自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

そうだ、アキュムに乗ろう

 またも天気に恵まれないとは。
 伊豆に、行きたかった。暖かいし(想像)。それと、枯れた細野高原の風景を見に行きたいと思った。ルートを引いて、列車の乗り継ぎを調べた。でも、雨になった。唯一低い降水確率と晴マークを出していたtenki.jpさえ、週末が近くなるにつれ悪くなっていった。木曜日にあきらめ、金曜日に納得するように中止決定した。
 落胆しつつ予報を広域に戻していくと、関東地方北部に雨マークがないことを見つけた。栃木県北部から茨城県北部にかけて。すき間から日が差し込むように、ピンポイントで。開いていた別の天気サービスも同様に広域にしてみた。するとやはり同じ予報だ。なぜここだけ? などと思うこともなかった。行くだけ行くかという発想だった。すぐにルートを引いた。テーマもストーリィもない、ふだんの僕ならちょっと待てと自制するところ、とにかく考えもなく道をつないだ。ただ、西から東へ。栃木県北から茨城県北へ。東北本線の宝積寺駅から常磐線日立駅へ引いた。烏山、緒川、山方宿、水府、中里を経て。

 

 すっかり前夜はあわただしくなった。自転車の準備をしつつ、列車の乗り継ぎを調べた。
 宇都宮からの乗り継ぎ、宝積寺まで向かうのに乗る列車が烏山ゆきだった。
 ──そのまま烏山まで乗っちゃうか。そうだ、アキュムになってから乗ってない。
 引いたルートは烏山駅前も通っている。距離23キロの短縮。いや、サイクリングより烏山線に乗る方が魅力。

 

 

 アキュムは烏山線用に造られた、蓄電池電車。もともと非電化の烏山線気動車が走っていた。僕が前回乗ったとき──烏山まで自転車で走って輪行して帰った、もう10年くらい前の話だ、アイボリーに東日本グリーンの帯をまとったキハ40が走っていた。
 僕からしたら10年でさま変わりした。充電バイクならぬ充電電車なんだもの。

 

 上野からの普通電車で終着宇都宮に着くと、引き上げ線に2両のアキュムが準備しているのが見えた。パンタグラフを上げて。電気のない烏山線を走るため、たっぷり充電しているんだろう。
 宇都宮駅でホームを変え、入線を待つ。待っているのは多くが僕と同じ18きっぱーと見た。輪行は僕だけ。そこへ2両編成のステンレス車体が静かに入ってきた。
 乗ってしまえば一見はふつうの電車。ロングシート3扉はJR東日本のローカルで見る車両と変わりない。それでも物珍しげに先頭から後方までカメラを抱えて行き来する乗客。僕もせっかくなので見てまわった。連結部の壁面にあるモニターに、充電しているのか、蓄電池から電気を供給しているのか、表示していた。見ているとほとんど電池から供給している。けっこうすぐに充電されるっぽい。

 

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 時刻どおり発車した。電車と何ら変わることがない。新しい車両だからか驚くほど静か。車輪の音も軽やか。同区間を走る205系よりも数倍、軽快だ。キハ40とは隔世。列車は工業団地の台地を抜け、栃木の大河、鬼怒川を渡った。北関東の晴の予報のとおり、朝の日差しが差し込んだ。
 宝積寺から烏山線に入った。車内は地元の高校生でいっぱいになった。モニターは電池供給を示している。若干加速感が落ちた気がする。それは気のせいなのか、烏山線の路線規格のせいか(レールは軽く、運用最高速度時速65キロ)、蓄電池走行の場合は出力が落ちるのか、よくわからないけど誰も気にするようすもない。重量級のキハに比べたらじゅうぶんな加速感なのはもちろん、205系と比べたってそん色ない。ブレーキをかけると、そこで発生する回生電力でまた蓄電池に充電しているのだとモニターは示していた。

 

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 途中駅で高校生の一群が降りてしまうと、乗客は宇都宮発車時よりも減り、烏山に着くころになるともはや同業さん(18きっぱー)しかいないように見えた。ゆっくり1線しかない片面ホームに進入し、止まった。ホームへ降りて列車を見ると、充電のためにホーム上にだけある架線にパンタグラフを上げていた。パンタグラフを下げているところを見たいと思ったけど、そりゃそうか。途中交換の大金駅ででも一瞬降りて見てみなきゃだめだ。あとは、今日引いてきたコースで自転車で烏山線と並走するか、だ。

 

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 改札口で18きっぷを見せる。ゆっくり、いちばん最後に改札を出たら、もう誰もいなかった。僕は自転車を袋から出して準備を進める。駅前にはタクシーが2台止まっているだけで、ひと気がない。あれだけいた乗客はどこへ行ったのだろう。乗ってきた列車が折り返し出ていくのは1時間半後だ。どこへ行ったのかな。

 

 すっかり最後になった。僕も出発しよう。

 

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