自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

路面電車

 先週、三遠をサイクリングしたとき、宿泊したのが豊橋
 駅前に出てみると、路面電車が走っていた。
 地元の私鉄、豊橋鉄道が走らせているらしい。
路面電車に乗ってきたい」
 と、僕はこの旅をともにしていた妻にいった。
「どうぞ、どのくらいの時間?」
「1時間──」
 このあと夕飯がてら外に出る。僕は少し早めに準備して、ちいさな鉄道の旅に出た。

 

 懐かしい、釣り掛けサウンドの電車。いつぶりだろう、この音、本当に懐かしい。駅前の急な交差点を曲がり、目抜き通りを行く。
 路面電車は西高東低──。関東にいると、見かける機会もほとんどない。東京に都電が走っているけれど、一路線。それもほとんどが専用軌道。こういう併用軌道の路面電車を見るだけでうれしくなる。
 電車は赤間口行き。豊橋鉄道の市内電車線は終点のひとつ手前、井原で二路線に分岐する。分岐した先はそれぞれひと駅で、その片方が赤間口、もうひとつが運動公園口。路面電車でひと駅ずつ、両駅を歩いても大したことないだろう。まずこの路線を全線乗ってみる。

 

 電車は国道1号に入った。国道1号を走る路面電車って他にはないんだそうだ。
 運転士は、これまた懐かしい空気ブレーキを上手いこと操作して、ぴったり揺れなく電停に止める。見事だなあ。
 釣り掛けモーターの加速音、ブレーキシューの制動音、これだけで心地いい。

 

 国道1号を離れてちいさな道を走った。車が片側1車線、電車が複線。周囲から高い建物も減った。
 この路面電車に乗って、初めて見たものがあった。自動車教本でしか見たことのなかった、路面にペイントだけの電停。しかもゼブラに塗られたそこは幅が1メートルあるかないかにしか見えない。とんでもない電停だ……。お母さんが小さな子をふたり連れて、この電停で降りて行った。

 

 競輪場前の電停の手前から単線になる。
 ここから先の区間が信号により制御されていた。電車が止まってしばらく動かないなと思ったら、駅前行きの電車が遠くから現れるのを待っていた。
 乗客は誰も動じることがない。すっかり慣れたことなんだね。

 

 井原電停で運動公園前への支線を分岐して、赤間口行きはまっすぐ進んだ。支線では、運動公園前から来た駅前行き電車が、僕の乗った赤間口行きが通り過ぎるのを待っている。単線区間に入るための順番待ち。
 電車は終着の赤間口に着いた。25分の旅の終り。

 

 

 赤間口から運動公園前まで歩く。
 夕暮れの路地は完全な住宅街。15分ばかりの路地紀行。

 

 なるほど、大きな公園が見えてきた。
 支線は狭い道路を走っている。その道に出ると、線路に沿って歩いた。
 ほどなくして運動公園前電停。
 終点は、これまた初めて見る、車止めもない終り。
 レールの端が切ったように、その先はアスファルト舗装だけのただの道路。必要最小限だ……。

 

 電車が遠くから現れた。走りながら、運動公園前の方向幕が駅前に変わった。駅前──いい電停の名前だね。さあ、また25分乗ろう。

 

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