自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

湯田中自転車紀行(3)/番外編:自転車ごひいきの宿(Apr-2018)

 今回の旅で宿泊した、湯田中温泉の旅館、よろづやアネックス。駅前からの、むかしながらの風情ある温泉街の通りを進んだところにある。
 17時過ぎ。到着。
 僕が自転車を降りると、ガラスの向こうのロビーからUさんが手を振っている。かと思うと手招きをする。見るとそこには自転車が並べられていた。


 僕は自転車を押し、自動ドアをくぐった。フロントから、いらっしゃいませー、ようこそ、と迎えられた。
「お世話になります。中に置かせていただけるのですか?」
「はい。大切な自転車、ぜひロビーで保管させてください」
 ──へえ。


「ありがたいですね、これ」
 ちょうど少し前に着いて、自転車の荷を解いていたUさんにいった。
「本当、なかなかないことですよね。助かります」
 見ると、見慣れた自転車たちがきれいに重ねて置いてある。それでHさん、Aさん、Sさんが着いているのだとわかる。
「互い違いに重ねて、コンパクトに置きましょう」
 と荷解きを終えたUさんが自分の自転車を置きながらいった。早くもいろいろな旅の話が聞けそうな予感。
 Uさんが片づけを終えたあと、僕も必要なバッグや機器類を外して、自転車を重ねさせてもらった。

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 まずは温泉。
 ここの旅館は名物の「桃山風呂」なる壮大な浴場があるのだけど、男性はそれとは別の小じんまりした浴場。もちろんここでもふつうの大浴場である。ぬるめの浴槽があったのでそちらを選んで少し長めに入った。
 結果、のぼせそうになる。疲れがからだを支えられないみたい。
 桃山風呂は22時を境に、男女が入れ替わるそう。朝、入ってみよう。


 食事。
 7人がそろい、夕食の箸を進めつつ、それぞれの旅の話を聞く。渋峠越えもあれば、桜や菜の花の大満喫、グルメ、街散策から、林道山越えをしようとして結局雪に埋もれて断念、午後まで寝過してあわてて新幹線に乗り輪行のまま今着いた、などなど──。みんな本当によく調べて、それぞれの旅をじゅうぶん満喫している。あふれるほどの充実感が、言葉や口調から伝わってくる。いちいち聞かなくても、そんなことわかる。ひとり旅のプロたちが、思い思いの旅を語る。
 旅っていい。

 

 

 朝、また今日もいい天気だ。
 桃山風呂へ出かけてみる。
 格別の広さ。外に出てみるとあふれる朝日を受けた露天風呂。そこに浸かり、建物を見るとなるほどこれがとうなる純木造伽藍建築。重厚な景観を見て、「これはやっぱり内風呂だな」などといってまた中の風呂に戻る。朝飯前の温泉。きわめてぜいたく。伸びる。


 食事を終え、身支度を整えて荷物を持って部屋を出た。
 自転車旅の場合、そのあと自転車での荷づくりがある。ひと晩ロビーに置かせてもらった自転車にまた旅支度を整える。
 みんなで準備をしていると、そこへベテランの宿の方が現れた。ご宿泊ありがとうございました、と名刺を差し出す。常務とある。
「じつは私も自転車に乗っておりまして──」
 とわれわれの準備する自転車を見ながら嬉しそうに話す。「当旅館としてもサイクリストの方々にもっと安心して手軽に利用いただけるサービスを充実させて、アピールしていきたいところなんです」
 じゅうぶんありがたかったですとみんなからお礼の声があがる。
「所属しているクラブとも連携して、さまざまなサイクルイベントもこれからやっていこうと、企画しています。イベントだけじゃなくて、個人でサイクリングを楽しみたいという方にも、千曲川で飯山や須坂、野沢温泉や栄のほうまで、県内いい道をよく知っていますので、コースをご案内したり、またレンタルバイクなんかもはじめようと思っているところなんです」
 自転車熱がジンジン伝わってくる。
 当旅館でも町でも、とにかく自転車を盛り上げていきますんで、今後ともよろしくお願いしますと結んで、ぜひみなさんで写真を撮りましょうと促され、われわれはカメラに収まった。そして、みなさん問題なければ、当旅館のブログに使わせてくださいとなった。
 その日の夕方、帰りの電車ではもうその記事を確認することができた。

 

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 さあ、二日目の出発。
 僕は事前に準備していた、飯山線沿いのルートを走ることにした。
 ひとりで走るつもりにしていたのだけど、Kさんが一緒に行くといい、もう一グループの小布施・須坂めぐりルートと悩んでいたAさんも一緒に行くという。
 じゃあまずはみんなで駅まで行きましょう、と宿をあとにした。