自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

8速であること、下位コンポであること ─クラリス(Claris)その後─

 もともと105が付いていた完成車の自転車だった。10速時代の5600系。

 カーボンフレームで105が付いてっていう、時代で言えば「一般ユーザーにもカーボンの自転車を」の走りのころだった。だから、「でもカーボンなんだから105くらいから始めないと」って意識がメーカーサイドにもあったんじゃないかな。

 もうずいぶん使ったなあ、5600系105。8年? 9年?

 けっこう大事に乗っていたつもりで、調整も、整備も、まあそこそこやって、自転車屋さんに行くと「丁寧に乗るんですねえ、チェーンとギアや前後のブレーキを見るとわかるんですよ」って言われた。そんなもんかなあとは思ったけど、でも嬉しかった。

 そんな105もやっぱりガタが来たのか変速系の動作がおかしくなってきた。どう調整してもうまくいかなくなった。8年も9年も使えばさすがにってとこなのかな。


 それからの経緯はここでも何回か書いたとおりだけど、選択肢として、▽105を維持する(5800系になっていたので11速になる)、▽10速を維持する(家にあるラレーのクロモリロードがティアグラ装備なので部品融通も考えてのティアグラ想定)、▽家に使いもせず残ってる8速ソラ(SORA)を組む、この三つがあった。

 結局僕は転がってたソラで組み上げた。デュアルコントロールレバーとリアディレーラーとスプロケットを組みつけた。そのとき、チェーンはなかったから105の10速用をそのまま使った。クランクもそのまま、ブレーキも5600系は引き量が同じだったのでそのままにした。

 このソラ、3300系だった。

 だからそれまで付いていた105よりもさらに古いコンポで、初めのうち調子が良かったけど半年もしないくらいで不調から脱せなくなった。爪の変速レバー(懐かしい)にも慣れ、むしろこれもいいなと思い始めたころだった。

 そして数ヶ月前にせまられたのと同じ、三つの選択肢にまた悩むことになった。違ったのは三つ目の選択肢が「8速クラリスClaris)で組む」に変わったくらいだ。



 現在僕の自転車は8速クラリス、R2000系で組まれている。

 ブレーキだけはティアグラ。引き量が違って5600系105のブレーキは使えなかったから。105にするか悩んだんだけどラレーのクロモリで伊豆のアップダウンを走ってもまったく不安がなかったからティアグラにした。


「カーボンのフレームにクラリスなんてアンバランスだよ」

「8速なんてありえないっしょ」

「なんでわざわざ低級化するの?」

「こんなことする人見たことない」

 そんなことを周りから言われるんじゃないかって、不安があった。

 だから三つの選択肢で悩んだ。

 同時に、自分が意外とまわりの声を気にしちゃうんだなってことにも気づいた。


 でも、言われなかったよ。

 ネット上で一度言われたくらいかな。

 リアルに会う人は誰も言わない。──というか、人の自転車のコンポまで気にしてないみたい。

 僕が気にしすぎてたみたいだ。


 気が楽になった。

 僕は、8速が良かった。

 レースに出るわけじゃなし、イベントに出ることもない。だからマシン性能って僕にはあまり関係ない。競い合うこともなければ足切りの時間を気にする必要もないから。

 それに正直なところ105とソラとクラリスとで、その差がわからない。変速段数はわかるけど、性能差がわからない。テクトロのブレーキやむかしのソラのブレーキがにゅるってたわんで、力が抜けちゃうのはわかった(さすがに怖かった)けど、僕がわかる性能差ってせいぜいそれくらいかなあ。


 逆に旅に乗る自転車は8速であるほうが都合がいい、僕にとって。

 何といっても消耗品が安価だ。それに調整がある程度雑でもどうにかなる。これはきちんと調整しないって意味じゃなくて、出先で何らかのトラブルに見舞われたとき、応急処置でも対応できる幅が広いってこと。家に戻ってからきちんと調整すればいい。

 僕は、自らの意思で、8速クラリスを選択し組んでいる。


 クラリス自体も進化していて、僕が今年出たてに注文して組んだR2000系は、4700系ティアグラの8速版と言っていい。タッチもそっくりだし形状も同じだ。だから調整も同じようにできるしティアグラと乗り換えても感触に差がない。同じころ出たソラのR3000系も写真で見る限り同じような感じだから、今や同一製品系統の10速9速8速のラインナップと言っていいんじゃないかな。



 先々週富士スバルラインを上った。

 斜度が緩いと言われているスバルラインでは、確かに「ここのあいだにあと一枚(ギアが)欲しいな」と思う瞬間があったけど、なくてもどうにでもなる。じっさいどうにでもなったし、それを思って1分もたてば忘れてしまった。その程度だった。8速で全然事足りた。

 五合目に着き、そこで声をかけてくれた人としばらく話すなかで、ギア小さいですねと聞かれたのでそんなことないですよ25ですよと答えると、なら一緒ですねなぜ小さく見えるんだろうと言うから、8速だからでしょうかと答えた。ああなるほどそうなのかなと言われた。別に8速だからクラリスだからと言われることもなく、その人の友人が上ってくるまでのあいだ自転車談議に花が咲いた。


 自転車って面白いもので、フレームが部品を選ぶこともないしその逆もない。

 いいものを付けたいって欲求もわかるし、必要な人には上位グレードが必要なはず。でも下位グレードを付けていることがいけないとも思わないし、それで自転車のランクを決めようなどとも思わない。それにいろんな人と話してみて、そんなことを考えている人、意外といないんだなって思う。リアルの世界ではね。ネットは言いたいこと言って、そのまま言いっぱなしにできるから、そのトーンとインパクトの強さが頭に残るのだと思う。

 販売店やマスメディア、本なんかもステレオタイプなところがあるよね。このフレームに相応のコンポで組まれた一台、とか、いずれはコンポのグレードアップをしていくことになる、とか、そういうすり込みって商業的な部分もあるし、俺って知識ある一般論が言えるんだぞっていうパフォーマンスの部分もあったり、本質とは離れた主旨になっているんじゃないかな。

 自分にいちばん適したフレームを選んで、いちばん適したコンポで組む。これでいいんだよ。フレームにこだわりたければフレームだけ抜群にいいものを選ぶっていうものありだし、フレームにこだわりがないけど機械性能は気になるんだよねってなればコンポは上位グレードでっていう選択だってあると思う。完成車のままでよければそのままがいい。通販で買ったアルミソラ組みの完成車のまま、特に何ひとつ気にも留めることなく「ちょっと大阪行ってくる」とか言って往復してきちゃった人(埼玉の方だった)を見て、感動したこともあった。


 今乗っていてめっちゃ気持ちいい。楽しい。

 この自転車まだまだ乗れるかな。まだまだ乗りたいな。