自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

三重県私鉄、ナローゲージの旅(計画・出発編)

 あけましておめでとうございます。

 2018年の正月は寒い。とにかく寒い。こたつで丸くなりたいけれど、家にこたつはない。動きづらいほど厚着をするか、環境とか無視してガンガンに暖房を焚くか、そんなふうに正月休みを過ごしている。

 ありきたりの親せき集まりや挨拶などを済ませると、正月休みなんてすぐに終わってしまう。正月休みって仕事が形式上休みになっているだけで、自分の意思とは異なる用事予定が時間不定で埋まり、それがたとえ数時間のものであっても一日の単位で確保をしなくちゃいけないから、じっさい仕事のようなもので、じっさい休みなんて気分じゃない。

 でも僕が今やっている仕事はこの4日5日がお休みで、さすがに周囲は仕事が始まるものだから、ここにきて自由に使える時間を得たわけだ。いわばこれが本当の正月休みだ。

 3日の午後になってようやく自由になり、さてこの休みをどう使おうか考え始めた。

 しかしとにかく寒い。

 どこか輪行に出かけて自転車に乗ろうって頭に切り替わらないほど。どうしてもサイクリングのアイデアが浮かんでこなかった。

「鉄道に乗りに行こう」

 

 手もとにある18きっぷを使うことを考えなくちゃいけない。用途未定が一回分、残っている。

 

 とにかく元を取り、さらにおトクに乗るんだとなると、JRに乗りまくるアイデアになる。そしてどうしてもそうなりがちである。それはそれで魅力的なのだけど、関東発で、めいっぱいのお得感を出し、さらに旅をして楽しそうなところとなると意外に限られるもの。東北は仙台方面に行くとか、甲信越だと新潟や松本。これらをピストンで往復か、軽くバリエーションを織り交ぜるとして仙山線磐越東線水郡線小海線東海道や中央方面に身延線を織り交ぜるなんてのもそう。

 俗にワープなどと呼ばれる、あいだに特急や新幹線を挟んで距離を稼ぐことをすると、飯山線磐越西線中央西線とか。

 でもこうやって考えつくところってすでに行っている場所だったり経路だったりするんだよね。考えること、そこから導かれる答えなんてそうそうあるわけじゃないからみな同じ。行ったことがあるなんて当たり前っちゃ当たり前。

 確かに冬の飯山線なんてとてもよかった。うず高く積みあがった雪のなか、気動車のエンジン音をBGMに進んでいくのは素敵だ。もう一度行ってみたくもある。でもだからと言ってそればかりというのもどうなんだ。他に行ったことがない場所も数えきれないほどあるのに、同じところばかりというのもさえない。

 じゃあ行ったことがないところ、そう考えてすぐに浮かんだのが磐越西線飯田線だった。早速時刻表から行程を作ってみる。

 磐越西線はやはり新幹線でワープをしないことには行程が組めなかった。どうしても上越線の水上-越後湯沢間がネックになる。日の短いこの季節、日中の早い時間で走りきる列車を選びたいし、乗ったことのある会津若松から郡山の区間だって、雪をかぶった磐梯山や冬の猪苗代湖の風景だって楽しみたい。本数の多い東北本線を帰路に使うとすれば新津からのスタート、そこまでは新幹線を使うしかない。したがって磐越西線に行くなら新幹線が必要である。

 もうひとつは飯田線。この行程を立ててみると、朝一番、始発列車で出ることで、全行程普通列車だけで回って帰ってこられることがわかった。驚いた。もちろん飯田線内は一本の列車を乗り通し、途中下車もできないけれど。

 考えが飯田線に傾倒し始めたころ、しかしながら18キッパーズ(18きっぷで旅をする人たちの通称、俗称、ときに蔑称)でいっぱいになる車内の模様が浮かんだ。昨年の飯山線でさえそうだった。飯田線はどうだろう、キッパーにとっても格段の知名度だし、鉄道のローカル旅番組でも名高い。そうなると飯山線どころの騒ぎじゃない。僕の行程表に組み入れられた飯田線は、日中の時間帯に走りきる通しの列車だから、辰野で見た顔はおそらく終点の豊橋まで見続けるに違いない。それが悪いというつもりは全然ないけど、正直言って明日の旅の気分じゃなかった。

 路線図で飯田線周辺を見ていて目に留まったのが、三重県を走る私鉄たちだ。

 大動脈はもちろん近鉄なのだけど、そこから毛細血管のように伸びる鉄道筋がある。どこからどこへ向かっているのか、その路線がどこの鉄道会社なのか、そんな何もかもを僕は知らない。

 ──ここかな。

 

 まず目についたのが、近鉄四日市駅を起点に伸びる2本の路線。四日市あすなろう鉄道? 聞いたことないな。

 それから近鉄富田を起点に北へ向かう三岐鉄道。さらに同じ三岐鉄道で桑名を起点に北へ延びる路線。

 こんなところに、網の目というには大げさながら、鉄道が走っているのだと思うと興味がわいた。

 そうだ、と僕は思い出すように写真をひっくり返した。以前、伊勢神宮に車で出かけた折、ちいさな鉄道駅が目に留まり、車を止めてしばらく散策しながら写真を撮って歩いた。それってこれら鉄道のいずれかだろうか。見つけた写真は2016年の3月だった。駅が扇状に広がり、直進する線路と大きくカーブする線路とがここで合流している。そんな2路線の分岐駅だった。そして何よりこの線路、ナローゲージじゃないか。関東に住む僕にとって馴染みのないナローゲージは途端に僕の興味をこの地へ傾倒させた。

 

▼ 2016年3月の立ち寄り写真

 

 写真の内容を見て、場所を照らし合わせるとそこは、四日市あすなろう鉄道の日永という駅であることがわかった。

 ──よしここだ。

 僕はこの四日市あすなろう鉄道と、三岐鉄道を乗りまわすことにした。

 もちろん、18きっぷで朝、越谷を発つことでは無理、行程が立たない。ワープをする必要がある。かと言って新幹線ってのもなあ。朝一番に乗っても名古屋に8時だし……。

 ──夜行バスか。

 

 

 僕は夜行バスが苦手だ。

 バスに限らずだけど、座席で寝るというのが無理なようだ。上半身はともかく、脚が水平にならないとむくんで、あるいは痛みや疲労で起きてしまう。これまでに乗った夜行バスもそうだし、去年の春に乗った伊豆大島行きのフェリーでもそうだった。鉄道はできる限り寝台を確保し横になって旅してきたから、座席の夜行列車に乗ったって記憶は学生時代までさかのぼらないとない。

 さらにバスの場合、ドライバーの良し悪しによって酔ってしまう。

 それが僕を積極的に夜行バスに乗せない理由だ。

 でもここは、バスだ。バス一択だ。

 

 今日は3日。天気予報を見る限り明日の4日に旅をするほうがいい。それならば夜行バスは今晩出発の便を確保できるかどうかってことだ。お正月三が日の最終日だ、取れるのか? ここでバスを取れるか取れないかでこの旅が決まるってことだ。よしよし、面白いじゃん。夜行バスが取れるか取れないか、この旅をそれに賭けてみようじゃん──。

 

 

 バスタ新宿。初めてここからバスに乗る。

 ここの何度も前は通ったことがある。しかし中に入ったことはない。当たり前だ、そんなことは高速バスに乗らない限りないのだから。

 間近に来てみるとその大きさに圧倒される。JR新宿駅新南口を覆う駅ビルのようにそれは建っていて、ただでさえ大きいと思う大型バスが何台も、それこそひっきりなしに吸い込まれていく。かつてスバルビル前とか安田生命ビル前とか、都庁前、新宿中央公園、そんなところを乗降場に使っていたバスたちが、なかば強制的に集められてきたわけだからそりゃ相当な数だ。そこかしこを棲み家にしていたホームレスたちが集められて収容所に入れられるように。

 まだ一年、真新しいバスタ新宿へのエスカレータを上る。きれいで合理的なビルだ。駅の改札が2階で、エスカレータを一つ上がると3階。出発ロビーはさらにその上らしい。複数のエスカレータで3階に上がってきた者たちが一箇所のエスカレータに集められ、にわかに人の数が増える。そして4階に上がると全く想像していなかった人の海だった。

 

 僕は手もとの、僕が乗るべきバスと便名を確認する。045発、名古屋行きVIPライナー名古屋2便。

 

 

 バスは、四日市行きを探した。

 当日の夜の便、もう検索ができないものかと思ったけどそんなことはなかった。各社のバスが検索・予約できるのだ。若干驚きでもあった。宿泊やフリーのパッケージもこのくらいできるようになってほしいと思う。ただ乗せるだけのバスとは事情が違うにせよ、当日申し込みは素泊まりのみとか、キャンセル不可で不履行時も全額負担とか、但し書きをつけてやってくれればいいと思う。僕なんて前日当日に旅に出たくなることが多いから。

 四日市行きは数便が表示され、残席数は当然ながら少ない。1とか2とか。

 しかしながら四日市行きは四日市終着ではなく、亀山や津、松阪や名張といった先へ向かうバスの途中の停車駅だった。だからよく見ないと到着時刻がとんでもなく早い。そりゃ5時台にも鉄道は動くかもしれないけど、まだ夜が明けない。できれば明るいところで乗りたいし、何より寒いし。寒いのは嫌だ。

 4列シートのバスは、最後いよいよどうしようもないというときでなければ選ばないようにした。さすにただでさえ苦手な夜行バスで、4列シートともなったら寝られないこと必至だろうから、いちおう検索するものの、最後に回すつもりで見た。

 四日市到着が6時で、3列シートという好都合なバスを見つけた。残席は2。四日市着時点でまだ暗いかもしれないけど、ほかの便よりはまともな時間だ。そこで近鉄四日市を6時45分くらいに出発し、行程を組んでみる。四日市あすなろう鉄道2路線に乗り、三岐鉄道2路線に乗る。さらに戻った桑名から養老鉄道にも乗ってみようと思った。この鉄道は桑名から岐阜県の大垣へ向かう。大垣から18きっぷを使い、東海道線で帰路につこうという考えに至った。と同時に近鉄四日市駅近くにマクドナルドがあるのも見つけた。せっかくだから名古屋圏の喫茶店でモーニングをとも思うけど、さすがに朝の6時からやっているところはない。そもそも四日市が名古屋圏なのか近畿圏なのかさえよくわかっていない。マクドナルドは6時からやっているようだ。

 ひととおり回って、その日のうちに大垣から18きっぷ、つまり普通列車のみで帰宅できることがわかった。行程はぎちぎちだ。どこか一箇所破たんしたらおしまい、例えば養老鉄道をあきらめて桑名から名古屋に戻るとかしなければならない。ぎちぎちだけに、夜行バスで脚がむくんだり痛くなったり、あるいは酔ってしまったりしたら大丈夫だろうかという子供のような不安が僕を襲う。しかしバスありきの鉄道旅だ、そんなことを言っている余裕はない。

 行程計画が立ち、あとはもうバスを押さえるだけ。バスで眠れなかったり体調を崩したりしたらそのとき考えればいいと、さっきのバスサイトに行き、予約を進めた。

 ──ページがエラーになる。

 先に進めない。戻って押しなおしても同じ。

 もっと戻って、四日市便の検索からやりなおした。その便は検索結果から消えていた。残2席は、僕が行程を組んでいるあいだに埋まってしまったのだ。

 そうかこんな直前に、僕と同じようにバスを探し、予約を入れている人が絶え間なくいるということか──。

 少しの驚きとともに、計画をやりくりする必要が出た。残っている便は四日市に4時台に着くというとんでもない便か、5時台に着く4列シート、あとは7時台に着くとんでもなくお高いバス。

 7時台に着く値段も高い便は外した。時間もよくない。残るは4列シートかとんでもなく早い便かだ。とんでもなく早い便の残席数は1。とりあえずページを進め、確保の直前まで行ってみることにした。座席選択のところで出た場所は、トイレの後ろだった。どうやらバスの中央部右側にトイレがあり、右窓側は4番と5番だけ座席がない。その後ろの6番なのだ。──ここって脚を投げだせるように伸ばせるのだろうか。不安になる。椅子の後ろ(ふつうの席ならそうだ)であれば、前席の下に若干の空間があり、その下に足を潜り込ませられる。が、トイレはどうだ。壁じゃないのか? 悩んでしまった。それに4時台っていう到着時間も常軌ではない。喫茶店どころかマックさえ開いてない。

 5年くらいかあるいはそれ以上前に利用したことがあるバス会社を思い出した。会員登録をした経緯からいまだにメール・マガジンが届く。読みもせず棄てているけど、ここを見に行ってみようか。少なくとも一括検索の結果には出てこない。

 VIPライナー、平成エンタープライズという埼玉県のバス会社だ。僕が乗った当時はまだチャーターバスの形で運行していたはず。大阪梅田から東京へ、仕事の帰りに使ったことがあった。つまり大阪から東京へ、一夜限りのパッケージツアーの形態で、そこでチャーターされたバスという運営形態だった。そんな夜行バスがゴロゴロあった。

 でも夜行バスが事故を起こしたり、スキーツアーバスが事故を起こしたり、偶然にもそんなことが重なった時代があり、法改正があった。夜行で決まった路線を運行する場合、路線バスとして登録する必要があり、チャーターバス会社は撤退するか路線バス会社に鞍替えするか選択を迫られた。平成エンタープライズは路線バスへ転換する道を取った。ピンクのバスが目印のウィラーなんかと一緒に。いまや平成エンタープライズは春日部のイオンへの路線バスなんかも走っているのを見かける、完璧な路線バス会社になっている。

 なるほどVIPライナーは四日市へ向かう便がないのだ。それで一括検索のサイトには載ってこないのか、あるいはVIPライナーがそこに登録していないのかはわからないけれど、出てこなかったわけだ。

 近いところであるのは、名古屋。

 ──名古屋か。

 

 名古屋から四日市へ列車で行ってしまえばいいんだって気づいたのは、四日市便のサイトと行ったり来たりしてしばらく時間がたってからだ。どうせその日は18きっぷを使って大垣から帰ってくるのだ。朝、入鋏したってその日一日には変わりがない。JR関西本線の時刻表を調べた──。

 

 VIPライナーで残っていたのは最終の045発。名古屋着が640と遅いが、行程が組めることがわかった。しかも3列シートでちょうど6千円。四日市行きのバスが3列シートだと8千円台後半からだったのに比べると──もっとも名古屋と四日市じゃ距離が違うが──安く済むし、もう数時間後の話だ。僕は予約ボタンを押した。

 そして行程はこうなった。

 まず名古屋駅からJR関西本線で河原田駅へ向かう。第三セクター伊勢鉄道との分岐駅で名前を知っている駅だ。もちろん伊勢鉄道に乗るわけじゃなく、ここから歩くと30分余りで四日市あすなろう鉄道内部線の終点、内部駅まで歩けるようだ。徒歩で内部駅まで移動したのち、四日市あすなろう鉄道内部線に乗り、日永駅へ。僕が2年前の春に写真を撮った扇型のホームの駅で八王子線に乗り換え、ひと駅で終点の西日野へ。ピストンになってしまうがそのまま折り返し乗って、四日市駅に出る。これで四日市あすなろう鉄道に全線乗ることができる。

 四日市あすなろう鉄道を乗り終えたら、三岐鉄道にはあせって行かず、ここからまた細く北へ向かっている近鉄湯の山線に乗ってみる。終点の湯の山温泉まで行き、本当はどこかで散策したいけど残念ながらピストンで戻る。近鉄四日市から近鉄富田に移動し、三岐鉄道三岐線。終点の西藤原まで行ったらここもまたピストンで3駅ばかり戻り、伊勢治田(はった)駅で下車。もうひとつの三岐鉄道北勢線に乗るためにその終着の阿下喜駅まで歩く。ここが徒歩20分余りで歩けそうなので、行程計画がぐんと楽になった。三岐線近鉄富田までピストンし、北勢線を西桑名からピストンすると、時間が足りなくて行程が立たなくなってしまうから。

 阿下喜から西桑名まで三岐鉄道北勢線を全線乗ったあとは、桑名駅から養老鉄道に乗る。西桑名駅と桑名駅は同じロータリーにある同一駅と言っていい。JR大阪駅と阪急梅田駅よりも近いし、JR京葉線の東京駅など比較に出すに至らない。

 桑名からは一本乗り通しで大垣だ。よく18きっぷ旅で西へ向かうとき、東海道線は大垣で分断されるものだから途中下車しちゃこの駅の端っこに止まっている電車を見ていた。どこからきてどこへ行くのかもよく知らなかった。色から、近鉄グループの電車だろうと思っていたくらいだ。それが立ち寄る桑名から出ていると知れば乗るべきだ。この大垣で今回の旅を終える。

 今日の18きっぷは、アプローチに使うだけ。ちょうどサイクリングの輪行で使うように。

 

 

 ずいぶん早く来てしまった。

 まだ発車まで1時間以上ある。でも、バスタ新宿がどういうところか、せっかくだから見たかった。夜、家に残っていたところですることがあるわけでもないし。ベンチに座って人の流れを見ているだけだって、きっと楽しいに違いない。

 

 巨大バスターミナルは5分おきに次々にバスが出発していく。総合受付の上に大型ビジョンがあり、同じ時刻に10便弱のバスがまとめて出発していくのがわかる。よくこれだけのバスをきっちり回せているのだとびっくりする。しかもここが始発の便ばかりじゃない。僕がこれから乗る便だって川越からやって来る。TDL発もあるし、都内各所、近県各所が出発地であるバスのほうがむしろ多い。よそからの出発でバスタ新宿到着が遅れた場合でも、きちんと対応ができるようにマニュアル化されているんだろうな。そのいちいちに感心する。

 このターミナルの形態は、東京駅八重洲南口にあるバスターミナルと同じだ。各バス会社を一括して扱い、出発管理をする。あそこもすごい。狭いロビー、狭いバスロータリーでよくさばいていると思う。目の前がすぐ内堀通りへの信号で、タイミングや渋滞次第じゃ出発が詰まってしまう。出発したものの内堀通りに出るのに詰まり、次の便がロータリーに入れず、それが玉突き式に遅れを出してしまったりするのを見ているのが好きだった。

 でもバスタ新宿にそれはほぼない。ロータリーを出てもアプローチ道路があり、すぐに甲州街道への信号というわけでもないから、キューのようにスプールできるんだろう。

 

 そんなことに思いを巡らせているあいだにも10本近いバスが出発していく。大型ビジョンからそれらバスの表示が消え、次のバスがシフトして先頭に表示される。見ていて飽きない。

 全国各地へ向かっているようだけど、もう0時前の遅い時間だけあって、遠い地への便はもうない。大阪、仙台、新潟、僕がゲットできなかった津。僕が乗るVIPライナーの30分早い便。そんなのが大型ビジョンに掲示されている。

 

 ふと、東北・上越新幹線が開業する前の上野駅を思い出した。

 在来線だから普通列車と特急列車が混在して発着する。当時は特急と同じくらい急行列車もあった。

 大宮まで同じ線路を走る東北本線高崎線の特急列車が、これでもかと分刻みに出発していった。たいていはパターンダイヤと呼ばれる、決まった分に出て行く。

 00分仙台ゆきL特急ひばりが出る。そのわずか3分後、03分には秋田ゆきL特急つばさや青森ゆきのL特急はつかりが入る。会津若松ゆき特急あいづもこの枠を使った。臨時にL特急はつかりが出るときはさらに3分後の06分発が組まれることもある。毎時16分になると長野ゆきL特急あさまだ。あるいは吾妻線に向かう特急白根や中軽井沢までの短距離特急そよかぜが入ることもある。その3分後の毎時19分は上越線回りの秋田ゆき特急いなほ上越線回りの金沢行き特急はくたかが入る。新潟ゆきの大動脈L特急ときが19分に入ることもある。30分にもL特急ひばりや盛岡ゆきL特急やまびこ、L特急はつかりが出る。時間ごとに分け合うように使い、かち合った場合は3分後の33分発になる。毎時46分もL特急あさまタイムだ。その3分後の49分はL特急ときの時間。このふたつの時間を分け合うように特急はくたか信越本線回りの金沢行きL特急白山、特急いなほが入っていた。

 00分、03分、06分、16分、19分、30分、33分、46分、49分に何かしらの特急が発車していく。その合間に急行も走り、普通列車が入っている。常磐線のL特急ひたちなんて線路が違うものだから、ひばりと同時発車なんてことも多くあった。これだけ特急ばかり同じ線路を走っていたのだから、さぞ18きっぷは使いづらかっただろうなと思う。普通列車 は何駅かおきに特急や急行の退避をしていたんじゃないだろうか。──僕はこのころ周遊券ばかり使っていて、18きっぷは使ったことがなかったけど。

 

 上野駅の出発風景なんかを重ね合わせていたら、大型ビジョンの表示は0時台に変わっていた。腕時計を見ると23時58分。まだまだ大型ビジョンは埋め尽くされているし、ロビーは人と荷物でごった返している。

 ──楽しい。

 本気で楽しい。出発の雰囲気だけでも味わいたくって、東京駅八重洲南口のバスターミナルに行ってみたことがあった。乗りもしないのに。そんなことまで思い出す。

 30分がたつ。さすがに人が減ってきた。残る便は030発、035発、040発、045発だけだ。それ以降は大型ビジョンに表示がない。

 つまり僕が乗るバスは最終の出発グループってことだ。

 同じ番線はさすがに5分おきってことはなく10分おきに発車する。僕が乗るBエリア6番線は035発の郡山・福島行きが出た次になる。

 数分遅れながらそのバスは出たものの、遅れることなく、まるで鉄道のダイヤのように名古屋行きが入ってきた。ゲートに列ができる。空港のよう。フルネームを確認し乗客名簿と照合して席を案内された。

 さあ、出発。