自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

オートキャンプをする

 車に、自転車と一緒にキャンプ道具を積んできた。
 奥日光をサイクリングして、いろは坂を下りてきた。今夜はオートキャンプをする。

 

 

 「ヒロシのぼっちキャンプ」というTVプログラムが最近始まったので見ている。タレントのヒロシ氏がソロキャンプに出掛け、そのなかで氏のノウハウや使っている道具、キャンプへの思いなんかを語って15分。短いながらおもしろくて見ている。夏場だからというのもあるだろうけど荷物がきわめて少なくて、そのミニマムさに感動し、あこがれてもいる。これまでの放送での彼の荷物は、デイパックひとつとクーラーボックスひとつだ。季節がらテントもタープも持たず、ハンモックで泊まるスタイルだからだけど。
 僕はそれほどキャンプが好きというわけじゃないのだけど、これを見ると「ああ、キャンプに行くか」と湧き立たせるものがある。
 アニメの「ゆるキャン△」もひととおり見て、同様に意欲が湧いたけど、キャンプに行きたくなる度合いとしては、ヒロシのぼっちキャンプのほうが上だ。

 

 

 そんなわけでオートキャンプである。自転車を屋根に積んだまま、道具一式を下ろして広げた。
 天気に危うさがあればここで自転車を車内に仕舞うのだけど、今日明日は大丈夫そう。いろは坂を下ってくる途中、急な大粒の雨に見舞われたものだからまずいなあと焦ったけど、キャンプ場に着く頃にはそれも上がってしまった。もう雨雲はない。

 

 ヒロシ氏におよぶべくもない。荷物が多いなあ。
 テントに寝袋にマット。タープ、椅子、テーブル。火器類。調理器具や食器、明かり類。その他こまごま。広げるだけで場所も取るし時間もかかる。
 ヒロシ氏の装備とは違い、僕の装備は家族向けのものばかりで、大人数用でガラは大きいし、数も多い。もちろん今や家族用の必要などなく、食器など必要数に減らしてくるし、椅子もテーブルも余計には持ってこない。むかしは食事用のテーブルと調理用のテーブルを別に持ってきたり、ほんのちょっとだけ便利なものなんかもごちゃごちゃとあった。おたまやターナーや菜箸をかけておくフックとか、調理台の上を照らせるようにと台に付けられるランタンポールとか。
 最近じゃ食べる量も減ってるし、キャンプ食の関心もすっかり冷めているので食事も必要な分だけシンプルに、そうやっていろいろな面を削ぎ落し、持ってくるものも少しずつ減らしているのだけど、なかなか少なく小さくならない。セットものの備品は数がそろってしまっているし、大人数用はなにしろ大きい。哀しいほどヒロシ氏にはほど遠いのだ。

 

 さらに今回余計に持ってきたものもある。
 ヒロシ氏が必ずたき火をするものだから、なんとなくたき火をしたくなった。ゆるキャン△でも必ずたき火をしていた。火はいい。それは知っていたし、僕もかつてはたき火を楽しんでいた。でも荷物を減らしたくてたき火をやめていた。
 たき火台を持っているわけじゃない。むかし使っていたコンパクトなバーベキューグリルを使う。その一式と軍手や皮手、火ばさみや着火剤やうちわが荷物として増えた。

 

 それではたき火を始めよう。管理棟で薪を買った。場内に松ぼっくりが落ちていたから、管理棟からの帰り道、拾いながらサイトまで帰った。松ぼっくりが手に入ったから着火用の成型炭も着火剤もいらない。松ぼっくりは天然の着火剤だ。明るいうちに火を起こした。

 

 

 オレンジ色だったたき火の火が、夜の闇に包まれると赤くなる。もちろん色が変わるわけじゃなくて赤が強く映るのだ。
 コッヘルで炊いたご飯と、肉を焼き、夏野菜を炒めた程度のシンプルな夕飯を早々に終え、コーヒーを飲みながら火を見ていた。火の向こうには車に積みっぱなしの自転車がある。さらに今回驚いたことに、向かいのサイトに僕のと同じ車が止まっている。稀少というほどの車種ではないけれどまったくといっていいほど多くない。おまけにもう製造もされていない廃版車だ。たき火、自転車、自分と同じ車……、この構図はいいなあ。

 

 盛大にたき火をやるというよりは、小さな炎がかすかに立つくらいを見ているほうが好きだ。それを見続けていたらやがて薪は炭化し、火は小さくなった。夜が色濃くなり、僕も眠くなる。まだ夜九時すぎ。でもだいたいいつもこんなもの。僕のキャンプ場の夜は早い。
 ランタンの火を落とし、テントに入った。

 

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