自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

荷物を背負うこと、自転車に下げること

 この夏、蔵王を旅してきた。蔵王エコーラインを走って、宮城から山形へ抜けた。
 しかしこの坂が上れなかった。自分でもびっくりするくらい。もう少し何とかなるんじゃないかって、そのときも、あとにも思った。でも、上れなかった。そのときのことはよく覚えてる。体も脚も、心肺もどうにもならなかった。むしろあの状態からよく上ったなって思えた。
 僕のポテンシャル不足だと片づけてしまえば簡単だ。もちろんそれは間違いないし、僕は練習だの鍛錬だのしない(する気もない)。そりゃ上れないでしょ、っていわれればそのとおり。
 でも何かポイントとか糸口があるんじゃないかって思って。

 

 このときのスタートは宮城県、JR東北本線白石駅。標高50メートル。頂点になる刈田峠は標高1600メートル。ほぼ上り一辺倒で1550メートルほど上る。
 これはかつて上った渋峠の、群馬大津駅650メートル、渋峠2150メートルの1500メートル登坂によく似ている。このルートも上り一辺倒だった。
 もちろん楽ではなかったけど(うん、全然楽じゃなかった)、上れないということがなかった。休憩は何度かしたけど、それとは別に続かなくて足をつかなきゃならないってこともなかったし、上り切れないんじゃないかって不安もなかった。絶景に身をゆだねる余裕もあった。
 違うとするなら、荷物。渋峠は日帰りだった。同じように麦草峠に出かけたときも日帰りだった。金精峠も何度か越えているけど、みな日帰り。今回は泊まり。2泊か、あるいは3泊してもいいように荷物を準備していった。それが違いといえば違い。

 

 

 僕の友人のM氏は結局、自転車にほとんど荷物を付けてない。フロントバッグ、トップチューブバッグ、サドルバッグと分散させたり、大容量サドルバッグに荷物をまとめてみたり、いろんな方法を試したうえで、今は何もつけずすべてをリュックに入れて背負っている。M氏はいった。
「だって坂が上れない」
 僕は「荷物を背負うことは体の負担が著しいから、極力自転車に持たせるべきだ」といっていた。M氏は「自転車が重くてどうしようもない」といった。真逆だ。
 考えてみたら、僕の「荷物は自転車に持たせる」という理屈は、かつてからあったその話をそのまま受け継いでいただけだ。いわば鵜呑みにして、受け売りしていた。そういうものだと刷り込まれていたし、よくよく考えてみたり、比較してみたことがあったわけじゃなかった。
 確かに漕いでも漕いでも進まない苦しさがあった。自転車が重くて走ってくれないような。エコーラインのいちばん苦しんだところあたりは、見た感じいろは坂によく似ていると思った(あくまで見た感じ。僕のガーミンは勾配が出ないので)。でもいろは坂だったらギアはもう1枚重いと思う。この日上っていた速度はふだんのいろは坂の半分だった。
 もちろん、背負えば背負ったで、肩や腰の負担が出るし、背中のムレにも悩まされる。

 

 泊まりがけの荷物はいつも悩んで苦労してきた。かつてはシートポストキャリアを付けたこともあった。荷台にはフィットするバッグを載せて。まずシートポストキャリア自体が重かった。アルミ製とはいえ。それに泊まりがけの荷物をつけるから、今から思えばけっこう重量があったと思う。
 それからリュックを背負ったこともあった。自転車は日帰りと同等装備。サドルバッグやツール缶を使って慣れたスタイルで、加えて泊まりに必要な荷物をリュックにまとめて背負っていた。
 そこに大容量サドルバッグが彗星のようにあらわれた。シートポストキャリアもバッグサポーターも不要なバッグは画期的で、登場そのものが刺激的だった。そして僕だけじゃなくロングツアラーにはみな福音のように映った。誰もがこぞって手にし、こぞってレビューした。
 かなりの製造者がこれを手がけている今を見れば、これは間違いなくニーズであった。片手ほどのメーカーがこの形を手掛けたとき、それは大きな需要になった。現状を見れば、みなが望んでいる形であることに間違いない。そして、僕もこれを選んだ。
 でも、かつてリュックを背負って旅をしたときとの比較をしてみたことがなかった。

 

 

 重いな、と思った。
 今回、自転車と荷物をまとめた輪行状態で肩から下げ、間違いなく重たかった。泊まりの荷物を大容量サドルバッグに入れて出かけることは年に何回もないから、ふだんと比べて重いのは当然なんだけど、泊まりの荷造り自体が重いような気がした。ふだんより大容量サドルバッグが重たく感じた。
 これを自転車に下げているんだから重たいよな、と思った。坂を上っている途中にもそれは思ったし、坂を上るのに自転車が重いのは負担だと思った。
 友人M氏はこれがあって、自転車からあらゆるバッグを外してしまった。持っていく荷物をすべてリュックに詰め込み、背中に背負っている。

 

 一理、あるのかもしれないな、僕もそう思った。

 

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