自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

冬よ、グッドバイ

 梅が咲き、河津なんかの早咲きの桜が咲き、やがてソメイヨシノ桜前線が天気予報に登場する。暖かい日もあらわれ、それにつられて人びとは春を探しに出かける。

 テレビも、人も、みな春を迎える話題だ。春一番が吹き、さまざまな花の写真や映像で、マスメディアもネット上も色づく。

 気分も明るくなる。

 僕自身も、いよいよ自転車に乗れる、たくさん旅に出ようとうれしくなる。

 

 僕は寒さが苦手で、冬のあいだまるで行動を制限されたように動きが鈍くなるのだ。自転車に乗る機会も減るし、乗ってもいいことがあまりなかったりする。この季節のお出かけするなら鉄道や車に限る。そしてその寒がりは誰よりもひどいらしく、ひとりで「寒い、寒い」と言ってばかりである。

 不思議なものでそんな体質なのにかつてはスキーをやっていた。けっこう入れ込んでいて、週末になるとそのたびに雪があって天気のいいゲレンデを目指して出かけていた。でもやっばり寒いのは嫌で、出向くスキー場を選ぶのも天気がいいという視点がはじめに入るし、着いてみて寒ければ──それはたいてい雪が強く降っているか、風が強いか、だ──滑るのをやめてレストハウスに一日じゅうこもるのだ。──そんなスキーも今はすっかり付き合い程度になってしまい、みずから進んででかけることももうない。

 そうなると、生活はまるで冬眠状態である。

 

 なのに、冬景色がことのほか好きだ。

 雪や氷におおわれた風景のなかにいるとからっぽになれる。雪のない冬枯れの大地も悪くはないけれど、やっぱり雪がいい。白くて、音をみな吸い込んで、澄んでいる。

 冬は、冬景色を見に出かける。

 

 春を迎え入れるこの時期、僕は冬に別れを告げている。

 そういうときだ。

 グッドバイ。また今度。