自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

茨城県西・県南と筑波山(Feb-2020)

 ガストでモーニングを食べた。春日部で朝からやっている喫茶店って、西口からずいぶん行ったところのコメダと星乃くらいで、東口には皆無だった。唯一春日部市場内に喫茶店があるのだけど日曜日はお休みらしく、やっと見つけたのが国道沿いのガストだった。
 トーストにマーガリンを塗り、地図を見ながら食べる。下総利根大橋を渡ろうと思う。

 

 下総利根大橋は利根川に架かる橋だ。橋の数が少ない利根川は──だいたい10キロおきくらいしかない──、川を越えるため橋に車が集まってくるので混雑しているところが多い。そんななかでこの下総利根大橋はいつだってガラガラだった。道が幹線道路と直接つながっているわけじゃなくわかりにくい場所であることと、有料道路であることが要因だと思う。人と会話するときは下総利根有料と呼ぶことが多かった。
 その閑古鳥有料橋が今年1月、無料開放された。

www.i-road.or.jp

 

 渡ってみよう。

 

(本日のマップ)

 

 

 ガストでペイペイできるようになったことに喜び、支払いを済ませて店を出た。東京大環状こと国道16号を越え、田園の中の細道を走った。縦横まっすぐで碁盤の目状に走る道の風景は遠くまで抜けていた。だだっ広い関東平野、田も畑もまだ始まらないこの季節は茶褐色一辺倒で、殺風景なんだけど冬の澄んだ空気で景色の奥行きと深みが果てしなかった。そんな田畑も春の準備は少しずつ始まっていて、あちこちでトラクターが出て、土を耕し、ならしていた。穏やかな日差しのもとで少しずつ気温が上がってきたので、僕は道の真ん中で止まり、ウィンドブレーカーを脱いだ。
 春日部から庄和庄和町も現在は春日部市)にかけての田園の中の道を直線的に貫いた。
 利根川の前にまず江戸川を渡らなきゃいけない。その土手が見えてくる。土手へ上がるとサイクリングロードが整備されている。江戸川は、利根川との分流箇所から河口の葛西臨海公園までサイクリングロードが整備されているので、区間利用で走ってもよし、全線たっぷり走り込んでもよしという環境が出来上がっている。もっというと利根川にもサイクリングロードが整備され、支流の渡良瀬川にも同様にサイクリングロードがあるので、つなげば100キロ以上どころか200キロにおよぶサイクリングロードを走ることができる。そんな場所だから、この日も多くの自転車が走り、橋のたもとに集い談笑していた。
 宝珠花ほうしゅばな橋で江戸川を渡る。
 この橋も下総利根大橋同様いささかわかりにくい場所に架かっていて、江戸川もまた混んでいる橋が多いなかでここはいつも空いている。わかりにくくてつながりが悪いのだ。
 つまり宝珠花橋から下総利根大橋へ向かうというのは、それだけでマイナーな、ちょっとばかり地元スペシャルなルートってことだ。僕もツーリングマップルだけで走っていた頃はさんざん道に迷ってた。
 宝珠花橋を渡って千葉県。関宿せきやど町は現在千葉県野田市利根川と江戸川とに挟まれた細く長い土地で、ここを横切るようにたどって下総利根大橋に出る。橋の上流側につけられた歩道で渡る。
「無料開放」と書かれた立て看板がある以外、特に変わった風景でもなかった。むかしのままだ。橋は弓なりの坂を上り、頂点に達すると真正面に筑波山を望んだ。遠いのによく見える。

 

 茨城県道路公社の管理のため、料金所は茨城県側にある。料金所は撤去工事が始まっているものの、まだ開放一か月ばかり、ほぼ原形で残っていた。
 この橋を渡るのに自転車は20円かかった。自転車は歩道の途中にある料金投入箱にお金を入れる。貯金箱のようなそれは、投入口もコイン一枚ずつしか入れられず、手袋をしている季節は特に煩わしかった。それが今、投入口には「無料」と書かれた紙が貼ってある。もうお金を入れることもない。やがて料金所同様、この料金投入箱も撤去されてしまうんだろう。

 

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 さてどうするか、と思うこともなかった。橋を下ってなんとなくそのまま道なりに走った。道にはまず「ライブライン」という名が付き、しばらく行くと「アグリロード」という名になった。どちらも広域農道だった。道は整備され、広く高規格な舗装が施されていた。交通量も多くなく、怖がらずに走ることができた。でもそれは今日が日曜日だからということもわかっていた。道は周辺の国道県道含め、ここはダンプや大型トラックの多いところなのだ。きっとこの道だってそうだ。

 

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 鬼怒川を渡り、小貝川を渡る。茨城の県西から県南にかけて、縦すじに流れる大河川が多く、これを越えていくためには橋を探さなくちゃならない。川がなければ直線的に進路を取ることができるのに、これらの河川のためにいちいち右に左にと道を選択する。
 大河川といいつつ、このふたついずれも利根川の支流である。

 

 風が吹き出していることに気づいた。
 いや気づくというレベルじゃない、相当強い風だ。北西あるいは西北西の風か。なんとなく北東へ向かっているから、斜め後ろから吹く追い風基調の横風を感じる。真後ろから吹かれたときに風に乗っかるように走ってみた。すると無風と感じるのがおよそ時速30キロ。時速36キロが風速10メートルだから、とんでもない風が吹いているんだ。朝の穏やかな空気がまるで嘘みたいだ。
 橋を探して小貝川の土手のサイクリングロードを北上した時など、真横から吹き付ける風に何度も流され、狭い道を外されそうになった。
 やれやれ、どれだけこの風に耐えなくちゃならないのか。
 ──というか、どこへ向かっているのだ? 僕は。

 

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 大きな川を越えるたびに筑波山は大きく、よりはっきり目に入るようになってきた。
 僕はつくば市の北部工業団地を走っていた。
 一区画がひときわ大きな工場群が連なっている。つくば市はみんなこうだ。南に下ればさまざまな研究施設が、これもまた大きな区画で連なっている。
 ここから南に進路を変え、研究施設群を抜ければつくばエクスプレスの駅に出られる。しかしながらこの選択はしなかった。この区画のなかを貫く道は大きく、車も高い速度で走っている。その中を走るって考えたら一瞬で冷めた。それらは路肩さえろくにない道ばかりなのだ。つくばの市街地の道を走りたくない。
 そんなわけで僕は進路を変えず、そのまま桜川を渡った。
 いよいよ筑波山が近づいてきた。中腹の筑波山神社の鳥居さえ、肉眼ではっきり見えるほどに。

 

 

 石岡市に入り、小桜川に沿っていた。かつての八郷町にあたるここの風景は変わることがなかった。どこか懐かしくて落ち着く風景。心が風のない湖のように静まる。しばらくぶりだったけど僕はまたこの風景を見ることができた。
 筑波のすそ野に広がる田園を中心とした風景は、立ち止まっているとすうっと体のなかに入り込んでくる。

 

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 恋瀬川に沿ってサイクリングロードが用意されている。これを下って僕は常磐線、高浜の駅に向かった。
 風が容赦なくて、吹きさらしは恐ろしかった。追い風が楽にさせてくれるはずなのに、ハンドルを押さえバランスを取ることに必死だった。
 それでも走っているうちに常磐線の長いガーダー橋が見えてきた。
 恋瀬川の川幅が広がり、空も広くなった。ガーダー橋の向こうに霞ケ浦が広がっているのが、見えるわけでもないのに空のようすからわかった。
 そこへ、ちょうど、常磐線普通列車が橋を渡っていった。

 

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