自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

外房海岸線を飽きるまで

 外房は、その海岸段丘の入り組んだ地形が見せる構造美と、ただひたすら果てしない、行きつく先のない太平洋の大海原が見せる、自然の大きさに尽きる。

 が、それだけじゃない。

 なんだろう。伊豆半島三浦半島も同じ海岸段丘の入り組んだ海岸線ながら、独特の雰囲気を感じさせる。


 それは、そこにある営みがもたらす雰囲気なのかもしれない。


 海岸線近くをJR外房線と国道128号が通る。決して離れていない。が、この交通の大動脈から海岸線へものの1キロ、入り込むだけで、まるで孤立してしまったような独自の空気が流れた集落がいくつもある。なぜもこんなに線で引かれたような空気の差があるのだろう。わずか1キロ、国道沿い鉄道沿いと海岸線とでは、空気も、光も、時間の流れも何もかもが違って感じられる。

 多くは漁村だ。

 朝が早い商売柄、昼過ぎにはまるで夕刻のような雰囲気が流れ始める。14時にもなると湯気が上がり、出汁を取る香りと、焼いた魚の煙が集落を伝う。少ないながら小さな子供が、道のうえにろう石で丸を書いてケンケンパをしたり、縄跳びやフラフープやホッピングをしたりする。いきおい、「夕飯ができたわよー」と声がかかりそうだ。──でも14時だ。まだそれはない。



 大原駅を起点にした。

 日曜日の朝であれば、漁港で観光朝市をやっている。朝市も、古くから地元での商売としてやっている──たとえばこの先で立ち寄る勝浦なんかだ──まさに売買のための朝市もありだけど、単純に訪ねておいしいものをその場で食べてっていう楽しみ方であれば、こういう大原の観光市場のやり方もじゅうぶんありだと思う。じっさい、かなりの集客だ。

 もちろん、自転車なら渋滞や駐車場の混雑は関係ない。


 先に挙げた雰囲気を存分に楽しむなら、御宿、勝浦あたりで国道から大きく外れた海岸線に行くといい。ただ午後の雰囲気を楽しむのであれば、大原の朝市とはかみ合わないけど。

 鴨川から太海にかけた区間も同様だ。ただ鴨川全体の観光地としての大きさと、太海も仁衛門島があるから観光色は少なからず感じると思う。

 海岸線のダイナミックさを味わうなら、太海から先、国道に合流して江見に向かうあたり。国道で交通量も多く気になるけど、でもこの海岸線の大きさは太平洋の広さをそのまま感じられると思う。


 欠点は、そこかしこで走らなくてはいけない国道128号。これが狭く交通量もあり、トンネルも現れるので走りにくい。できれば全線避けたいところだけど、この道でしか越えられない箇所が現れる。海岸段丘の入り組んだ地形ゆえなのだろうけど。



 このルートはつねにJR外房線かJR内房線に沿っている。せいぜい1キロ少々しか離れないから、やめたくなったところで列車に乗ればいい。

 飽きるまで海岸線を楽しんで、飽きたら列車に乗る。

 そうやって外房の海を実感してもらえれば──。


地図

ルート(GPSies