自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

クロモリ自転車に乗り始めて一年がたった(やっぱりClarisで組んだ自転車)

 およそ去年の今ごろだったと思う。僕が乗るブルーのクロモリが手もとに来たのが。僕は記念日とかすぐに忘れてしまうきわめて評判が悪い(特に女性から)タイプなので、それが何月何日だったのかもう覚えていないけど、確か9月の終りとか10月のはじめとかだった。
 それからなんだかんだと乗り続けている。最初なんてどうなることかと思った。試しにと出かけた桐生からの三境林道は全然上れなくて、何度も休むし、それを「これって自転車のせい? 重さゆえ?」と思ったりした。とにかくその日は散々で、そのあとの細尾峠もまったく上れず、あまりに止まりすぎてこれでは峠に着けないんじゃないかって本気で思うほどだった。そして細尾峠の下り、折れ枝や落石が散乱する下りで一本の枝に乗りあげて転倒、ああこれって転ぶんだと思う頃には新品の自転車ごと地面に叩きつけられ滑ってて、ヘルメットは割れるわメガネは曲がるわ、そんな初乗りの一日だった。上手く付き合えるんだろうかって不安さえ抱いた。
 でもこうして乗っているんだから、上手く付き合っているんだろう。
 つくづく違いがわからないんだなって思う。
 みんな、どこのブログを見ても自転車本体からパーツまで、新しくした途端にその詳細レベルまで、違いを感じ分析している。レビューという記事が上がり、どこが良くてどこが悪いか、結果どうなのか、事細かに感じ取っているのがわかる(はったりでなければ)。
 それが僕には正直、全然わからない。

 

 それまで乗っていたGIOSのグレスというカーボンフレームと比べてどうなんだといわれると答えに窮してしまう。ここの場で僕がいっさいの自転車やパーツの論評を書かないのは、そういうためである。
 重い、ということはなんとなくわかる。それくらいかな感じるのは。乗りやすさは、乗りにくいようにも思うし乗りやすく感じる部分もある。坂が以前よりつらいと思うのは、重さのせいなのかな。たとえば良く聞く、クロモリなら長い距離乗っても疲れないとか、バネ感があるとか、申し訳ないのだけどひとつもわからない。疲れるのは疲れる気がする。ふつうに。
 だからまわりのツイートやブログなどで、「この自転車にして本当によかった」「このパーツは効果絶大だ」などと見るにつけて、羨ましくて仕方がない。僕もそうやっていいたいし、ちょっと自慢だってしたい。だって新しい自転車を手にしたのだから。すごい、これ買って自分の自転車人生が変わったんだよって、そうやっていってみたい。でも僕はカーボンからクロモリに乗り換えて、何ひとつ変わった気がしない、むしろ坂がつらくなったか、でもそれは自分の体調かもしれないし、自転車ゆえなのかさえ答えを導き出せない。自分の鈍感ぶりが恨めしい……。
 そんなわけで、僕にとって、自転車を乗り換えた結果、変わったところは特にない、が正直なところです。
 じゃあこの自転車好きですか? と聞かれれば、好きです、大好きと答える。だって自転車に好きで乗っているのだから。僕が今乗る自転車はこれしかないのだから、それは大好きだよ。
 乗っていて楽しい。とても。とっても楽しい。

 

 この自転車もまた、シマノクラリスClaris)で組んだ。
 それまで乗っていたカーボンのGIOSも、もともと105で組まれていたコンポを最後はすべてクラリスで組み直した。わざわざ、、、、、である。おそらくこんなことをする人は世界じゅう見てもいないだろう。変速段数が異なるがゆえ、ひとつ変えるとコンポーネント一式交換なのだ。一時費用とはいえそれなりの額になった。ふつうじゃ考えられないよね。お金をかけて、最下級グレードへのダウングレードなのだから。
 でもよかった。クラリスにしたそのときから僕は納得し、とても満足した。僕にとって最適だった。10速も11速もいらない。操作にこたえる俊敏な動作も必要ない。僕はレースはもちろん、イベントにも参加しないしブルベだってやらない。競争する必要も速く走る必要もないのだ。むしろメカニカルな動きにしびれる。部品と部品のかみ合わせとワイヤーと油とが起こす機械的動作。デジタリックな動きはひとつもない。でも精度だって全然悪くない。よく「クラリスやソラじゃまったく決まらないよ、最低でも105じゃないと性能も出ないし整備すらできない」っていう話を聞くけど(僕が行っていた自転車屋の新しいアルバイト君もいったのでびっくりした!)、そんなことまったくない。クラリスだろうがソラだろうが、シマノの説明書通り、きちんとセットアップすれば精度高く動作する。これは僕が保証する。
 そして何より消耗品パーツの安さ。僕にとっての機能が必要十分で、ニーズを満たしてくれているのだから、消耗品は安いに越したことない。チェーンなんて万が一田舎の出先で切れることがあってもママチャリチェーン(通称Zチェーンが寡占)が使える。ママチャリしかやってない自転車屋でも、ホームセンターだって手に入る。8速の魅力。

 

 僕がクロモリのフレームを頼むべく、店をまわろうとしたときに、クラリスで組みたいです、という考えはぜひ伝えたいことだった。それは反面、恐ろしくもあった。「はあ? 何いってるの? ウチの自転車にクラリス付けようってか? なめてんの?」──そう、怒られるんじゃないかと思っていた。意識の高い自転車店であればあるほど、そうなんじゃないかと恐れていた。
 行った店で、それが現実になったらすぐさま頭を下げて、逃げ出そうと決めていた。決めていたものの、店をまわって何軒、心が折れずに続くだろうかって、思ってもいた。
クラリス? いいじゃな~い。だってさ、むかしのジュラに比べたって、全然性能がいいんだから」
 店主はそういった。今のコンポはみんなすごいよびっくりすると。僕が足を運んだ一軒目で、そういわれた。店主は喜んで組もうといった。ポンコツそうな僕を見て、相手を選んでそういっただけかもしれないけど、偶然にも僕は一度も心が折れることなく、その店で自転車を頼んだ。

 

 そうそう、クラリスで組んだ自転車に乗っていて気付くのは、別に誰からもとやかくいわれないこと。ネット上だととかくなにかと、やがてコンポもステップアップしないとですね、くらいから、これじゃフレームがかわいそう、だとか、パーツとは呼べねえ、だとか、アヒャヒャヒャ(2ch)、だとか。でもこんな僕でもこれまで人と一緒に走らせてもらう機会があって、そこでクラリスだからどうだなんて、一度もいわれたことない。幸いなことに。思うほど人は他人の自転車に興味などないのだ。

 

 

 一年で、もうすでに傷だらけだ。
 多くは、輪行で付けた傷だと思う。あとは自転車の写真を撮ろうと不安定に立て、それが風にあおられ大きな音ともに倒れたとか、それから転んだとか。僕は悲しくもよく転ぶので(特に砂利道は滑って転ぶ)、そんなのもあるかもしれない。
 でもさ、傷はいいよね。それだけ乗ったんだなって実感ができるんだから自分で。気が向いたときはクリアラッカーで埋めたりする──同じ色のラッカーがどうしても見つけられないのです──けど、放置しちゃうこともあって、それはもう手の付けられない錆の出た傷になっちゃってる。深く入っちゃった傷はシール貼ったりしてる。
 まめじゃないんで掃除もそれほどしない。だから油の黒い汚れとかも落ちなくなってて、傷も汚れもふくめて、とてもきれいな自転車とはいえない。でもね、この自転車を持って出かけて、いろんな土地を走ることがやっぱり大好きみたい。ずっとそうだったから、ずっと変わらないだろうね。これからもずっと。

 

f:id:nonsugarcafe:20190825091642j:plain

f:id:nonsugarcafe:20190907134506j:plain