自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

安物ヘルメットでも割れてくれた

 細尾峠──栃木県の日光と足尾を結ぶ、旧国道122号の峠道。
 久しぶりの大転倒だった。
 長い長い峠道──と、日光・足尾の両入口にそう書いてある──の12キロのあいだ、車もバイクも自転車も一台も通らなかった。ひとりの人ともすれ違うことはなかった。

 

 足尾側はそんなことなかったのに、日光側は路面がほぼ全線にわたって濡れていた。車両も人もまず通らない道だから、路面全面を落ち葉が覆い、枯れ枝と落石が無秩序に転がっていた。四輪の車が通れば自然と出来上がるダブルトラック、つまりタイヤ跡などひとつもない。
 気をつけてはいるものの、枯れ枝や石に乗りあげてしまい、落ちて落ち葉や濡れた路面でスリップすることを何度も繰り返してた。

 

 僕はまあ良く転ぶほうかもしれない。
 ロード用のタイヤで砂利道や未舗装路にほいほい入るし、面倒くさいものだからぎりぎりまで乗り続けようとしてよく転ぶ。
 転ぶのはそういう場所がほとんどだから、スピードも出ていない。

 

 でも今回は舗装路、下り坂。
 それだけ荒れた道で、メーターなど見ている場合じゃないから、どのくらいスピードが出ていたかわからないけど、転倒して身体を路面に打つまでが一瞬だった。いつもの未舗装路のときのように、「あっ……転ぶな」から倒れきるまでがスローモーションのように……、なんてことはなかった。グリップのないタイヤを感じるのと叩きつけられた身体を感じるのとが同時。刹那だった。

 

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 頭を打った。転倒で頭を打ったのは、おそらく初めてだ。
 すぐに起き上がった。身体──どこも折れていないことを点検。自転車──走行に支障がないことを点検。あとで痛くなるだろうところが何箇所かあるような気がする。でも止ってられない。
 ここは人などまったく通らない。僕ひとりしかいない。そして熊の生息域。ブレーキワイヤーに下げた鈴の音を絶やしている余裕はない。
 僕はすぐに下り始める。

 

 ヘルメットは右後頭部で割れていた。よかった。
 僕がかぶっていたヘルメットは、オークル。おそらく中国製。
 三千円台で買った。ヘルメットの経年劣化の実態を聞き、高いモデルを奮発して買って、結果心理的にもつい長く使ってしまうということをやめ、安いものを買って、転んでいなくても定期的に買い換えるというスタンスに変えていた。このモデルは違うけど、当時JCF推奨も作る(公認ではないけど)メーカーだったからまあいっかと思った。1年半くらい使った。割れてくれた。
 割れずに硬いまま頑張るようなものはだめだ。ぶつかったそこがへこむだけってやつも。転倒時、頭を守ってはくれない。

 

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 正直どれが安全かなんて僕にはわからない。国産で2万5千円出せばいいのかだってわからない。安物ではやっぱりだめかもしれないし、安物でもこうしてきちんと守ってくれるものもあるかもしれない。転んで、割ってみないとわからない。試す機会もなければ、そんなことを体験する機会もほとんどない。僕自身、ヘルメットをぶつける転倒は、これだけ転んでて初めてだったわけだし。

 

 次、何買おうかなあ。
 同じものでもいいのだけど、最近オークルっていうメーカーは新しいものを出していないみたい。それだと2年前の在庫品だったりするかもしれないしね。
 商品を選ぶのも運、転ぶことも運、そのとき守ってくれるかか守ってくれないかも運。そんなところなのだろうね。