旅と食事

　偏食ではないのだけど、食事は偏るほうかもしれない。食にこだわりがなく、それがゆえ旅に出ても、わざわざ食の情報を集めたり、土地々々での名物を選んで食べたりすることがあまりなくて、どこへ行こうとふだんと変わらないようなものばかりを食べるので、そういう意味で偏りがちになる。そもそも名物を知らなかったりもするし、いざ食べるとなっても今度はお会計がいくらになるのか気になりだして、いつも食べるようなものだったらそんなこと気にせずに済むのに、などと味もわからなくなってしまっていけない。

　旅において食事というのは、全体を印象付ける重要な要素（ファクター）で、地の食材を生かした料理を食べたり、その地での有名店などを訪れれば、旅の記憶はより深く刻まれ鮮明になる。間違いなく、食は計画段階から演出を高めるためのセオリーである。
　──一般論としては。

　先に書いたとおり、僕は食にこだわりがない。面倒と思うことさえ少なくなくて、空腹にならないのなら食事なんてしなくてもいいやって思う。日常生活なら、家にせよ外にせよ、食事の時間ってもったいないよなあってつね日頃考えていたりする。
　こだわりがないと書いたそばからなんだけど、食べなきゃならないならと考え始めるとそれなりに注文をつけ始める。例えば、肉が好きだ。魚はそれほど好きじゃない。刺身や寿司なんて最たるもので、自ら選ぶことはほとんどない。いや、嫌いなんじゃない。美味しいとも思う、もちろん。でも選んで食べたいというものじゃない。めちゃめちゃ美味しいお寿司屋さんと定食屋さんが並んでいても、定食屋に入って生姜焼き定食を食べる、そういうことだ。だから、こだわりはあるのかもしれない。

　ひとりで旅をしていると、まわりに気兼ねする必要がないものだから、チェーン店の牛丼屋を見つけたりすれば、あるじゃんあるじゃんと大喜びしてそれを食事にする。手軽だし美味しいしシステムや流れや勝手がわかってる。うどん屋しかり駅そば的な店しかり。
　あと、僕は洋食屋が好きなので、そういったお手軽チェーン店が見つけられなければ、まず洋食屋を探す。ハンバーグ、オムライス、ナポリタン──そういったものを今ふうではなく昔ながらの食事として供する店が好き。たいていは、必然的に個人店が多くなる。当たりもあれば外れだなと思うこともある。それもまた楽しみ。
　逆にサイクリングで人を連れ立って行くようなときは、食べるところをあらかじめ調べていく。地のものを取り入れる。漁港近くが旅先となれば当然ながら海鮮。刺身、寿司も率先して選ぶ。そう、嫌いなわけじゃないからね。美味しいと思うし。自ら選ばないだけだから、こういうときこそ食べないと。あとなるべく失敗がないようにと、このときばかりはいくつものサイトの口コミを見てみたりして。百点は狙わない。８０点を狙う。
　ただ僕のことをよくわかってくれている人とであれば、「牛丼屋ありますけど、食べちゃいましょうか」などと平気でいってしまったりするんだけど（笑）。

　ここでは自転車での旅を中心に書いているから、どうしてもそれが多いのだけど、他に鉄道や車でもちょこちょこと出かける。それぞれで若干カラーは異なる。
　個人店の洋食屋は小さな店だったりそれこそ自宅兼だったり、そんなことから駐車場を持たない店もあったりするので、車だと選択する機会は減る。逆に郊外ロードサイドに多く、駐車場も間違いなく完備している牛丼屋やうどん屋のチェーンを選びがち。車のときはファミレスも使う。洋食系が食べたくなったりしたらね。結局は定食で肉がしっかり食べられる松屋は最強だなって思ったりする。
　鉄道旅だと駅から遠いところまでは行けないから、牛丼屋チェーンやうどん屋チェーンは減る。首都圏にいると駅近くにある印象も強いけど、地方に行くとそれらはみんな大規模国道や県道のロードサイドに行ってしまう。駅前にないんだよね。逆に地域特色豊かな駅そばがあれば、間違いなくそこへ行く。鉄道旅の場合、どこに何時かがたいていはっきりしてるから、どの駅にそばがあるという事前インプットから選択だってしやすい。

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　まあ厳密かというとそうでもなくて、ひとりで刺身定食を食べるってときだってある（……はず、記憶がひも解けず、出てこないけど）。
　でもまたこれからも、さまざまな旅先で、牛丼を食べ、カレーやハンバーグやナポリタンを食べるんだろう。

　さあて次回は何を食べよう。