自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

空想自転車旅行 - 頸城の里、山

 こんな折、自転車にも長いこと乗らずに過ごしているから(乗り方も忘れちゃってるかも)、思い描くだけでも楽しめたらって空想旅行に出てみることにした。想像はときに現実を凌駕する。地図と情報で広がる無限世界。
 今回は憧れの新潟県頸城くびき地方。それじゃ出かけましょう。

 

 

 水田、稲作は日本全国、どこでも見られる日常的光景。もちろん僕の住む埼玉県にだってたくさんあるし、さまざまな土地に出かけても水田は当たり前に存在する。
 それこそ子供の頃から目にして、これだけ馴染んできた水田風景も、米どころ新潟となると違って見える。せまりくる力強さを感じるというか、圧倒的なのだ。風景として目に飛び込んでくる広さ(それは物理的な稲作の面積ももちろん含め)もあるし、ニッポンの代表とされる米どころという先入観もあるかもしれない。でもじっさいに僕がその水田風景を見て力負けしそうに思えたのは事実だし、みなぎるソウルがまるでビートを刻みながら体の芯へ響いてくる、そんな音楽が聞こえるようだった。
 それが僕の見た米どころ新潟の水田風景だった。

 

 ただ僕がそうやって見てきた風景は、魚沼や十日町のものばかりだ。魚野川に沿う湯沢、石打、塩沢、大和、六日町から小出へ、あるいは信濃川に沿う十日町から川口への風景。
 もっと奥へ──。そう考えた。いや前々から関心があった。頸城くびき──同じ上越地方ながらより西部の地域。そこへ行ってみたい。

 

 早速地図を手に取った。

 

(ルート)

 

  これをもとに、タイムテーブルを作成。

 

輪行・ゆき】

大宮539--(高崎線・高崎行)--655高崎
高崎737--(上越新幹線たにがわ401号・越後湯沢行)--806越後湯沢
越後湯沢820--(北越急行ほくほく線犀潟行)--852十日町

 

 本当は上越国境越えは普通列車にしたかった。高崎を702に出て水上、越後湯沢と乗り継ぐ列車だ。じっさい魚沼地区へ行くときに使う僕の定番乗り継ぎでもある。が、これで行くと十日町到着が940になってしまう。この時間スタートもよくあるといえばよくあるのだけど、距離や標高、それから宿泊地が見つけられなかったゆえ組んだのが日帰りの行程。だからできるだけ早く着きたくて、新幹線を挟んだ。たにがわ401号は朝2本目の列車ながら、始発のとき301号でもほくほく線が同じ列車になるので、高崎線下り始発で高崎まで先行して乗り継ぐ。30分以上の時間があるので朝食を取ってもいい。高崎駅のホームとコンコースには駅そばがあり、どちらも7時に始まる。

 

【サイクリング①】

十日町駅920--(市道)--945姿大橋
姿大橋955--(県49、国353)--1020宮中(国道市道分岐)
宮中1020--(市道、林道)--1145赤倉橋

 十日町を出たら信濃川とJR飯山線に挟まれながら走り、姿大橋で信濃川を渡る。姿大橋で10分の時間を置いたのは、コンビニがここ一帯にしかないからで、その買い物を見込んで。
 信濃川対岸から眺める十日町の風景はいい。一昨年湯田中からこの十日町まで走ったときに魅了された。とはいうものの、それをまた楽しむためというよりは頸城の山へ入っていくためのアプローチ、エピローグだ。
 少しだけ国道353号を走って市道に入る。最終的には林道堀之内線に入るので、初めからそこに向かってもいい。ここは選択肢。気分でも、さらに調べた関心でも、どちらを選んでもいい。
 坂は、急だと思う。数値上平均で7から8%の勾配が出ている。平均でそれだけだということはじっさい10%以上の勾配が多数現れるだろう。あせらない。ゆっくり時間を取って、止まりながら。それに市道には未舗装路もあるようだ。市道から林道に入り、東川を渡る赤倉橋まで9キロ、4キロ半上って4キロ半下る。自分の力に不安もあるし行程の安全を見て1時間25分設けた。
 おそらく初夏から夏だろう。全体の行程から考えて、日が長い時季じゃないと。
 だから市道から林道で走る頸城山塊は緑に覆われているに違いない。原っぱだったり木々は枝に葉を茂らせて森を作り上げているだろう。田んぼはあるかな。さすがにこのあたりは山が深いかな。

 

【サイクリング②】

赤倉橋1145--(県427、市道、県道358)--1305松之山温泉

 

 松之山のでこぼこした地形の、おそらく稜線に近いところを行く。トンネルで山塊を横切っていく国道353号をオーバークロスする。もしかしたらトンネルを出た国道の直線を、緑の眼下に望めるかもしれない。見えたなら、美しい道だってきっとつぶやくんだろう。
 道端に『家の記憶』や『最後の教室』という建物を見つけた。この里山の山中にあって釣り合いが感じられない。なぜならこれ大地の芸術祭で制作された作品らしい。芸術作品が突然現れる違和感がここにある、そうきっと。そういえば前述の十日町に立ち寄ったときも、なんとかいう芸術祭の準備をしていた。双方の作品とも現在は公開されていないよう。もう見られないのか、時期が来れば開けるのか、わからない。あえてここでの時間は置かなかった。時間に余裕が生まれていれば、そのうえで関心が湧けば、立ち寄るかもしれない。
 並んで、カフェもあった。どんなカフェかまで突き止められなかった。カフェで想定時刻は1220。昼食を取ってもいい時間だけど、行程に時刻をすべてあてはめ終えたとき、あきらめた。食事を取る余裕はなさそうだった。朝コンビニでおにぎりやらサンドイッチやら買い込んで、道で食べるしかないだろうな。でも本当は座ってきちんと食事した方が疲れもためにくいんだよな、僕の場合。今まで何度もそれを経験してわかっているのに。もう少しでも自転車が速く走れれば。でもそこは走る前から悔やんでも仕方ない。じっさいに走って、そのときに30分なりそれ以上の余裕が生まれていれば立ち寄ろう。
 山稜を行ったり来たりするものだから、細かな上り下りを繰り返す。そして向こう側へ下って松之山温泉に着く。

 

 名前は知っている。でもそれ以外知らない。どんな温泉なのか、どんな温泉街なのか。どんな旅館が並んでいるのか。──興味は半分くらいある。でも今回のルートの先々の行程もあり、5分の時間しか置かなかった。缶コーヒーを飲む程度だ。
 もし温泉への興味が上回れば、あるいは全体行程が押していたり遅れていれば、道端の食事じゃ足らず、座ってしっかり食事を取ったなら、この松之山温泉街をめぐり、温泉に入ってみてもいいかもしれない。このルートはここで放棄して、そのときはほくほく線まつだい駅へ向かおう。

 

【サイクリング③】

松之山温泉1310--(市道か林道か)--1345狐塚の棚田
狐塚の棚田1350--(市道か林道か)--1425大厳寺 だいごんじ牧場
大厳寺牧場1505--(市道か林道か)--1615深坂みさか
深坂峠1620--(市道か林道か)--1640野々海ののみ

 

  道が市道なのか林道なのか調べられていない。深坂峠に到達する道はどうやら「林道野々見天水越線」ではないかというのがおぼろげにある程度。
 風景の壮大さで、ルート中いちばん期待している区間である。
 まず松之山温泉から大厳寺までの区間は、川沿いの、しかしながら急峻な地形のなかに「田」の地図記号がこれでもかと描かれているのだ。等高線の狭い密度からするととうてい信じられないのだけど、地図は間違いなく水田を表している。さらに「狐塚の棚田」という文字も別の地図で見た。僕は初めて魚沼スカイラインに入って行ったとき、その急な上り坂の途中どこまでも水田が続いていたことに驚愕したのだけど、それに等しい驚きを覚えられるんじゃないかって地図で感じた。
 大厳寺から深坂峠への山は、日本有数のブナの森との情報を得た。ここも地図を見ると大厳寺牧場からしばらくは針葉樹林の記号が並ぶが、並行する川の源流を過ぎるあたりから広葉樹林に変わる。これがブナの森なんじゃないだろうか。


 僕が「ここは良いんじゃないか」と感じるところは、なんのことはない、あくまで地図から感じた直感だ。小説の行間を読み取るように、地図からその向こうの風景を想像し、道のキャラクタリスティックを感じ取る。


 大厳寺で時間を設けたのは、キャンプ場に希望館というレストランを見つけたから。多少なりの情報はあり、座って軽食を取ることができそうなので、立ち寄れる時間を割いた。
 しかしそれもあって、メインのピークが午後4時半になってしまうとは……。

 

【サイクリング④】

野々海峠1645--(市道か林道か、のちに県348)--1720菖蒲
菖蒲1800--(県229)--1820大島
大島1820--(県13)--1835ほくほく大島駅

 

 下る、下る。一日の上りを取り返すかのごとく、下る。
 菖蒲高原を抜けさらに下ると菖蒲の集落にたどり着く。ここにようやく、ちゃんとやっていそうな、、、、、、、、、、、食堂を見つけた。最初に見つけたとき、この菖蒲で遅い昼食にしようと考えた。ちゃんと座ってちゃんと食べる食事にしようと考えた。
「午後五時?」
 もはや何の食事なのかさえよくわからなくなった。決めた手前、なんとなく40分の食事(休憩?)時間を置いたままにした。

 

 ほくほく大島の駅に戻ってくるのが午後6時半を過ぎてしまった。
 ほくほく大島の駅の手前に「日本一うまいトコロテン」というお店があった。TVでもよく紹介されることがあるのでご存じの方もいると思う。しかし残念ながら店の営業時間は午後6時まで。
 ──もっとも夕刻になって菖蒲で食事を取るのかどうかももはや怪しいし、菖蒲を通過すればところてんも間に合うかもしれない。
 さすがに日が長い季節とはいっても、山あいだ、町はもう暗いに違いない。山間部独特の日の暮れゆき方。空だけが明るみを残して。

 

輪行・かえり】

ほくほく大島1912--(北越急行ほくほく線・六日町行)--1943六日町
六日町1955--(上越線・越後湯沢行)--2016越後湯沢
越後湯沢2025--(上越新幹線とき346号・東京行)--2053高崎
高崎2105--(高崎線国府津行)--2224大宮

 

 帰りも普通列車だけで帰ってくることは叶わなかった。いや、むしろこんな時間になっても当日中に帰ってこられる新幹線の速さと偉大さを実感した。もっとも六日町まで戻ってくればホテルくらいありそうな気がするから、そのあたりで一泊、翌日魚沼周辺を走ってから帰ってもいいかもしれない。
 とにかく頸城の里、頸城の山をよく走りました。おつかれさま。

 

 

※ サイクリングのタイムテーブルは、僕のふだんからのおおよそのペース、力量をもとに設定しています。多くの自転車乗りの方であれば、このルートを数時間早く走り切れるかと思います。半日で走り終えるかもしれません。

※ 作成したルートはAllTrailsのページからダウンロードできるようになっていますが、GPSies時代と変わってアカウント登録しないとダウンロードはできないようです。ルートを手に入れたい場合は恐れ入りますがアカウント登録してみてください。

※ 松之山温泉から深坂峠への市道あるいは林道ですが、現在通行止めとの情報も得ています。ただ詳細調査していないため正確なところはわかりません。僕ももしこのルートに行くとなれば詳細に調べますが、関心がありましたら道路情報はご自身で確認してください。もちろん、他の道路も含めて。

※ ブナの森は熊の好む生息域でもあります。お互い気をつけましょう。

 

 

 それでは、また自転車に自由に乗れる日が来ることを楽しみにして。