自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

B級グルメや観光戦略

 僕はいわゆる「定食屋」や「洋食屋」が好きで、旅先でもそういうたぐいの店に入る。生姜焼きやチキンカツ、オムライスやハンバーグのような定番、ときに地のものに興味がわけばそのメニューを頼むこともある。でも定番系がけっこう好き。テレ東の路線バスシリーズで、蛭子さんがどこに行っても地のものを選ばずにかつ丼を食べるものだから、太川陽介にいつもつっこまれていたけれど、意外に蛭子さん派だったりするかもしれない。それに定番系であってもその地の独特のものだったりする場合も大いにあるしね。

 ソースかつ丼四日市のトンテキなんてそのたぐいだと思うのだけど、B級グルメ選手権みたいのに出て上位に入ったりすると、やっぱり定番でありながらその地独自に根付いた味だし、わかるよなあなどと思う。じっさい美味しいと思うし、福井のソースかつ丼会津ソースかつ丼など別のアプローチで、僕からすると甲乙つけるものじゃなくもう別の食事だったりするんだけど。大くくりは大定番の「かつ丼」、しかしながらその実は福井のかつ丼であり、会津のかつ丼である、というね。


 だからB級グルメで名の挙がっていたその地その地の食事に興味もあったし、気になれば心にとめておいた。いつか行ったら食べてみようかなって。

 でも最近のB級グルメ選手権的なものって、変わったよね。

 古くからその地で食べられてた独自の定番メニューだったものが、その地その地で新たに生み出された、「創作B級グルメ」になってしまった気がする。

 そりゃそうだ。そういう大会が毎年とか、主催が違ってのべで見ると年に何回とか、よく知らないけどそんなふうに回を重ねれば、出尽くすよね。大会だから勝ちたい、上位になりたいわけで、あれでだめだったんだからちょっとひねろうとか、もっと個性的なものを生み出そうとか、そういうものになってくるのは必然だ。

 もちろんそれが美味しくて、で、幾多の苦労を重ねたすえにできあがったものだってのもわかるんだけど。


 町おこしの一環でもあるのがわかる。その地でとれる地産のものをもっとその地で出す食事にも生かそうよって発想だろうし、それは自然だ。でも、なんかなあ馴染めなくて。

 たぶん根付いてないからだろうね、その地に。

 最近はB級グルメ選手権で耳にするメニューよりも、TVのケンミンショーで見る食べものに関心がいく。あの番組で扱う食事って、その地で食べられているもの。地元の人が食べ、話を聞けばむかしっからこれだ、といい、ほかの県にこれないのぉ? と驚き、そういった誰もが食べているその地のものだから興味がわくんだろうね。ラーメン、丼もの、定食、そばうどん、餃子……そんな定番のものも多いし。

 この前読んでいた、俳優・六角精児氏のエッセイ、“六角精児「呑み鉄」の旅”のなかで、氏が、

「まずその地の人たちで食べなきゃ。その地の人が食べてないものを食べようとは思わない」

 ──的なことを書いていた(違ったかな)。

 本当、そうだよなあと思った。



 観光政策もそれに似た、うわべのものと感じてしまうことが多くなってきた。とにかく観光客誘致って大命題があるから仕方がないんだろうけど、人に来てもらうためには人に認知してもらわないといけない、知られるためには目立ったアピールを繰り広げなきゃならないって、見どころや立ち寄りどころを事細かに説明したり、いったい年に何回あるの、と思う何とかフェスティバルのようなイベント、そういったものが「恩着せがましい観光」というか、本来「観光する」って能動的であったものが、「観光させられる」っていう受動的なものに思えてしまう政策に映る。

 テレビの旅番組で紹介されたり、バラエティー番組が立ち寄ったり、そういろいろな番組が訪れても見たり食べたり写真を撮ったりするところはみな一緒。昨年の流行ふうに言うなら、ここでこういう写真を撮るとインスタ映えするよ、みたいなね。そういうのあまり得意じゃないなあ。写真を撮る場所くらい自分で探すよ。別にいい写真が撮れなくても、自分の心に残った場所を写しておきたいだけだから。


 伊豆の某地で食べたわさびソフトはスジャータ製で、あれはカートリッジを入れれば一個ぶんのソフトクリームが作れるもの。伊豆はわさびソフトで名を馳せるけど、そのソフトクリームは地産のわさびで作ったわさびソフトじゃなく、スジャータの工場で作られたやつだからね。日光国定公園の某所でも同じわさびソフトがあった。


「そりゃ、どこの田舎だって観光客に来てもらいたいだろうし、発展させたいだろうけど、無理に街を起こさなくてもいいと思います。“街おこし”もいいけれど、観光客目当てのギラギラした看板や店が急に増え、その実さして人気のないまま味気なくなった光景を、僕はたくさん見てきました。」

 先の六角精児氏の本ではそんな内容にも触れていた。

 そうなのかもしれないね。