自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

小径(こみち)の魅力

 ダイナミックな山岳道路や吸い込まれそうな海岸線、道路以外に人工物などなにひとつないという林道、そういうのも大好きなんだけど、小径も好きだ。

 小径に僕の定義はなく感覚的なもの。昔からそこにあったと思われる細い道や地元道。市町村道が多いだろうか。林道や農道のこともあるし、まれに県道や道路法上で言う里道(りどう=赤線)だったりすることもある。

 センターラインなどなく、多くはせいぜい車1、2台ぶんくらいの道。どこからどこに抜けるという道ではないから長くない。すぐほかの道に突き当たる。だから快走してロングライドを楽しむという雰囲気にはならない。まるで道に迷ってるんじゃないかってふうにクネクネクネと走る。くねくね。

 僕はサイクリングにロードバイクを使っているからいささか(いやかなり)不釣り合いだけど、自転車を1台しか持てないのだから仕方がない。でも走って楽しいんだからそれでいい。

 

 小径を意識するようになったのは、千葉県の印旛地区を走っていたときだったと思う。

 もちろんそれまでも小径を走ることはあっただろうし、そのたびにいい道だなと思っていたに違いないけど、小径っていいぞって限定的に思ったのはこのときだったよう。

 そのときは、吉高の大サクラを見に行った。別に桜の季節でも何でもなく、ただその木を見に行った。印旛沼から少しだけサイクリングロードを走り、印旛の丘陵部へ入った。道は細く、こまかく折れ曲がって広大な敷地を持つ屋敷のあいだを抜けていくような道だった。一度県道に出て吉高への道をたどる。そこもまた道が細く、車での利用者は軽自動車が大半のようだった(大きな車は走れるのだろうかって道もあった)。

 大サクラを見終えてさらに走ってゆくと台地の“へり”へ出た。そこは下を流れる印旛捷水路に向かってすとんと落ちる、まるで崖のような“へり”で、渓谷のような川と対岸にある台地、北印旛沼方向に広がる水田地帯が一望できた。広がる水田の向こうへ数年前に開通した成田スカイアクセス線の真新しい新幹線のような軌道が貫いていた。

 吉高から松虫に抜けた。いずれも小径をつないで、農家の生け垣の脇や林のなかをぬけて走った。松虫は、千葉ニュータウンからの区画整理の触手が伸びてきていた。交通量の少ない、大きな分離帯を持つ幅広の片側二車線道路が敷かれ、僕の走ってきた小径はやがて予告もなく吸収された。

 

 この日のサイクリングはわずか30キロあまりだった。ロードバイク乗りからするとサイクリングとさえ言わない人もいるかもしれない。でも、楽しかった。小径の風景、空気感がやわらかくて、時速10キロ台で走っていた。いま思えばママチャリと変わらない。

 

 

 小径に出かけるようになったのは、ひとえにGPSマップの力によるところが大きい。僕がふだん眺めているツーリングマップル(14万分の1)にはこんな道は載っていないことが多いし、2万5千分の1の地図を手に持っていたとしても、地図を見たり道に迷わないよう気をつけたりすることを考えると、きっとサイクリングには選ばないと思う。

 GPSマップにルートを入れておき、現在地を確認しながら走れるようになったからこそ、道として選択できるようになったのだって言える。

 

 小径を、小径車で走るのは、絵的にもフイツトするだろうなあ(いや、ダジャレじゃなく)。

 

(吉高の大サクラを見に行って走った小径)