自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

山と海

 山と海、どちらが好きですか。

 もちろん、どちらも好きです。

 

 山は緑のなか、その先そびえる頂を越えんとする道をたどり、徐々に空に近づいていることを感じる。ピークにたどり着いて見る風景──これがまったく眺望のない峠も意外と多かったりするけれど──。季節ごとの色や花を見せてくれる木々は上りゆく道のその標高や方角でまったく違ったシーンを見せる。

 それとなにより好きなのは、双方で行き来の少ない峠だったりするとその手前と向こうでまったく違う情景を見せてくれること。建物の形や集落の作り方、道路だって県境を越えて管理が変われば同じ道路とは思えない造りをしていることだってある。言葉の違いや文化の違い。人と触れ合えばもちろん、触れ合わなくったってその土地の空気に触れるとそれが肌越しに感じられる。峠を越えるとそれぞれのガラリと変わる雰囲気が面白く愉しい。

 

 海は広い空とセットで目に飛び込んでくる大きすぎる風景。遠近感を失い近くのものから遠くの果てまで一枚のボードのうえにどんと収めてあるような錯覚。延々と続く砂浜にせよ、岩肌一枚いちまいに表情がある荒磯にせよ、何といっても風景に尽きる。

 そして街だ。僕は海のない埼玉県で生まれ育ったせいなのか、海の街に強い非日常や旅情を感じる。距離に関係なく街に立ったなら遥遠なる場所へやってきた感覚だ。海水浴観光の街であれば駅前から海に向かう道すがらの商店が軒に下げた浮き輪、漁港の街であれば漁から帰った船が静かに波に揺れるさま、そんな自分の生活時間のなかには存在しない光景が、僕をかき立ててやまない。

 

 決めているわけじゃないけれど、春から秋にかけて山に出かけることが多い。冬は自転車で山に行くことはできないから──スパイクタイヤを履いたマウンテンで出かける人もいるけれど、僕はそこまでしていない──。その反動なのかどうか、冬以外は山が多いように思う。逆に海の比率は冬にぐんと上がる。寒い季節、南方の海は暖かいんじゃないかって意識もある。一年を総じていうと山が多いように思う。

 ただ海と山とではサイクリングの構成上若干色合いが違うように思う。海は目的地になりがち。何とか岬だとかなにがし砂丘だとか。たいして山はルートの一部に組み入れられていることが多い。どこそこに向かうためになんとか峠を越えたとか。あるいは道そのものを楽しみたいと考えて出かけたとき、その道は何とか山を延々と貫いていくとか。そういう違いはある。海へ向かうために山を越えていくっていうルート設定もふつうにあるしね。

 そこで得られる感動は山にしたって海にしたって同じだけど。

 

 今年も山に海に出かけよう。

 早く暖かくなってもらって。