自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

避暑あづみの(Aug-2019)

 大糸線信濃大町駅を降りた。午前11時前。
 18きっぷだけで来た。東武線最寄駅からじゃ間に合わないから、JR武蔵野線南越谷駅まで自転車で走ったうえで。そこから輪行。移動に6時間近く費やしたってことだ。
 ある意味驚く。ここまで18きっぷで(つまり普通列車の乗り継ぎだけで)来られるんだってこと。僕は大糸線っていう響きに遠い日本の地を馳せる。そうそう訪れるところじゃない──鉄道として大糸線に乗ったのだって二度目だ。
 かなりむかし、40系だとかモハ51形だとかいう旧型国電が、京浜東北線と同じスカイブルーに塗られ、この地を走る写真を見たことがある。そのイメージが僕の距離感をさらに狂わせた。もともと旧型国電などほとんど見たことがないし、京浜東北線のスカイブルーが他の車両に塗られているなんて現実的なものじゃなかった。想像も及ばないゆえ、遠い地だという印象が勝手にすりこまれていた。
 と同時に18きっぷでこんなところまで来る自分にも驚きだ。鉄道に乗ることを目的とした趣味人を除けば、他に目的を持った者が18きっぷで乗り継ぎやってくる場所じゃない。目的に対する時間がかかり過ぎている。

 

 あづみのという地もまた、僕にとって遠い響きだ。よく知らないからだ。多少なり知ることが増えてくれば、感覚的距離は縮まるのに。知っていることがなく、名前から導き出される僕のなかの勝手な印象──あえていうなら、リゾート、なんだか高そう、とっつきにくそう。そんなふうに思っていたふし、、はある。
 台風10号が通過し、台風一過の日差しと熱い風が全国にもたらしたのは、最大級の酷暑だった。もうほぼお昼時という大町もまた、じりじりとした日差しに照りつけられていた。
 僕はまず仁科三湖(木崎湖、中綱湖、青木湖)をきれいに両岸、まわれるように出発した。水辺が近付く左側を見ながら走るコースを設定したら、それは枝豆のさや、、のようなルートになった。残念ながら中綱湖だけは西岸を通る道がなく、そこだけ行きも帰りも同じルートになった。

 

(本日のルート)

 



 

 ルートの北限を青木湖としていたので、ここまで走ってきてランチにすることにした。出発が遅かったから、ちょっと走ればもうお昼だ。
 湖岸のカフェに入った。
 カフェは古い建物を引き取って始めたもののようだ。作家だか画家だかの別荘だったといっていた。窓という窓をすべて開け、デッキやテラスにもテーブルを置いていた。当然だけど冷房などしていない。でもなんだか涼しいんだこれが。いや暑くないわけじゃない。でもおそらく東京は今日、倒れるような一日になっているに違いない。
 冷房なしで過ごせる気候が気持いい。これが避暑か、そう思う。

 

 ここまで自転車が多かった。こんなに走っているのかって意外だった。
 すでに5台はすれ違い、何台かに抜かれた。
 そういえばこの地域で行われる自転車ライドイベントはいつだって大盛況で、回を重ねるごとに規模が増していってるって聞く。そうなれば何千人規模だから、あづみのを走る人と5人くらいすれ違うのは自然なことなのかもしれない。
 サンドイッチを食べ、時間をかけてコーヒーを飲んだ。

 

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 午後は、午前中走った湖岸とは反対側を南下した。北上してきたルートは大糸線沿い、国道148号といったルートだから、いわば表。その対岸は、裏。湖岸の道は木陰が多くて風が涼しい。
 湖畔じゃないルートを行くときもできるだけさっき通ったところは通らないようにした。同じ道を二度たどるというのも今ひとつだし、国道148号は景色もさえなかった。交通量も多くて流れも速いから、景色をよく見られなかったのかもしれない。往復とも、どうしたって国道を通らなくちゃならないところだけあきらめ、それから僕は脇の道へ分け入って行った。
 あるところは未舗装のダブルトラックだった。まさかここで未舗装とは思っていなかったけど、悪くもなかった。車の音も聞こえない、静かな場所。車も人も通る気配がないから、僕は自転車を降りて放り出し、そこの地べたに座ってみる。草のにおいってほどじゃないけど。
 やっぱり、暑いなかにも涼しい気がした。
 ──あ、なにか来る。
 踏切があることさえ気づかなかった。突然鳴り出した警報機の音で初めてわかった。

 

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 道はまっすぐ、緩やかに下っていた。仁科三湖のいちばん南、木崎湖へ飛び込んでいくようだった。

 

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