自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

OVE-マクロビランチを食べる

 ここがカフェだと通りすがりに気づくのは難しい。扉が閉まっていれば店のなかをのぞくこともないし、通りから見た窓越しの店内もせいぜいクリエイターズ系のオフィスかなにかだろうと連想して通り過ぎるに違いない。

 OVE。

 南青山。シマノが運営しているカフェだ。

 

 本当は輪行サイクリングに出かけようと思っていた週末だった。少しだけのんびり起きた朝、それをやめて都内を走っていた。OVEとやらに行ってみよう、そう思って。

 南青山へ向かう前に、新宿から代々木公園に寄り道した。園内をぐるりとまわると、大きな段ボールで作られた仮設のごみ箱と、芝生を覆い尽くすブルーシート。そしていくつかのグループがあちらこちらで円座する。

 なるほど上を見上げれば桜の木だった。いくつか花をつけた木がある。ソメイヨシノのよう。でもまだまだ大半がつぼみで、桜の枝はどれもまだ寒々しい(じっさい気温も低い)。

 とはいえ、花見に理由はいらない。桜の木があればいいのだ。

 

 桜ゾーンを抜けても芝生ではピクニック、子連れでボール遊び、音楽や大道芸と、じつに自由で多彩な週末の活動が繰り広げられている。さすが都内の大きな公園だと思った。埼玉の越谷の公園じゃ、規模がこれくらいあったとしてもこうはいかない。本当にいろいろな人種のるつば、東京を実感した。

 しかし代々木公園ってところは広い。古くからある名前だけは知っている公園ながら、園内を自転車で押して歩くだけで目新しく思えた。

 

 

 代々木公園を出ると原宿駅前。

 またここもあふれんばかりの人と、違った空気。いろいろな人といろいろなエネルギーが集まっている。

 僕は駅を横目に、表参道を下り、そして上った。

 大きな青山通りを横切り、さらに路地へ進む。

 表参道ヒルズプラダ……、なんて場違いなところにいるのだろう、そう思った。

 

 OVEの扉を開くとまず種々のバイクラックが並んでいる。こんにちはと店員とあいさつを交わし、自転車を置く場所を確認して入り口脇の立てるタイプに自転車を置いた。そして、

「ランチは12時からになるのですが、どうぞかけてくつろいでください」

 と案内された。

 座った席の脇に、ツール・ド・フランスで使われるラピエールの自転車(選手のスペアバイクだそうだ)がある。店内を歩きまわってみると、自転車の本、フリーマガジンやイベントのパンフレットが見きれないほどたくさん置かれている。

 僕のような自転車で来た客もいる。自転車とは全く関係なく、南青山のカフェヘ来たのだというふうな客もいる。自転車を店内に置くことができ、自転車の情報発信を前面に押し出しながら、自転車くささのない、街のカフェとして成立している。

 しまなみ、石鎚、西予、南予――愛媛県のパンフレットが多いことに気づいた。

「先日、愛媛の自転車PRをするイベントをここでやったんです。それで今は愛媛の情報がたくさんあるんです」

 なぜ愛媛ばかりなのでしょうと僕が聞くと、そう女性が説明した。母の故郷が愛媛県で、子供のころから成人するころまでよく行っていたので、親近感が湧いた。そして、愛媛を自転車で走ってみたいと思った。

「お食事、ご用意できました」

 パンフレットをひとつひとつ手に取り、ながめていたら、背中越しに声をかけられた。

 

 さあ、マクロビのランチを食べよう。