自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

秩父ミューズパーク・春

 秩父の高台にあるミューズパークという公園、ここを最初に訪れたのは昨年の秋だった。

 秩父ミューズパークは中を自転車でも楽しめる公園で、レンタサイクルも用意されていることは知っていた。とはいうものの、規模的には南北に4キロばかりで、国営のひたち海浜公園や森林公園にはおよばない。おまけにひたち海浜公園や森林公園に自転車目的で出かけることなどもう10年以上まったくなかったこともあって、公園を自転車で走ること自体、対象として見ていなかったのだ。

 そこへ昨年の秋に出かけたのは、晩秋のイチョウ並木を眺めようと思ったから。自転車に乗ることが目的じゃなく、でも自転車を持っていった。歩けない園内ではないけれど、自転車を園内での移動手段として、持っていった。


 それは見事なイチョウ並木だった。


 今回の動機はまた違う。

 朝、自転車が手もとになかった。しばらく原因が特定できない異音があって、前日、自転車屋に預けてきたのだ。それから、休日にやろうとため込んでいたことが山崩れを起こし、そのひとつが車のタイヤ交換だった。冬のスタッドレスタイヤ夏タイヤに換える必要があった。自転車もなく、とうてい朝からサイクリングに出かけられる一日にはできなかった。

 そんなわけで、朝いちばんからまず車のタイヤを交換し、そのまま車で自転車屋に向かった。開店少し前ながら快く奥から自転車を出してきてくれ、原因もわかり異音も消えたのだと言う。じゃあ試走したほうがいいですねといい、礼を言って受け取ると車の荷室に積んだ。

 車のタイヤは昨年の夏にも使っていたものだけど、交換したことだし、確認も含めて少し走らせてみようと思った。それからどこかで自転車も軽く乗る。──秩父へ行こうと思った。車に乗る距離もちょうどいい。自転車にはがっつり乗るのではなく、となればミューズパークでも行ってみようかと思った。

 ポカポカとあたたかい、日差しを受けていると暑いと感じるほどの一日だった。

 イチョウのない季節、秩父ミューズパークはどうなっているのだろうと思って園内を走ると、桜の花びらが風に舞っていた。桜並木があった。

 ──桜なんかあったんだ、この公園。しかもこんなにも。

 秋のイチョウ並木を見たとき、この並木にほかの木があるなんて想像できなかった。なにしろびっしり、イチョウが黄金色にすき間なく覆い尽くしていたから。

 桜は三分の一くらいだろうか、すでに散っていた。でも関東の平野部──たとえば僕の住むマンションにある桜などがそうだ── のように、もう葉桜になってしまっているというほどじゃない。若干ながら標高が高いせいだろうか。花はまだまだ見ごたえがある。

 風が吹くと花びらが派手に舞う。まさに花吹雪。

 桜は、散りゆくときがいちばんきれいだ。

 お花見となると、待ちきれない春を急ぐように、つぼみの桜のもとでもこぞって始める人が多いけど、散りゆくころになると、咲き初めよりも少ないのはなぜだろう。動きのない、つぼみや花開いてから満開に向かうころよりも、風が吹くたびに降り注ぐ花びらのときのほうが僕は好きだ。時間の流れのなかで黙って見ていても飽きさせない、心をつかむものを感じる。


 サイクリングは園内往復わずか8キロ。そこを歩くような速度で。舞った花びらが肩に乗るほどの速度で。こんなサイクリングがあってもいい。



ミューズパークの桜。イチョウのころより人が少なく感じられるのは、
日曜の午後だからか、桜がもうずいぶん散ったからか。


桜越しに武甲山を望む。


園内をスカイトレインが走る。


スイセンもウリらしく、ちょうど満開なり。


秋を彩るいちょうが、その形を想像させる芽を吹いていた。


秩父ミューズパークに行く前に昼食で立ち寄った、珈琲とカレーの店、
CARNET(カルネ)。


ランチに、カレーとコーヒーを飲む。


静かできれいで落ち着いていて、よく磨き上げられた空間と時間。


ミューズパークを出たあと、温泉に寄ったりしてたものだから、夕飯を食いそびれる。
昼がカレーだったからと秩父そばばかり意識していたら、どこも店じまいが早い。
やっと見つけたお店、英太郎。


こちらは蔵を改造した店づくり。


やっとありつけた蕎麦。


車を走らせていると、点在する山桜が目を引く。
有名な桜や圧倒される並木もいいけれど、こうやってぽつんと、
でもここぞとばかりに咲き誇っている桜はいい。