ばし、魚沼山塊を長い長いトンネルで直角に、最短距離で貫いていく。僕が自転車で走れば、たくさんの時間と労力を費やして越える山地を、いともたやすく。あっというまに六日町。魚沼山塊の東側、魚野川流域の三国街道筋に出た。

 列車はそのまま上越線に直通し、塩沢駅にだけ停まり、越後湯沢を目指した。石打さえ通過か……特急・新雪(1970年代から80年代にかけて運転されていた、上越線のスキー特急)の行き先さえ。

 僕はこの日(湯田中自転車紀行(4)/千曲川・信濃川・飯山線沿いサイクリング編)一緒に走ったAさんとKさんを、越後湯沢の新幹線改札口へ見送る。新幹線へはわずか数分の接続。少しあわただしげに、今日一日のお礼と、またの再開を約束して、見送った。

 コンコースに残った僕は、そのまま一般の改札口へ向かった。今まで、頼まなければ押してもらえることなどなかった途中下車印を押され、僕は外へ出た。

 ──もうひと旅。

 

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 確かに、サイクリングにとって輪行は、そのための準備と後始末であって、自転車旅そのものじゃない。どこでもドアがあったなら、取って代わられてしまうものだ。

 でも、それそのものも鉄道旅。確かに主題ではないけれど、ところによってはどこでもドアに取って代えてしまうにはもったいない。そうそう乗る場所じゃなけりゃ輪行だって旅にしてしまいたい。

 

 ふたりを見送ってからおよそ20分後、後続の越後中里行きは水上までの延長運転がない日だったから、この列車が僕にとっての最終列車。

 夕暮れの苗場山系の白い頂を望み、今じゃそう長くもない、くにざかいのトンネルを抜け、上越名物のループ線(同じ場所で高低差を稼ぐため、ぐるっと大きく回って上り下りする、ループ橋の鉄道版)を眺め、列車を乗り継ぐ。18きっぷの季節じゃまるで戦争のような乗り継ぎも、それ以外なら喧噪すらない。

 知らぬ間に日は落ちていた。空の明るさがわずかに残る上州路をひと駅ずつ停まりながら、乗り継ぎ。気づけば夜。窓にはわずかながらの小さな点のあかりと自分の顔。何も見えないなかで列車のモーター音と踏轍音だけひときわ大きく感じる。また乗り継ぎ。

 

 

 この日僕は、ほくほく線から上越線両毛線で伊勢崎へ出て、東武線に乗り継いで越谷へと帰った。5時間かけた輪行旅。

 

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