自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

ハイセイコー食堂

 ネーミングと看板と建屋の三位一体が紛れもなく定食屋だ。疑う余地なし。栃木県日光市、国道121号。龍王峡を経て鬼怒川に向かう上り線でこれが目に飛び込んでくる。

 僕がこの店を目にして、記憶にとどめてもう30年になる。

 塩原や鶏頂山あるいは会津高原といったスキー場からの帰りにここを目にした。でもいつだってのれんは出てなくて、ガラス戸、窓にはカーテンが引かれていた。

 そりゃスキーの帰りだからね、時間は早いときでも17時。16時のときもあったかな。日もとっぷり暮れた夜はもちろん、まだ空に日の名残りがあるその時間でも店ののれんを見たことがなかった。

 ──でも、いったいいつやってるんだ?


 もう潰れているのかもしれないぞと思ったことだって何度もある。放置された廃墟? 今でいう鬼怒川温泉の大旅館にも通じていた印象は、あるとき看板が一新されたのを見たことで払しょくされた。

 でもそれも確か10年以上前の話。

 気にばかり引っかかってる。



 ようやく、ようやく、ようやく……、訪れる機会を得た。

 今市、鬼怒川、川治地区をサイクリングしていたとき、ちょうど昼過ぎにここを通った。グッドタイミングなことに食事が済んでいないし、きわめて空腹。最良の期を得た僕は迷わず自転車を駐車場に滑り込ませた。

 ばあちゃんが柔らかいトーンでいらっしゃいませと言った。僕がこんにちはと言うと今度は中からじいちゃんがいらっしゃいませと言った。

「しょうが焼き定食を──」

 美味いので空腹に任せて食べるのだけど、他の客が頼んでいるとんかつだとかラーメンだとか、そんなものが気になって仕方がない。まあね、また来ればいいね。


 ──そうは言ったものの、30年にして初めてなんだよ。いったい次はいつなんだよ。