自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

ハンズ・アップ

 自転車とすれ違うとき、挨拶を交わすことはよくある。
 地方に行くほど、旅の色が濃くなるほど、その友好度親密度が増す気がする。
 簡単な会釈、それからこんにちはと声に出して挨拶。旅先だとオートバイとも挨拶を交わすこともある。サムズ・アップ、オートバイ乗り同士だとそれがごく自然なのかな。

 

 お盆休み週の東北、たくさんの自転車乗りとすれ違った。場所が場所だけに人口がそう多いとも思えない。地元のサイクリストかもしれないし、あるいは相手も旅人かもしれない。
 互いに大きく会釈をした。国道の反対車線まで届くようにこんにちはと声をかけあった。内向的だし日常では挨拶って面倒だなって思ったりする性格だから、こういう自分の行動は自分で不思議だ。
 秋田県から青森県に入る。オートバイのグループがサムズ・アップして追い越して行った。僕は手を挙げた。ミラーに見えているかな。

 

 ──と、反対車線をすれ違った自転車が、まるで僕がオートバイのミラーに向かってしたように、手を挙げた。
 僕は、こんにちはぁといった。
 自転車が後ろに消え去ったあと、あっ僕も手を挙げればよかった、などと思った。
 そういう挨拶ってし慣れていなかったから、とっさにはできなかった。

 

 それから走っていると、何人もの自転車乗りが手を挙げるのだ。むしろこれが定番なのだというように。
 それが東北での定番なのか、それとも旅人の挨拶として定着してきているのか、わからなかったけど、やがてそのほうが大半になった。会釈だけなんてなかった。
 それに気づくと、オートバイもそうやってくる人がいることがわかった。サムズ・アップじゃなくてハンズ・アップ。

 

 ずいぶん遠くから、気づくかい? 気づくよね? といわんばかりに、挙げた手を大きく振る人がいた。僕も手を挙げ、振り返した。この性格だから、ちょっとだけ恥ずかしかった。でも、いい。なんかいい。

 

 

 土地、場所、状況によっていろいろな違いがある。
 先週、もう5年以上ぶりに出かけた荒川サイクリングロードは、誰も挨拶などしないし(多すぎてしてられないってのはあると思う)、奥多摩の国道で、無言無音でひじが当たりそうな脇を抜いていった集団には、声などかけられなさそうだった(というかびっくりして転びそうになったのでそれどころじゃなかったけど)。
 だからといって、そういう場でしれ~っと走っているときに、不意打ちを食らうように挨拶されると、準備ができていないから返せないんだよね。なんだか無視してしまったようで、悪い気がしてしまう。

 

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