自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

輪行で、降りる駅、乗る駅

 輪行でどこかの駅までアプローチしてサイクリングをするのは、いろんな土地を走りたいから。遠い土地であれば、そこまで走っていくことに無理があったり、それで時間や体力を費やしてしまうわけで、走ることができない場所が輪行によってサイクリング可能な場所になる。
 それが輪行のコンセプトであり目的である。
 しかしながら僕など、鉄道に乗って旅をすることも嫌いじゃないものだから、輪行そのものを楽しもうなどという発想がついつい浮かぶ。
 もちろん、輪行はあくまでサイクリングの補足手段であることが主旨で、大前提としたうえで。

 

 

 たとえば降りる駅。
 好きな駅や興味ある駅で降りてみたいって思う。それがサイクリングに影響しなければ──とんでもない山中や、鉄道だけ橋を渡って逃げてしまうような場所でなければ──ひと駅ふた駅多く走ることは、自転車にとってはたいしたことじゃない。
 日光金精峠を群馬県側から越えようと思えば、国道120号に近い沼田駅。この駅はこの駅で悪くないんだけど、ひと駅手前のローカルな岩本駅なんかまたいい駅だ。ルートだって椎坂峠を交わし薗原ダム経由で国道120号に合流するルートが引ける。だったら岩本駅にしようって思う。──もっとも今は、駅舎が最近の無人駅タイプのプレハブゲートになってしまったから味気なくなったけど。
 水上駅までの輪行であれば、ひと駅手前の上牧駅で降りてもいいかなって検討する。わんさと人が乗り降り、乗り継ぎする駅よりも、自分ひとりしか降りないような駅のほうが、好み。

 

 3月に、山梨県早川町を走ろうと、降りた身延線下部温泉駅もよかったなあ。かつての威光を放つ規模と、無人駅となった現在のギャップを肌で感じられる、とても素敵な駅だった。
 身延線JR東海で、もちろんスイカなど使えないうえ、無人駅では車掌がホームに立ち、下車客の改札をひとりひとり対応する(車掌乗務の場合)。各駅ごとに改札作業をするものだから列車は20分近く遅れた(下部温泉など身延線全行程の3分の1程度だからその先大丈夫かなあ)。少なくとも見る限り遅延の原因はこの改札作業だけだったようで、それゆえ僕が下車したときも、ホームを走って確認しに来てくれる多忙な車掌に恐縮してしまった。
 早川町に行くには次の波高島駅が最寄りだったけど、下部温泉駅で降りてよかったなあと思った。

 

 日本の国道が最も高いところを通る、群馬・長野県境の渋峠、ここへのアプローチに使うのは吾妻線長野原草津口が一般的。でも僕はそのひとつ先の群馬大津駅で降りるのが好きだった。単線線路に一本の細いホーム、行き違いもできない配線の駅はホームだけで駅舎もない。待合室がとりあえずというふうにある。三人入れば窮屈なほど。電車が行ってしまえば音もなくなり、静寂のなかで自転車を組み上げる。でも、群馬大津駅で降りることもなくなった。朝の高崎線下り始発から接続する吾妻線の電車が、かつての万座・鹿沢口ゆきから長野原草津口止まりに短縮されてしまったから。残念だ。

 

 

 降りていい駅は、乗ってもいい駅だ。
 サイクリングを終えて自転車をパックし、列車を待つ。いい時間だなあって思う。ただ、どこでも思えるわけじゃなくって、それはひとりで列車を待つような駅だ。甲府駅土浦駅で列車を待っても、あまりそういったいい気分にはひたれない。
 伊東線伊豆多賀駅やその先、伊豆急稲梓駅なんかいいな。身延線鰍沢口西富士宮のあいだの駅は全般いい。内房線外房線のちいさな駅もいいね。海なし県民としてはその雰囲気だけで3割増しになる。

 

 

 ああサイクリングに行きたいな──、そう思うと同時に、輪行したいなって思う。まあ変わりものなんだけどね。

 

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