自転車旅CAFE

自転車旅を中心とした紀行文、紀行小説

輪行サイクリング時の荷物/宿泊編

 よくサイクリングにご一緒させていただく友人のUさんが、出かけるたび「ナガヤマさんって本当にいつでも手ぶらなんですね」と言いながらデイパックを背負ったりショルダー型のバッグをかけたりしていた。「楽ちんなのはわかるんで徐々に荷物を減らしていってるんです」というUさんは、確かにサイクリングに出かけるたびに荷物がコンパクトになり、身に着けるバッグが小さなものに変わっていった。

 

 今年の春、Uさんと宿泊をともなうサイクリングに出かけた。僕はふだんの日帰りサイクリングの荷物を自転車にくくり付けたまま、お泊まリセットをデイパックに入れて背負った。待ち合わせの郡山駅に現れたUさんが輪行の荷を解き、自転車を組み上げて片づけた結果、Uさんは手ぶらだった。──正直びっくりした。

 

 僕がこれまで宿泊サイクリングでの荷物スタイルは次のふたつだった。

 (1)シートポストキャリアをつけ、10Lのバッグをつける

 (2)デイパックで背負う

 もともとは(1)のことが多かった。それはやっぱり手ぶらで走りたくて。でもこれって意外と重い。まずシートポストキャリア自体がかなりの重量があるうえに、10Lのバッグを載せるのだ。そりゃそうだ。

 自転車は、走り出してしまえばある程度の重みは感じなくなるものだけど、この重さが影響するのはバランス。特に上り坂で、後方の重量増を感じる。それと立ちこぎ(ダンシング)。大きく後方に張り出した重量物は自転車を上手く振らせてくれない。ゆえに立ちこぎが上手くできず仕方なくサドルにまた座るのだ。上り坂でシッティング縛りはなかなかつらい。

 これらをつけると、サドルバッグの行き場がなくなる。前回書いたように僕のサドルバッグにはタイヤレバー、替えチューブ、パンク修理キットとスモールパーツ、それから携帯工具が入っている。これを出して10Lバッグのお泊まリセットのなかに一緒に入れるのが気が引けて──きれいな着替えの横に黒ずんだタイヤレバーや替えチューブがあるのはどうもねえ──、このときばかりはツール缶に入れた。ボトルケージに挿せる筒状の自由収納缶だ。今度はこれによって輪行袋が追い出される。僕のボトルケージふたつはふだんボトルと輪行袋が入っているから、どちらを追い出すのかとなれば輪行袋だろう。輪行袋は10Lバッグの天板にある、ゴムロープのネットに挟んで走った。

(シートポストキャリア、10Lキャリアバッグ、ツール缶)

輪行袋は10Lキャリアバッグの天板に挟んでいた)

 

 このスタイルは輪行時に不利だ。バッグを外すのはマジックテープで留めているだけなので簡単だけど、輪行袋に収めるためにはシートポストキャリア自体を外さないといけない。外したシートポストキャリアを逆向きに取り付け、トップチューブに沿わせて輪行袋に収める工夫をしていたけれど、やがてそれが面倒になってバッグをつけたままシートポストキャリアを外しそのまま手で持つといういささか暴力的な風体で列車に乗っていた。

 そしてこのスタイルでトラブルも生まれた。キャリアバッグの天板に挟んでいた輪行袋をサイクリング中に落としたのだ。おそらく走行中にすり抜けて落ちてしまったよう。自走で帰る計画ならともかく、あるいは都市部スポーツ自転車店のある街を通るならともかく、このとき青森県の両半島を楽しもうと走っていた僕は計画変更を余儀なくされた。もっともこの旅はそれ以外にもかなりさんざんな目に遭い、結果的に青森の両半島を何ひとつ制覇できず旅を終えた哀しい思い出でもある(→旧ブログ:青森自転車紀行)。

 

 確かシートポストキャリアを使ったのはこの青森の旅が最後だったと思う。よほどこたえたんだろう。

 それ以来、宿泊サイクリングは(2)のデイパックを使うスタイルになった。おそらく大半の人がそうである、オーソドックスなスタイルだ。

 

 とはいえふだんの日帰リサイクリングは手ぶらで走り、宿泊サイクリングでも荷物を自転車にくくり付けて自分自身は手ぶらだったスタイルだから、背中に荷物がやってくればそれは負担だ。おかげでルーズだったお泊まりセットの荷物の少量化を図るようになった。あわせて背負うバッグもできるだけ小さいほうが楽だ。荷物を減らし、バッグも小さくした。

(最終的に使っていたデイパツク、できればもっと小さくしたいと思っていた)

 

 さて少し脱線するけれど、お泊まりセットとなるとここ数年で大きく変わった点がある。

 電池や充電の機器類だ。

 まず携帯電話がいわゆるガラケーからスマートフォンになった。ガラのときは一度満充電すればよほど電話でもかけない限り、圏外の多い三ケタ国道を走っても二日三日は持った。それがスマートフォンになって充電の持続は一日。僕はあまり使わなければ一日以上持つけれど、じゃあ二日持つかというと疑問だ。必然的に充電用にプラグや線が必要になった。

 それ以外にもGPSマップを使うようになり、地図を持たなくなったから、GPSマップの電源を切らすわけにもいかない。だからこの充電も必要。今はGPSマップがガーミンなので乾電池でもオーケーなわけだけど、充電式の電池を使っているから充電器も持ち歩いている。宿泊サイクリングのときだけは乾電池を使えばいいのだろうけどね。

 デジタルカメラも充電、ヘッドライトも充電、リアフラッシャーも充電、こうなるともう充電天国だ──。

 そしてこれだけの充電をするためのコンセントなんて宿にはまずないから、タコ足するための三ツロタップを持っていく。また荷物が増える。

 

 ふう──。書いただけでやれやれと思う。

 なんなのだこの電気電子支配生活は……。

 

 話を戻そう。

 郡山駅に現れたUさんが手ぶら宿泊サイクリングを実現させたグツズはこれだった。

(大容量サドルバッグ・「FAIRWEATHERサドルバッグ」)

 大容量サドルバッグというとこれまで、にっぽん縦断こころ旅の火野正平氏が使っているキャラダイスのような形がスタンダードだった。バッグの容量も各種そろっているのだけど、バリバリのロードには似合わないと言われている(まあ僕は気にしないところですが)のと、バッグサポーターという金具を別途取り付ける必要があって、踏み出せずにいた。

 しかしこのバッグの場合、まずバッグサポーターがいらないという。ふだんつけているサドルバッグ同様、シートレールとシートポストに固定し、硬く補強された部分と紐の考えられた取りまわしできっちり安定する。形もおそらく、強度と型崩れを考えて計算されたものなのだろう。

 

 じっさい今「大容量サドルバッグ」と入れて検索すると同様のバッグが多く照会できる。

「むかしはsuewっていうものくらいしかなかったようですけど、いくつか出てきました」

 とそのときUさんは僕に言った。

 そして今検索するとさらに増えていて、いくつもの同様のサドルバッグが見つけられる。この形に特化した新鋭から、老舗バッグメーカーやサイクル用品メーカーまでも続々参入している。

 すなわち、マーケットが求めていたのだろう。

 

「9Lどころか、上手く入れればもっと入るような気がします」

 とUさんは言う。

 

 僕はいくつかの大容量サドルバッグを検索し比較してみてやっぱりUさんが使っているやつにしようと決めた。決め手はほぼ形……。そしてメーカーサイトでは入荷待ちの表示が出続けていた。日々チェックし、それが在庫ありに変わった日、すかさず注文した。

(手もとにやって来たFAIRWEATHERサドルバッグ)

 ──残念ながら、このサドルバッグを手に入れてからまだ宿泊サイクリングに入っていない。残念だ。早くその機会を作らなきゃ。