自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

2018夏・東北/Day0檜原湖サイクリング&キャンプ(Aug-2018)

 目の前にニンジンをぶら下げられると、かえって手を出せないものだ。
 今年の仕事はいわゆるお盆週間の一週間がまるまる休みになった。長い休みに慣れていないってこともないはずだけど、さてどうしたものかと悩むばかりになった。旅に行くんだと家族に早々から宣言しているわりに、計画すら進まないのだから、まだ決めてもないの? とあきれられる始末だった。どちらかといえば、「どこに行ったって混んでいるこの時期に出かけることの意味だ」などと負の思想がスパイラルしていた。これまで周囲もお盆だからと休むことも多くはなかったから、僕自身お盆週間よりも他の週に休みを充てることが多かった。月が替わって9月になってからのヴァケイションもあった。それが不自然じゃなかったから。だからこう、一週間まるまる休みなんだよとなっても、世のお盆休みというある意味『ニッポン狂気週間』(これまで、そう見ていた)に自分の自由な時間を当てはめることに、どうしていいかわからなかった。
 おまけにお天気がよくわからない。週間予報が安定せず、日替わりで変わってしまうのだ。せっかくだったら雨にあいたくない。日帰りのときのように、その日の天気予報を見て行き先を変えるような器用なことはできないから、お天気が安定しそうな場所を選びたかった。

 

 キャンプに行きたい、と妻がいっていた。今年はアニメの「ゆるキャン△」もあったし、先月は「ヒロシのぼっちキャンプ」という実に興味深いTVプログラムもあって(続編はないんだろうか……)、熱が高まっているようだ。これも何とかしなきゃいけない。
 土日と休んだあと、月曜日からすぐ仕事があるという妻に、
「土曜日キャンプをして、日曜日撤収をしたのち、そのまま旅に出るっていうのはありだろうか」
 と打診してみた。なにしろキャンプでいちばん面倒なのが、帰ってからのあと片付けだ。車から道具を下すことが面倒。僕が好んでキャンプをしない理由に、この準備とあと片付けがある。現地で別れ、僕がひとり自転車で走り始めれば、必然的にあと片付けを押し付けることになる。
「いいんじゃない? 行ってきなよ」
 これがあと片付けまで想定した返事だったかどうかはわからないけど、何度かにわたって勧められ、近くなったころに「まだ計画できてないの?」というものだから、その好意は甘んじて受け入れることにした。

 

 候補はふたつに絞り込んでいた。
 ひとつはよく行く福島県裏磐梯のキャンプ場から東北をめぐる旅。そうはいっても東北は広い。場所を選ばなければ回り切れずに終わってしまう。そこで日本海沿いの笹川流れ鳥海山、秋田から五能線沿いの日本海岸、青森の下北半島などを案にした。
 もうひとつは中部地方だった。妻が長野でキャンプをしてみたいといい、即座に野麦峠が浮かんできた。長野県から岐阜県に抜け、飛騨高山。そこから以前から気になっている飛騨せせらぎ街道で行く西ウレ峠なんていいなあと考えた。

 

 天気は初め、長野・岐阜が優位にあった。東北は、月曜日からすでに怪しくなり、火曜日は雨マークがつく70%だった。キャンプを想定した土曜日の裏磐梯も、降水確率が高かった。対して長野・岐阜は日々晴れマークが並ぶ。
 長野・岐阜プランでの計画を進めた。戸隠というリクエストがあったので、飯綱高原鬼無里きなさでキャンプ場を探した。これは問題がなかった。しかし問題になったのが野麦峠を越えた、高山だった。高山という土地は、ビジネスホテルがきわめて少なかった。そして僕が検索を始めた一週間前など、もうすでに空きなどなかった。見たすべてのホテルが満室だった。有数の観光地たるここは、主はやはり旅館なのだ。ビジネスホテルは絶対数そのものが少ない。でも、ひとり旅での旅館泊は、苦手だ。旅館という施設が、ひとりには向いていない。造りも、サービスも。
 まだ行ったことのない郡上八幡、高山から西ウレ峠を越えていくその土地にも関心が日に日に積みあがっていったけれど、まず日曜日の高山での宿泊を見つけないことには話が進まない。ビジネスホテル以外でひとり泊という状況を検索することが難しい。空いているか空いていないか以前に、ひとり泊の宿泊プランを探し出すことが大変で、やがて何度も挫折した。行くためには宿泊先を探さなくてはならないけれど、それができずにいた。
 そこへ、週間天気予報の変化があった。東北と中部の天気が逆転したのだ。

 

 

「今日は朝から埋まっちゃったんですよ」
 さすがのお盆休み期間だった。ふだん利用していたキャンプ場でそういわれた。それからしらみつぶしに周辺キャンプ場を当たらざるをえなかった。大きなところはものすごい人だし、小さいところは埋まっていた。やっと見つけたキャンプ場、テントを張りタープを立てた。気分的に落ち着くと、自転車を準備した。檜原湖。一周30キロ余り。標高800から900メートル前後。避暑にもってこいだ。

 

 でも走り出してみるとやっぱり暑い。今年の夏の暑さは尋常じゃなかった。
 30分と少し走って、道の駅裏磐梯に立ち寄った。暑くなったからだを冷やそうと、ジェラートを買った。妻の職場のアウトドア好き上司がよく来るようで、ドングリを選ぶといいといってたらしい。ドングリのジェラートを食べた。木の実らしい味でコクもある。クマの主食のひとつで、冬眠の前には大量食いするらしいから、豊富な栄養源なのかもしれない。
 走りながら、湖畔にキャンプ場があるとどうしても目が行く。本当にどこもいっぱいなのだ。賑やかだったり騒ぎ立てていたりするところもあった。そうなってしまうと僕の趣味じゃない。
 ひと回りして、さらに曽原湖までめぐってみた。高原は山の影、早いうちに太陽は山の裏手に入り、明るさを失っていった。戻るころには涼しささえ感じ始めていた。
 磐梯山は、澄んだ青空であったのにそこだけ雲隠れして、結局一度も見ることができなかった。

 

(本日のマップ)

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GPSログ

 

 夜はさすがの星空だ。
 ここに来て、運がいいと天の川が見られる。そしてまさに、白い帯が天空にかかって見えた。新月という環境であれば、この星空を手に入れやすい。
 加えて今夜はペルセウス座流星群がみられる日だと知った。ずっと星空を眺めていたら、見ることができたんだろうか。でもたいてい、キャンプに来ると早いうちから眠くなってしまう。今日に限ったことじゃない。まあいっか──。
 僕は明日走るルートをガーミンに表示させた。予報では、天気良し。明かりを落としてテントに入り、翌日のルートを確認した。

 

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Day1につづく