自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

名物に……

 たぶん何かの気の迷いだろう。ふだんの僕であればあまり考えられない。

 名の知れた超有名な食べものを食べるために、1時間も待ってしまったんだ。


 あえて言い訳をするなら、そこまで有名だとは思ってなかったんだ。

 何かのフリーマガジンのなかで見つけた道の駅の名物。そんなものは最近の道の駅ならどこにだってひとつくらいあるだろうし、道の駅に限らなくったってフリーマガジンに載るようなちょっとしたその地域での名物なんていくらでもある。

 そのひとつだと思ってたんだけど──。


 栃木県、道の駅もてぎ。

 ここにある「ゆず塩ラーメン」がそれだ。

 ──まず塩ラーメンを選んでいる時点で僕の気の迷いがあったのかもしれない。


 本来は道の駅の建物のなかに店舗があり、そこで食べられるもの。お店からは驚くほど長い行列が伸び、これっていつ食べられるのだろう、っていう状態。いや、いつお店に入れるのだろう。

 1時間以上見ないとだめじゃないかと思う僕を見透かしたように、外の区画のプレハブ小屋で臨時販売所を開設し、同じゆず塩ラーメンを供していた。チケットを買う行列はわずか数人。いくつか並べられたテントとその下のテーブルについて食べるわけだけど、こちらの席もうまく回転しているよう。レジャープールのプールサイドのような発泡スチロールのどんぶりは興ざめを否定しないけど、あの店舗の行列であれば、ただただ行列することを見てひるんでしまう僕など、そんな器ごときマイナス点を計上するに至らない。

 そんなわけで食券を買った。

「この番号でできあがったらお呼びします」と食券を渡された。「89」と書かれている。ちょっとだけ、発泡どんぶりに後悔の念を持ちつつ。

 じっさいにラーメンが提供されるプレハブ小屋の部屋から、6つばかりのどんぶりが並んだ。──51番、52番の方。なかから大きな呼び声かかかった。

 ──ご、ご、ごじゅう?


 中の店で食べたほうが良かったのか、臨時販売所が正解だったのかわからなくなるほど、結局僕は1時間5分ばかり待った。



 僕はこのあと益子へ向かった。農村を抜け、高くはないが里山の風景が残った道を走って益子へ向かった。

 いい風景だった。

 道の駅ましこまで行ってみた。

 これもフリーマガジンかなにかで見つけた、ジェラートを探した。店内に値段表のブラックボードを見つけた。さんざん悩んだ挙句、いざ注文をしようとすると、

「申し訳ありません、土日は外のワゴン車でのみの販売なんです」

 先に言ってよ……。

 それはやはり、混むからだろうか。

 名物巡りばかりをさんざんしてしまったようだ。