自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

下ハンが握りづらい方へ

 僕は坂を下るとき、下ハンを握っています。
 下ハンってのもまた俗な言葉ですが、ドロップハンドルのアーチ下側ですね。乗っている方には説明も不要と思いますが。

 

 僕が下ハンを握っているのは、前傾を深くして空気抵抗を極限までそぎ、高速で走るためではありません。じっさい下り坂もゆっくりゆっくり下りているしね(笑)。
 それはブレーキのためです。
 もし下り坂でも平地や上りと同じようにブラケット部を握っているようでしたら、ぜひ下ハンを握ることを試してみてください。
 僕の場合ですが、ブラケット部を握りながら下り坂を走っていると、あっというまに握力がなくなって、最終的にはブレーキなどかけられなくなっちゃいます。握力が、パワーもエンデュランスも兼ね備えた方ならブラケット部握りでも問題ないでしょうけど、非力な僕は残念ながら早々にブレーキできなくなってしまうのが実情です。
 でも、そんな非力でも困っていないのは、下ハンを握って下っているからです。

 

 ドロップハンドル向けのブレーキレバーは、ブラケット部に支点を置き、てこの原理でブレーキワイヤーを引くわけですが、てこは力点が支点からより遠いほうが少ない力で大きな力を発生させられます。つまりブレーキレバーは先端近くを握ったほうが、少ない力でブレーキをかけられるということです。
 ブラケット部を握っていると、どうしても支点近くでしか握ることができません。先端近くを握るためには下ハンを握るしかないでしょう。
 ブレーキレバーの形状も、先端付近のほうが指をかけやすい形状になっています。いい換えれば、指をかけやすい場所イコール効果的な力をかけられる力点ということかもしれません。
 それと、ブラケット部を握ってブレーキをかけるのは、ブレーキレバーを包むように握りこむので、そもそも力がかけにくいですよね。下ハンでブレーキレバーを握るというのは、シンプルに「引く」ってだけですので、力がまっすぐに伝わっている感覚があります。

 

 そんなわけで、ぜひ「力をそんなに使わずに、楽に」ブレーキのかけられる、下ハンで下り坂を走ってみてください。下り坂が怖くてゆっくり下りたいっていう人はなおのこと。それだけブレーキを使いますから。

 

 

 さて、いざ下ハンとなると、「怖くて握れない」「遠くて握れない」「握れたはいいけどブレーキレバーに手が届かない」など、いろいろと障害があると思います。
 ひとつは「慣れ」の問題はあると思います。ずうっとブラケット部しか握っていなかった方が下ハンを握れば、前傾は深くなるわ、ハンドルは遠くなるわ、操作はしづらいわで同じ自転車なのに苦渋の未体験ゾーンに突入するわけです。だからどうしたって「慣れ」っていうのは必要だと思います。
 でもね、僕はもうひとつ、ハンドルのセッティングのせいも大きいと思っているんです。

 

 ハンドルが、上向きすぎる。

 

 これが僕の思っているところです。
 いつごろからなんでしょう、メーカーのカタログ写真も、販売店が顧客に手渡す整備済み自転車も、ずいぶんアップライトな取り付けをしているなってここ数年思っています。

 

 ※ちょっと余談なのですが、もともと競輪の方々の用語でこのセッティングを「送る」「しゃくる」といっていました。しかしながらとある時期、とあるロードバイク系雑誌で同じように「送る」「しゃくる」を用いているのを見たのですが、その意味がまったく逆の使われ方でした。競輪用語ではハンドルが上向きになることを「送る」、逆に下向きになることを「しゃくる」といっていたのですが、その雑誌ではハンドルが下向きになることを「送る」、上向きになることを「しゃくる」と使っていました。競輪が下ハン基準で言葉を使っていたのに対し、雑誌はブラケット基準で表現したのでしょうね。そんなわけで読み手の方が混乱するといけませんので、ここで僕は「送る」「しゃくる」という表現は用いないようにします。

 

 先日、妻と妻の友人夫婦、それからフォロワーさんを交えた五人で琵琶湖を走る機会がありました。そのときメタセコイア並木が評判どおり美しくって、自転車を並べて撮った写真がありますので、ここに載せます。

 

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 左から二番目の青いクロモリが僕の自転車で(バーテープがキモくてすみません……)、そのとなり、真ん中のジオスのカーボンに妻が乗っています(もともと僕が乗っていました)。そのさらにとなり、右から二番目のチネリの美しいクロモリがフォロワーさんのもの。両脇にある赤い自転車二台が友人ご夫妻のものです。
 見づらいですが、ご夫妻の赤い自転車二台、ハンドルがけっこう上向きなのですね。

 

 

 むかし──もうずいぶん前になるかもしれません──、ハンドルのセッティングに際して、「下ハンのエンド部をまず水平にするのが基準」と習いました。そこからポジションを出すのに合わせて微調整していくという流れでした。
 現代、ハンドルの形状もアナトミカルになり、ひとくくりにはいえなくなっていると思いますが、それにしても今の自転車はずいぶん上向きだなあと、僕はいつも思っています。
 それはイコール、「これって下ハン握れるのかなあ」ってことでもあります。

 

 上の写真でいうと、僕の自転車と妻が乗る自転車、それとフォロワーさんの輝くクロモリが、ほぼ下ハンが水平に近い、僕のいう「むかしながらの」セッティングになっています。

 

 

 ハンドルを上向きにセットすると、乗車中の大半のポジションをここで過ごすブラケット握りが楽になります。もうひとつ、ブラケットが自分側に向いてくれるので、手首が返るのも楽になる要素です。ハンドルをノーマルにセットすると(僕にとってのノーマルなので、現代は下向きと解釈してくださってもけっこうです)手首がまっすぐになります。慣れないとこのポジションもつらいです。
 僕のきわめて個人的な勘ぐりですが、自転車ブームの昨今、「どれだけこれから始める人を取り込めるか」というマーケティングがあるように思えてなりません。メーカーサイドや販売店サイドに。クロスや小径車を買い、すぐにロードが欲しくなるという流れも聞き飽きたほどありますし、いきなりロードを買っちゃう! なんて人も今けっこういるようです。そのときにドロップハンドルを握り(当然、ブラケット部ですね)、「えっ、つらい、これ無理!」っていわれないよう、ブラケット部で握りやすいように、あるいはつらくないように、このセッティングで販売されているんじゃないかって気がしてならないのです。

 

 上向きにセットされたハンドルの下ハンを握ると、逆に「これ無理っ!」ってなります。手の大きくない僕は、上を向いてしまったブレーキレバーに下ハンからでは手が届きません。

 

 友人夫妻の奥さまのほうは昨年この赤い自転車を買い、販売店はクラブを持ったりライドイベントを行ったりする積極的スポーツバイク店のようですので、おそらく「このセッティングで乗りなさい」と渡されているのでしょう。販売店が調整する際、今はこの上向きセットが主流なんだろうなと感じさせます。

 

 

 もし今、下ハンが握りづらいと感じておられて、「まあナガヤマのいうことも一理あるかもな」と思っていただけるなら、ハンドルを少し下向きにしてみてください。そして下りで下ハンを使ってみてください。
 いきなりバーエンドを水平にまで下げる必要はないと思います。あまりに変化が大きいと「慣れ」がまったくついてきませんので。バーエンドを水平にすることを基準にせず、下ハンが握りやすいと思えるセッティングで良いと思います。そして下りを下ハンで走ってみてください。

 

 要点がぼやけないようあまりここで多く語らないようにしますが、もしハンドルが低すぎてつらいという場合は、ステムをひっくり返したりスペーサーを入れ替えるなりして、ハンドルの高さを上げてください。そのうえで、ハンドルを下向きにしてみてください。

 

 

 僕はこのとおり、速く走ることもなければ大した知識や経験があるわけでもなく、ただ自転車で旅を楽しんでいるだけの人間なので、多くの自転車乗りの方に向けたら釈迦に説法、こうしたほうがいいよとかアドバイスしたりなんてことは絶対ないのですが、自転車乗りの知人から「下ハンをちゃんと使って下りたい」といわれた折、携帯六角を取り出し、ハンドルを下向きにしてあげたことがあります。ふだんなら「出入りをしている自転車屋さんにポジションを見てもらって云々……」などというところですが、その方が僕の小説や紀行文やブログのファンだった方で(そんな人おるんや)、楽しそう自転車で出かけてみたいと衝動的にロードバイクを買ってしまった経緯があり、まあある意味僕にも責任があるのかなと(苦笑)、この内容と同じ説明をして、納得してもらったうえでセッティングを変えました。
 結果、「遠くなくなって怖くなくなった」「下ハンでもカーブのコントロールができるようになった」などいってくれたのですが、いちばん大きかったのが、「走っているさいちゅうにブラケットから下ハンに握り替えができる」ってことだそうです。
 それまで走行中に握り替えができなかったゆえ、下りに突入する前に握り替えられなかった場合、それこそ下り坂が終る下までブラケット部を握って走りきらなきゃならなかったとか。「それはきびしいでしょう?」「そりゃもちろん」──セッティングを変えて下った坂を終えて、一緒に笑いました。

 

 僕のこのポイントは数ある下ハン克服ポイントのひとつにすぎないと思いますが、ぜひいろいろ試して下り坂を下ハンで下ってみてください。