自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

この自転車で砂利道行くんですか?

 僕は自分の自転車をロードバイクと呼ばない。速く走らないし競技もしない。レースはもちろん、ブルベもイベントも出ない。クラブに入ったりチームを組んだりすることもない。人と走ることもあまりないうえ、人と走ることに慣れていない。手信号とか出さないし──。なのでときに僕と一緒に走ろうなどと思ってくださる奇特な方には、違和感や走りづらさを覚えさせているかもしれない。あるいは苛立ちや不快な思いをさせているかもしれない。本当、すみません。置いてってくれていいです。
 とはいうものの僕の自転車を無理にカテゴライズするならばロードバイクにあたるはず。クロモリのフレームにドロップハンドル、クラリスというシマノのロード用8速コンポーネント、700×23cのスリックタイヤ。
 自転車を何に使っているのだと聞かれれば、旅の道具。なぜこれを選んだのと聞かれれば、これでいいやと思ったから。旅には旅に適した自転車ってものがあるとか、いわれたこともあったけど(ランドナー?)、これに乗っている。このパーツどうなのよとか、いわれたこともあったけど(もっといいものつけろと)、これに乗っている。一台で何でもこなそうなんて無理だよとか、いわれたこともあったけど、これに乗っている。クロモリフレームも、クラリスのコンポも、細いふつうのロード用タイヤも、これがいいんだと思って選んでる。

 

 

 僕の旅の行程に、未舗装路が出てくることがある。というか、みずから選んで計画することもある。行きたいと思うそこが砂利道だったら仕方がないからね。行かないか、行くかだけが選択肢。
 この自転車で走れるんですか? と聞かれれば、「まあ、走れます」と答える。じっさいその通りで、未舗装の質にもよるけど、走れるところもある。ロードバイクが未舗装に向かないとされるのは、まっすぐ走れない(ハンドルを取られる)、滑る、パンクするといったあたり。確かにそうだ。

 

 僕の場合どうなのだろう。
 まっすぐ走れない、に関してはそのとおり。細いタイヤは砂利に埋まりやすく、思うようにコントロールできなかったり、意図しないのにハンドルが切れたりする。でもこれに関してはそうだとしかいえないし、そうだと思って走ってる。まっすぐ走れないなかでもまっすぐ走れそうな(コントロールしやすそうな)ラインを選択するようにし、慣れればある程度バランス感覚でどうにかなる気もする。じっさいそうしているから。体幹を鍛えてるんですかっていうのはたぶんノォだと思う。何も鍛錬していないし、おそらく体幹などふつうの方よりも劣る、ひ弱体質だと思う。
 滑る、というのもそのとおり。踏み固められた砂利ならそう滑ることもないけれど、撒いたばかりの砂利や、その粒の大きさや形によっても違う。基本、砂利道というのは滑る。これも頭で滑るものだと思ってる。滑るから、なるべく滑らせないようなトルクを意識したり、滑る前提でつねにリカバリが取れるように気を付けてる。
 パンクに関しては、これは偶然なんだろうけど、僕は未舗装路で一度もしたことがない。耐パンク性の高いタイヤを選び、空気を適正範囲で入れているくらいしか気を付けていることはないけれど。あと、前のふたつ、まっすぐ走れないことと滑ることへの対応に気を付けているとパンクに対しても効果的なのかもしれない。けど、パンクしてしまったことがないから根拠とする比較材料はない。
 そんなわけで、僕は一般的にいうとロードバイクといわれるタイプの自転車で、未舗装路を良く走っている。
 あと、無理だと思ったら即座に下りる。これはこれで大事かもしれない。意外と乗っちゃうけど(笑)。
 まあよく転びます。それはやむを得ないと思うし、これは自転車がうんぬんじゃなく、シクロクロス車だろうが、マウンテンバイクだろうが、同じように転ぶはず。僕の乗り方の問題だと思う。

 

 

  それこそ、グラベルロードに乗ればとか、シクロクロスやマウンテンバイクって話を出されることもあるけれど、これだけ未舗装路にも出かける僕でさえ、未舗装路の総走行距離って全体の1%にも満たないはずだ。0.1%さえ行っていないと思う。日本は現在、9割以上の道路が舗装されている。それだけの道路インフラが整った国にいて、自分自身の走行距離も0.1%にさえ満たないのであれば、照準は当たり前だけど舗装路に向く。未舗装路のことなど気にかけられない。それと僕に2台以上の自転車を持つ力は残念ながらない。あっても身体はひとつしかないから乗ることもできないし、まあ必要ないなと思ってる。1台しか自転車を持てない環境、状況なら、いちばん多く走る舗装路を前提に自転車を選ぶのがセオリーだと思う。そんなわけで、今の自転車に乗っている。

 

 知人で、経路上に未舗装があらわれてしまった場合、即座に降りて担ぐ人がいる。それはそれでありだし、ぶれない思想のうえなのだから彼のやり方を尊重する。彼と走ったときに未舗装があらわれると、僕はどこまでも乗って走り、彼は担いでやってくる。砂利というよりは粘土質の、硬く締まった平滑な路面であってもそうしているようだ。舗装か未舗装かが判断基準で、路面状況は関係ないのだろう。

 

 ところで、未舗装路で乗り続けると自転車が痛むのか、という問題は、残念ながら僕にはわからない。でもプロ選手が過酷な石畳路を砂と埃まみれになりながら走ったりしているのを見ると、自転車って意外と丈夫なんじゃね? と思う(欧州の石畳路は日本のお化粧石畳とは比較にならないほど過酷だし、砂利道なんかよりよほどひどい)。未舗装の振動はロードバイクにNGなんて記事も見ることがあるけど、試験や実績をともなって書かれたものは読んだことがない。机上記事なんだろうと思う。もちろんメーカーも試験結果やその数値を公表しているわけじゃない。
 僕自身は今のクロモリに乗りはじめたのが昨年のことで、それまではカーボンの自転車に乗っていた。最後のカーボンフレームで7年、それ以前も含めて未舗装路にもさんざん行っていたけど特に変わったようすは感じない。もっとも、「フレームは数年すると剛性が落ちてくる」とか「いろんな部分がへたってきた」とかいう変化も何ひとつ感じられない体質だったんで(へたるとか、本当か? と思う面もあったりする)、変わった様子を感じないだけでどこか劣化はしているのかもしれない。でも自転車としてはふつうに走るし、遠乗りしようが泊まりで旅に出ようが何も問題はなかった。
 そんなわけで今はクロモリの自転車を旅の道具に、砂利道も含めて出かけていく。

 

 

 番外編として、未舗装路の記憶に残っているところを挙げてみる。──というか、行ってここはいいところだったなあと思うところで未舗装路だったところというほうが正しいかな。

 

 まずは長野県、こまくさ峠から車坂峠までの湯ノ丸高峰林道。標高2千メートル前後の稜線をゆく道は絶景に次ぐ絶景。5~6キロの砂利道は坂も急で滑りやすくて半分以上押した。景色がいいものだから押していても気にならなかった。下り方向に走ったから乗ることができなかったのだけど、上り方向で走っていたらもしかしたら乗れたかもしれない。そのときの記事はこちら。

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 僕自身、異常なテンションを感じる。ずいぶん舞い上がっていたかもしれない。

 

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  つづいて福島県会津会津高原をゆく国道352号の旧道。旧田島町と旧舘岩村とのあいだに中山峠という峠がある。現道ははるか下を中山トンネルで越えているけれど、旧道は山越えだった。人家が途絶えた七ヶ岳林道との分岐点から先はすでに廃道化していて、この道が未舗装だったのか、崩落や荒廃によって路面がぼろぼろに朽ち果てたのかすらわからないほどだった。紅葉の季節、誰も通ることのない峠は見たこともない赤だった。

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 確か押したのは路盤が崩落して道路の形態を成していなかったところくらいじゃないかと思う。あとは大半乗って走ったような記憶。
 おそらく今はもう通行困難だと思う。いい道だった。

 

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 もうひとつ、千葉県、怒田福野ぬだふくの林道。ひどく荒れた林道だった。キョンとイノシシの被害に悩まされている土地で、獣のにおいがする道だった。ダブルトラックのダートは気分のいい道だったはずだけど、どこかに隠れていそうな獣の気配で、必ずしも昂揚きわまるものじゃなかった。正直怖かった。林道が終るとまるで迷い込んでしまったような平原空間に出た。そこはひどく静かだった。この空間に出た瞬間の印象が忘れられない。

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 素掘りトンネルに出合った。吹き付けさえされていないトンネルは数ある房総の素掘りトンネルでも珍しい部類じゃないだろうか。房総らしい林道だった。

 

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 ──と、僕の行ったところを挙げてはみたものの、ロードバイクで未舗装路に行くことは正直お勧めしません(笑)。向いているかと聞かれれば、やっぱり不向きだと、僕自身も思うもの。